【自動車用語辞典:ステアリング「油圧パワーステアリング」】操舵をオイルポンプの油圧で補助するステアリング機構

■エンジンで駆動するオイルポンプの力を利用

●燃費悪化を伴う点がデメリット

ステアリングホイールの操作力を補助するために、油圧やモーターを使うのがパワーステアリングです。油圧式と電動式の2種類があり、現在はほとんどのクルマが採用している標準的な技術です。まずは油圧パワーステアリングの仕組みや特徴について、解説していきます。

●油圧パワーステアリングとは

油圧式パワーステアリングは、エンジンで駆動するオイルポンプが発生する油圧を利用して、ステアリング操作を軽減するようにアシストします。具体的には、オイルポンプの油圧をパワーシリンダーに導いて、ステアリング操作に連動している横方向のラックの機械的な動作をアシストします。

油圧を発生させるパワーステアリング用ポンプは、エンジンのクランクシャフトによってベルト駆動で回されます。

ステアリングの操作力は、低速では操作性を重視して軽く、高速では安全性を重視して少し重くなるように設定します。したがってアシストのための油圧は、低速では強く、高速では弱くなるように制御しています。

●油圧パワーステアリングの仕組み

油圧パワーステアリングは、ステアリング操作と連動したラックの横方向の動きを、ラックと一体となっているパワーシリンダーの油圧でアシストする機構です。

オイルポンプで発生した油圧は、ステアリングギアボックスに送られ、中にあるロータリーバルブによってパワーシリンダーに流れ込む流量の制御を行います。ここで路面反力に応じた流量制御と、操舵方向の流路の切り換えが行われます。

ギアボックスのピニオンシャフトは二重になっており、双方はトーションバー(捩じり棒バネ)によって連結されています。ステアリング操作に伴う路面反力の大きさに応じてピニオンのトーションバーが捻じれて、ロータリーバルブの通路が切り換わる仕組みになっています。

●油圧パワーステアリングの作動原理

直進など、ステアリングを切らない(路面から反力がない)ときには、パワーシリンダーに作動油が流れ込まないように、バイパスからポンプに戻してポンプの負荷を小さくしています。

ステアリングを切るとロータリーバルブのローターが回り、トーションバーは捻じれて、ローターハウジングとピニオンギアは少し遅れて回りオイル通路が開きます。ステアリングに加わる力が大きければ(大きく切る)捻じれも大きくなり、オイル通路も大きくなってパワーピストンへの油量が増えるのでステアリングが軽くなります。

ハンドルを少し切る(高速)と捻じれも小さく、バルブの開きも小さくて油量も少ないので、ステアリングは重くなります。
バイパス流量が過剰になるとソレノイドバルブが働いて一部をリザーバーに戻します。

トーションバーはステアリングを回している時は捻じれますが、操作を止めるとローターに捻じれで遅れていたハウジングが追いつきます。これにより、バルブの送油通路は断たれ、パワーピストンの左右は同圧になります。


最近のクルマには、ほぼ100%パワーステアリング機構が装備されています。また、油圧式は燃費悪化を伴うので、次項で解説の電動式パワーステアリングが主流になりつつあります。

この背景には、燃費規制の強化とLKA(車線維持支援)など運転支援技術の実用化があります。ステアリング機構にも、電動化の大きな波が押し寄せています。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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