バーチャルをリアルに近づける時代からリアルをバーチャルに取り込む時代へトヨタが誘うCAN-Gateway ECU

グランツーリスモ、Forzamotorsportなど、コンピュータゲームの世界では実車と見分けがつかないどころか、それ以上といえるくらい映像が奇麗になっているのはご存知の通り。

しかも、その車両の動きを現実に近くシミュレートする再現性は、一部実際の車両開発にも使用されるといわれています。

そのように、現実に存在するものを机上に持ってくることはこれまでにもありますが、お手軽というわけではなかったようです。

今回発表したCAN-Gateway ECUを解説する多田哲哉チーフエンジニア

今回、トヨタが発表したCAN-Gateway ECUはそれを誰にも簡単に可能とするほか、様々なクルマの楽しみを広げてくれそうです。

iPhoneの成功に例えハードウェアとソフトの両輪が必要と解析
スポーツカーの場合は、車両開発と販売、文化の提供などが必要と分析

CAN-Gateway ECUは、自動車の様々な信号、例えばステアリングを切っている角度、アクセルの開度、ブレーキの踏力などを外部に取り出すことができるようにするものです。そういった車両情報は車両をコントロールするために本来必要なもので、ABSやVSCなどの車体安定制御などにも実際に使われています。その信号の規格をCANと呼び、トヨタに限らず世界的な標準となっています。

CAN-Gateway ECUは本体、作動スイッチ、GPSアンテナ、USBポートから構成される

その信号を取り出すとできることは、まずは走行シーンの再現。

操作はスイッチのみ
サーキット走行
USBメモリに走行データをコピーする

サーキット走行などで、コース上のどのラインを通ったかはもちろん、ゲームで走ったかのように再現しています。ビデオで撮ったのと違い、マルチアングルに視点切り替えもできるし、外部から撮った映像にすることも技術的に可能です。今回はグランツーリスモ内の映像で再現しています。

サーキット走行の本格的トレーニングにも使えるし、ゆくゆくはツーリングした場所の景色を重ね合わせることも可能でしょう。

また、CANでやり取りされる情報をモニターすることもできます。

スマートフォンのアプリによって、タコメーターを表示させることはもちろん、スロットル開度やブレーキ圧など、標準装備になりにくい情報のメーターをあとから追加できるというわけです。

スマートフォンにタコメータを表示させた例

少し詳しい方ならご存知でしょうが、こうしたアプリでスマホをメーターにするというものは、診断端子のOBD II(2)から情報を取り出すものがありますが、CANからのほうがより多くの情報を取り出せるメリットがあるそうです。

USBにBluetoothチップを繋いでスマホと連携

サーキット走行のシミュレータやスマホによる後付けメーターなどの発想事態はこれまでもあったし、驚くような事実ではありませんが、この「情報取り出し口」を大メーカーのトヨタがやっているということが画期的だと思われます。さらに、その利用方法をユーザー、ショップ、サードパーティで自由に考えてやってほしい、という部分も今までに無い発想です。

トヨタは86の発売時に、スポーツカーユーザーのために作って売る側としてできることをやっていく、と宣言していますが、これこそまさにメーカーとしてやれる楽しみを増やすためのアイテムです。

その先の使い道を限定していないのもいいですね。

将来の展開は世界中のユーザーと走行データのやり取り、省燃費運転の基準などにも使える

まずは、86向けとして開発されていますが、CANはすべてのトヨタ車に共通のはずなので、他車種流用も可能なはず。さらには他社の車両にも展開は考えられます。

従来、日本のメーカーの発想は、欧米などに比べ他社製品を持ち込ませない傾向にありましたが、それがさまざまな自動車文化の発展の障害になっていた部分はあったと思います。スポーツカーが特殊なクルマとなってしまった日本の市場において、86の発売やその他周辺環境をトヨタが整えてくれることは自動車好きとしてとても喜ばしいことですね。

(小林和久)

 

この記事の著者

編集長 小林和久 近影

編集長 小林和久

子供の頃から自動車に興味を持ち、それを作る側になりたくて工学部に進み、某自動車部品メーカへの就職を決めかけていたのに広い視野で車が見られなくなりそうだと思い辞退。他業界へ就職するも、働き出すと出身学部や理系や文系など関係ないと思い、出版社である三栄書房へ。
その後、硬め柔らかめ色々な自動車雑誌を(たらい回しに?)経たおかげで、広く(浅く?)車の知識が身に付くことに。2010年12月のクリッカー「創刊」より編集長を務める。大きい、小さい、速い、遅いなど極端な車がホントは好き。
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