■気候変動に対抗するためのCO2削減はロックダウン並みの経済的犠牲が必要!?
新型コロナウイルスの感染拡大に対抗するため、欧州などでは都市部のロックダウン(封鎖)が実施され、経済活動がギリギリまで縮小しています。
日本では「コロナ禍」といった表現もありますが、ロックダウンによる経済的ダメージの大きさは非常に大きく、アフターコロナ・ウィズコロナの世界が、どのように経済的ダメージから立ち直るのか、大きな課題となると指摘する声も小さくありません。
実際、IEA(国際エネルギー機関)によると、新型コロナウイルスへの対応により世界のCO2(二酸化炭素)排出量は前年比で8%も減少すると報道されています。地球の気候変動を抑えるためにパリ協定では毎年7.6%のCO2排出量減が必要であると不可能とも思われる高い目標が掲げられていましたが、それをクリアしてしまったことになります。
もっともパリ協定の目標が不可能に近いという評価も正しかったことも証明されました。気候変動を抑えるためには、これほどの経済的ダメージを今後10年間負い続ける必要があるということだからです。この状況を10年続けるというのは、当然ながら現実的ではありません。
ならばパリ協定での目標を諦めて、気温上昇をするに任せるという判断ができないのも現代人です。
まともに真正面からCO2排出量を削減しようとすると、今回のコロナ禍での経済的ダメージを受けることが誰の目にも明らかなカタチでわかったのですから、ダメージを受けないようにCO2排出量を減らす努力が必要になります。
そうなると現実的な解を求めるというマインドになると考えられます。たとえば、クルマにおけるCO2排出量の削減について、極論でいえば「すべてをEVにして、再生可能エネルギーの電力によって運用する」というのは満点解答かもしれませんが、それは現実的とはいえません。
おそらく2020年代の、少なくとも前半においてはコストとCO2削減効果のウェルバランスとなるのはハイブリッドカーといえるでしょう。
実際、最新のハイブリッドカーの代表としてWLTCモード燃費36.0km/Lを実現したトヨタ・ヤリスハイブリッドのCO2排出量はわずか64g/kmとなっています。世界中の乗用車がこのレベルになれば、パーソナルモビリティの分野としてはパリ協定の目標達成に貢献できると考えられます。
走行時のCO2排出量でいえば電気自動車や燃料電池車といったゼロエミッションビークルのほうが有利な面もありますが、世界的な削減のためには普及しなくては意味がありません。その点でも、ハイブリッドカーであれば車両価格も十分な普及が可能なレベルになっています。
少し前まではエキセントリックな主張をする環境派の声が大きかったのですが、その通りにするとこれだけの経済的ダメージがあると多くの大衆が肌で感じてしまった今、そうした極論では共感を呼べないといえます。
ですから、満点解答ながら高コストな手法(ゼロエミッション化)ではなく、ほどほどの負担で実現可能な手段を取るべきと大衆は求めるようになると考えられます。
●当面の現実的な解はハイブリッドカーになるといえるのです。
また、ロックダウンにより都市部の空気がきれいになったという報道もあります。大気汚染については、ロックダウンは即効性がありました。こちらは、移動を減らすことでクリーンな大気を守ることができるということを証明したといえるのかもしれません。
新型コロナウイルスの対応は、結果として環境問題に本気で対策するとどのような世界になるのかという壮大な社会実験になってしまったといえます。アクシデント的とはいえ、通常では考えられないような実験データを得ることができたはずです。
今後、世界各国の政府が気候変動に対してどのような判断をするにしても、その裏付けとなるデータがあれば、説得力も増すことでしょう。せっかくのデータなのですから、有効に活用してほしいと切に願います。
(自動車コラムニスト・山本晋也)