ハイブリッドモデルに搭載される「プロパイロット2.0」のあまり知られていないルールとは?【新型スカイライン試乗】

●手放し運転を可能にした「プロパイロット2.0」をエンジニア目線でチェック

「これが、未来だ」── ハンズオフドライブを遂に可能にした、プロパイロット2.0。その搭載第一号となったのが、2019年7月マイナーチェンジとなったスカイラインでした。

プロパイロット2.0の使い勝手はどうだったか、また改善すべき点はどこにあるのか。3年前まで、日産でハンドリング性能エンジニアをしていた筆者が、古巣に一切の忖度なく、良い点、気になる点を指摘していきます。

●SKYLINE GT type SP[HYBRID] 2WD
653万3682円(車両本体616万0000円 +付属品合計37万3682円)

プロパイロット2.0の詳しい機能説明は、日産のHPやすでにたくさん出ているWEB記事を参照していただくとして、今回は使ってみた印象と課題について、開発エンジニア視点にて意見を述べます。

良い点① 設定車速が「制限速度プラス10km/hまで」

現時点(2019年10月)プロパイロット2.0が搭載されるのはハイブリッドのみ。

プロパイロット2.0は、設定車速を「制限速度プラス10km/h」まで上げることができます。つまり、制限速度80km/hであれば90km/hでの巡行走行をする、ということです。制限速度は、クルマについているカメラが自動読み取りをしていますので、ドライバーはACCのように自分の意思で巡行車速を変えることはできません。

自動車メーカーはこうした「安全に関する明確なポリシー」を持つことが大切です。法定速度では満足できない方も中にはいらっしゃるでしょうが、そういう方には「プロパイロット2.0」は向いていません。

ただ、高速道路の料金所に近づいた時など、制限速度が急に下がっている箇所などでは、周囲のクルマの車速が早く、法定速度に落としてしまうと危険な場所もありますので、そうした場所ではオーバーライド(ドライバ操作が優先される)で調節したほうがよさそうです。

良い点② よそ見は絶対に許してくれない安全設計なところ

ドライバーモニターカメラにて監視しているため、よそ見は厳禁だ。

ドライバーが前方を見ていることがプロパイロット2.0の条件です。ダッシュボード上にあるドライバーカメラで常時観察されており、ドライバーの「よそ見」を検知すると警告音が鳴ります。

カメラ性能を確認するため、目は前方をしっかり見ている状態で顔だけ右に向けてみました。その結果、5秒ほどで警告が鳴り音声でも「前方を見てください」との注意が出ました。つまり顔の向きでドライバーが前方を見ているか、判定をしている模様です。

プロパイロット2.0がスタートすると表示色がブルーになる。プロパイロット1.0の場合は表示色がグリーンとなり、今どちらのシステムなのかは一目瞭然だ。

手放し運転ができるとなると、スマホをいじりたくなるのは現代人のサガですが、ドライバーカメラにしっかり見られていますので、あきらめてください。ちなみにですが、運転中に携帯電話などを操作する「ながら運転」について、罰則が強化されていますので、お忘れなく。

補足:政府は9月13日、スマートフォンなどを使用しながら車を走行させる「ながら運転」について、違反点数と反則金を約3倍に引き上げ、懲役刑も重くするなど厳罰化した改正道交法の施行令を閣議決定。施行は12月1日〜。

気になる点① プロパイロット2.0はハイブリッドだけ

プロパイロット2.0をオンにする際は、ブルーのマークを押す。

スカイラインという「走り」のブランドイメージにこだわったのでしょうか。プロパイロット2.0はハイブリッドには標準採用されていますが、V6ターボにはオプション設定すらされていません。

「走りが好き」なオーナーさんでも、疲れたらプロパイロットを使いたくなるでしょう。V6ターボにはプロパイロット1.0すらないのは残念な点です(V6ターボには、ACCとLDW(車線逸脱警報)が搭載されています)。

V6ターボには、プロパイロット1.0すら付いていないのは残念だ。

「V6ターボ」の走りは、とても魅力的だっただけに(別記事でご紹介していますので、ぜひご覧ください)、プロパイロットが用意されていないのは非常に残念な点です。

気になる点② ステアリングアシスト時のハンドルの左右振られは違和感大

プロパイロット2.0によって手放し運転ができるエリアは限られており、その他の道路ではプロパイロット1.0となり、ハンドルを握っていなければなりません。

プロパイロット1.0では、LKA(レーンでのハンドル角修正制御)が、車線間の中央を走行するようにハンドルを修正してくれるのですが、デイズやセレナ、エクストレイルの「プロパイロット1.0」で感じた「ハンドルの左右振られ」を、まさかこのスカイラインハイブリッドでも感じるとは、非常に残念に思いました。

プロパイロット2.0が使用できる道路が限られるのは課題が、完成度は非常に高い。

プロパイロットは、例えば高速道路上のコーナーで、ステアリングを旋回方向とは逆に切る反力が働く瞬間があり、とても不快に感じます。これは、車線の中央を維持しようとする意識が強すぎて、レーン中央から少しでも外れようものならば、ハンドルの修正を入れてくるためです。コーナーではイン側に寄って走りたい場合もあります。プロパイロットの、コーナーでのLKAの所作は改善が必要に感じます。

まとめ

とはいえ、手放し運転を可能にした「プロパイロット2.0」は、開発エンジニア視点で見ても期待値と完璧に合致していました。なお、プロパイロット2.0を使用するには有料のNissan Connectサービスへ入会し、年間22,000円(税別)でハイブリッド専用の「プロパイロットプラン」への登録が必要です。しかし、それだけの価値は十分にあると言えます。

(文:吉川賢一/写真:鈴木祐子)

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この記事の著者

Kenichi.Yoshikawa 近影

Kenichi.Yoshikawa

日産自動車にて11年間、操縦安定性-乗り心地の性能開発を担当。スカイラインやフーガ等のFR高級車の開発に従事。車の「本音と建前」を情報発信し、「自動車業界へ貢献していきたい」と考え、2016年に独立を決意。
現在は、車に関する「面白くて興味深い」記事作成や、「エンジニア視点での本音の車評価」の動画作成もこなしながら、モータージャーナリストへのキャリアを目指している。
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