SUBARU最強エンジン「EJ20 」が生産終了。しかし最強ボクサーは他にあった!?【週刊クルマのミライ】

■SUBARUのスポーツカーを支えてきた「EJ」シリーズの最強ユニットは「EJ22」だ

SUBARU のスポーツフラッグシップであるWRX STIWRX STIは2019年12月末をもって現行モデルの注文受付を終了、あわせて特別仕様車「WRX STI EJ20 ファイナルエディション」が555台限定で生産されることも発表されています。

SUBARUのモータースポーツ活動や、WRXシリーズの速さの源となってきた「EJ20」型エンジンが生産終了となるわけです。

WRX STI EJ20 Final Edition
SUBARU WRX STI EJ20 Final Edition(プロトタイプ)

初代レガシィに搭載されてから、じつに30年に渡って進化を続けてきた名機「EJ20」にも、ついに終わりのときがやって来たのです。しかし、SUBARUの歴史を紐解くと「EJ20」が最強エンジンとはいえないという声もあります。とくにSUBARUボクサーエンジンの改造に詳しいチューナーの中には『最強のボクサーエンジンは”EJ22”だった』と指摘する人もいます。その「EJ22」とは、どんなエンジンなのでしょうか。

「EJ」系のターボエンジンとしては2.0LのEJ20、2.2LのEJ22、そして2.5LのEJ25があります。

[EJ20]
ボア×ストローク(mm):92.0×75.0 総排気量:1994cc 最高出力(PS/rpm):308/6400

[EJ22]
ボア×ストローク(mm):96.9×75.0 総排気量:2212cc 最高出力(PS/rpm):280/6000

[EJ25]
ボア×ストローク(mm):99.5×79.0 総排気量:2457cc 最高出力(PS/rpm):285/6000

上記のスペックで記した最高出力については、市販の時期が異なるために参考程度としていただきたいのですが、最後までブラッシュアップされたことで2.0Lながら300馬力を超えたEJ20はたしかに名機といえますが、チューナー筋の間ではより排気量の大きなエンジンのほうがポテンシャルは高いと言われています。

では、2.5LのEJ25が潜在能力では優位なのかといえば、そうでもないといいます。ボアが大きいエンジンは一般論として冷却損失が増える傾向にあります。EJ25エンジンの99.5mmという大きなボア径は、そうしたデメリットが大きいといいます。

また、ボア×ストロークの数字でいえばショートストロークといえますが、EJ25はけっして高回転まで回して楽しいタイプではないという意見もあるようです。つまり、排気量は大きくともボクサーエンジンの良さを味わうには、エンジンのプロファイル面から満足できないのがEJ25といえます。

一方、「EJ22」のストロークは2.0LのEJ20と同じ数値で、ボアをわずかに広げたというプロファイルは、チューニングベースとして考えたときに非常に魅力的で、もっともポテンシャルを感じるといいます。

そんなEJ22エンジンですが、ターボ仕様が市販車に搭載されたのは一回しかありません。それが、初代インプレッサ・クーペをベースに限定生産された「インプレッサ22B STI バージョン」、通称”22B ”です。

Impreza 22B STi
スバル・インプレッサ プレミアムスポーツクーペ 22B-STiバージョン

1998年に発売された22Bは、前年のWRCチャンピオンカーであるインプレッサワールドラリーカーのロードバージョンとして生まれました。WRCマシンのシルエットに近づけるブリスターフェンダーや二段階調整機構付きリヤウイング、ビルシュタインとアイバッハを組み合わせたサスペンション、235/40ZR17サイズのピレリタイヤとBBSのアルミホイールはワイドトレッドを強調します。

これら特別な装備を与えられた22Bは400台限定でしたが、なによりエンジンが前述のように2.2Lターボの「EJ22 」だったことが、このクルマを伝説の存在に押し上げたといえます。当時のカタログではロードゴーイングカーとして中間トルクを重視したエンジンを目指したと記されていましたが、レブリミットは7900rpmと、かなりの高回転までカバーするスポーツユニットであることは間違いありませんでした。

公道での扱いやすさ重視ではありますが、ストリートから限界走行まで、オールマイティにカバーできるエンジンに仕上がっていたのです。また、カタログスペックの280馬力は、当時の自主規制に則ったものであり、そのポテンシャルはもっともっと高いところにあったといわれています。

なにしろ、走り出してしまえば5速に入れっぱなしで市街地を走行できたというほどトルクフルで、全域でフレキシビリティにあふれたエンジンだったというエピソードが残っているほどです。

さて、WRX STIの生産終了によってEJ系エンジンの歴史には終止符が打たれることになります。現行ラインナップから見ると、その後継としては新世代のFA20エンジンを進化させることが有力なのでしょう。環境性能を考えると、高回転まで回して味わうというのが許される時代でもなくなっていますから、EJとは異なるスポーツ性をアピールすると考えるのが妥当です。

とはいえ、歴史は繰り返すといいます。新世代エンジンにおいても「EJ22」のような特別な存在が、どこかのタイミングで発売されてほしいと思います。どんどんと電動化が求められる中で、純粋なボクサーターボエンジンを味わえる時間も残り少なくなっているであろうからこそ、そう望んでやみません。

(山本晋也)

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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