【自動車用語辞典:吸排気系「マフラー」】エンジンから出た燃焼ガスのエネルギーを低減させて音を消す装置

■2020年以降は騒音規制がさらに厳格化

●心地よい音色を追求することも重要

マフラーは、排気系の下流に配置されて排気音を低減します。一方、内部構造が複雑で出力性能にも大きな影響を与えるため、消音性能と出力性能を両立させる設計が必要です。

マフラーの構造と消音メカニズムについて、解説していきます。

●マフラーの役割

エンジンから排出される燃焼ガスは、十分膨張しきっていないうちに排出されるので高温高圧です。そのまま大気に開放すると一気に膨張し、大きな排気音を発生します。

マフラーは、排気系の末端に搭載され、流入した排出ガスの通路を曲げたり、拡張したりすることによってエネルギーを低減し、同時に排出ガスの温度も下げる役目を担っています。

マフラー内部で排出ガスの流れの抵抗を大きくする、圧力損失を大きくすると、消音効果は大きくなります。一方圧力損失が大きくなると、排出ガスの抜けが悪くなり、エンジン出力が低下するという問題が発生します。この消音効果と圧力損失のトレードオフ関係を極力解消することが、マフラーに要求される性能です。

一般的なマフラーの容積は、排気量の15~20倍は必要で、マフラーによる出力低下は5~10%程度です。

●マフラーの構造と消音メカニズム

マフラーの内部は、通常複数のパイプと仕切り板が組み合わされた構造になっています。

消音のメカニズムとして代表的なのは、膨張式、共鳴式、吸音式ですが、通常のマフラーではこれらを組み合わせて効果的に消音しています。

膨張式は、排出ガスが隔壁によって仕切られた複数の空間(区画室)を通るたびに、徐々に膨張して排気のエネルギーが低下する仕組みです。全域周波数帯で効果があります。

共鳴式は、行き止まりの共鳴室(レゾネーター)の壁で反射した音の波が逆位相になるように設計して、互いの波が打ち消し合う仕組みです。100Hz以下の低周波で効果を発揮します。

吸音式は、グラスウール、ロックウールのような吸音材を詰めて吸収する仕組みです。主として、中高周波成分を消音します。

マフラーの構造
現実には、膨張式、共鳴式、吸音式といった方式を組み合わせて使うケースが多い

●可変マフラーは何が良い?

相反する消音性能と出力性能を両立する方法として、上級車を中心に採用されている可変マフラーがあります。可変マフラーは、内部に切り替え弁を設けて排出ガスの通路を切り替えることによって、低速域から高速域まで適切な消音性能と出力性能を確保するシステムです。

具体的には、低中速域では圧力損失を大きくして消音効果を重視し、高速域では圧力損失を小さくして出力低下を抑制するように切り替えます。

切り替え弁を電気的に制御する方式もありますが、排圧が上がるとスプリング力に打ち勝って切り替え弁を押し開ける自圧式の切り替え方式の方が一般的です。

可変マフラーの構造
可変マフラーの構造

●年々厳しくなる騒音規制

クルマの車外騒音に関しては、世界基準の規制があります。全開加速運転時の車速50km/h時点の騒音規制で、2016年から4年ごとに段階的に強化することになっており、日本もこれに準拠しています。

2020年以降の規制値は、現在市販化されているEVでもクリアできないほど厳しい規制値に設定されています。


マフラーの構造自体は、長年それほど大きく変わっていません。

最近は単に消音性能を追求するのではなく、音質のチューニングにこだわった心地よい音色を重視した設計になっています。また、材質は一般にはスチールとステンレスですが、チタン合金製のマフラーが登場するなど、軽量化が推進されています。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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