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■商談はスキルではなく、気持ちで進める
カーライフを送る上で、切っても切れない関係のディーラーですが、内情はあまり知られていないことが多いと思います。今回は、元ディーラー営業マンの立場から、「商談」に焦点を当てて、解説していきます。
よく、自動車雑誌やネット記事の特集で「○円値引いた手法」「商談の上手な進め方」といった特集が組まれています。書いてあることは決して間違いではないのですが、皆さんが読んでいる記事は営業マンも読んでいます。台本のとおりにセリフを言っていくと、営業マンとしては「あの記事読んできたな」と思いますし、既に対策済みです。
「できる営業マン」ほど、商談の回数が多く、応酬話法もお手のものですから、記事と同じように商談を進めることにメリットはありません。
■自動車販売に残った商談文化
インターネットが普及し、高級ブランドでも担当営業が付くことのない一度きりの接客が当たり前のこの時代に、クルマは一度きりの接客ではなく、旧来の商談という形をとるのかを考えなければなりません。
ブランドバッグや家などの買い方と、クルマの買い方が大きく違うところは「整備」があり「代替」があるところです。一度きりのお付き合いではなく、買ってもらってから幾度も整備入庫があり、そのお付き合いがクルマの代替に繋がります。ここには機械的な対応では賄いきれない「人と人のつながり」が存在するのです。
■商談時の値引きの基準
商談に値引きは欠かせないものです。最近ではレクサスに代表されるワンプライス販売(値引きなし)をするお店が徐々に増えていますが、値引き競争は今なお続く「クルマ独自の文化」といってもいいでしょう。
■値引き額の最大値
値引きには段階があり、営業マンの持つ「ガイドライン」と「店長決裁」という2段階で構成されます。ガイドラインとは、車両本体価格・メーカーオプション・ディーラーオプションそれぞれに何%まで値引きをしていいかを、あらかじめ販売会社の本部指示で決められたものです。営業マンは、この範囲内で商談を進めていきます。
不人気車や在庫車などでは車両本体の10%~15%という場合もありますが、多くは5~8%以内で、新型車や人気車に至っては3%程度となります。メーカーオプションは概ね5%程度、ディーラーオプションは10~20%と決められているのです。
この少ない値引き範囲の中で数字の調節をします。
例えば、車両本体に対し範囲を超えた値引きを要求された場合、オプション品の値引きを調整したり、下取り車両の評価額を少し抑えて伝え、最終的に下取り金額を増額したように見せながら、キリよく価格を調整しているのです。
■上手な値引きのススメ
営業マンから値引き額を引き出すためのコツは、「この人と長く付き合いたい」と思わせることです。クルマとは、手に入れたその日から消耗が起き、いずれ買い替えが発生するものです。長く良いお付き合いができるお客さんを営業マンは囲っておきたいのです。
逆に、営業マンの立場としては、自分がアイドルかのようにファンを増やすことが長く営業の世界でやっていく秘訣でもあります。
まずは、自分がファンになれる営業マンを選びます。商談テーブルにつかなくとも立ち話をしてみたり、「クルマを見たいだけなので」と伝え、自分の感性に合った人を探します。見つからなければ近くの別のお店に行ってみたり、日を改めて訪問します。
営業マンを選んだら、商談をすすめて「もうコレ以上は」という言葉を出します。ここがガイドライン一杯のラインです。そこで具体的に金額を提示し、この場で契約することを伝えます。このとき「これだったら買う」というよりは「ここまでどうにかお願いできないだろうか」という姿勢を見せることが大事です。ここもコミュニケーションですので、営業マンを困らせたり嫌がらせのような態度をするのではなく、あくまでお願いをするのです。
■営業マンを戦いに送り出す
営業マンが「買って欲しいから私は店長と戦う」という気持ちになって、初めてガイドラインを超えた値引きを引き出せるのです。
実は、店長と戦うための武器が「契約の確証」なのです。買うのか買わないのかわからない人に対して、営業マンが無理することはありません。「店長に相談する=この商談を決めないと自分の評価が下がる」ということに繋がるので、店長決裁をもらうということは一度きりであり、その商談は決まる前提でないと挑めません。
■まとめ
とはいえ、クルマの商談は人付き合いであり、戦うものではありません。お客さんも営業マンも、双方が気持ちよく取引することが大切であり、関係性を良好にするだけでおのずと値引き額はついてきます。商談よりも雑談をいかに多くし、双方に人間性を分かり合えるかが良い商談への一歩になります。
(文:佐々木 亘)