富士通の研究機関である富士通研究所は、先進運転支援システム(ADAS)や自動運転の「目」を実現できるCMOSミリ波信号源回路を開発したと発表しました。
今回富士通研究所が開発した車載レーダー向けのCMOSミリ波信号源回路は、76~81ギガヘルツ(以下、GHz)の広い周波数域において世界最高速で周波数を変調できることが特長です。
この特長を聞いても、何がよくなるのか素人には分かりませんが、自転車と歩行者などのように速度の異なるターゲットを見落とす危険を無くし、時速100kmで対向する車両(相対速度時速200km)でも相手の距離と速度を検知できるようになるということです。
そもそもミリ波レーダーはADAS・自動運転の目の役割を担う技術の1つとして、夜間、霧や降雨、逆光など悪環境時に車載カメラの弱点をカバーする監視装置として開発が進められてきました。
ところが、現状のミリ波レーダーでは、ミリ波信号の周波数の速度を周期的に変調させるFMCW方式(Frequency Modulated Continuous Wave)によるものが主流で、同方式では歩行者と自転車のように速度の異なるターゲットが近接すると、片方を見落としてしまうという問題がありました。また、対向して走行する車両を検知できる相対速度は時速50km程度が限界でした。
このような問題を解消するために、ミリ波信号の周波数の変調速度を高速化して、距離分解能や対象物の速度の検知範囲を広げることができるFCM方式(Fast-Chirp Modulation)の開発が試みられています。
今回、富士通研究所が開発した車載レーダー向けのCMOSミリ波信号源回路は、このFCM方式のミリ波レーダーのキモになる技術なのです。
新開発の高速度で周波数を変調できるミリ波信号を使う車載レーダーシステムでは、自転車と歩行者など速度の異なるターゲットの見逃しを防ぐことができ、時速200kmの相対速度で対向する車両を検知することが可能になります。
しかも、併せて開発された4チャンネルCMOS送信回路と組み合わせることで、一方向の監視に限らず、車両の周囲全方向を高精度にスキャンすることが可能になるため、高速走行と周辺監視の両方を1台でこなせる車載レーダーの実現が期待できます。
今後富士通研究所では、高機能な演算を行うプロセッサーをワンチップに集積したミリ波CMOSレーダーチップの開発を計画しており、2020年以降の実用化を目指しているということです。
ADAS・自動運転の実現のためには、ミリ波信号を使う車載レーダーシステムひとつをとってみても、現状の技術では、見落としの危険、検知能力の限界があり、ADAS・自動運転を実用化するにはハードルが高いことが実感されます。
(山内 博・画像:富士通研究所)