【ギョーカイ先走り07】脱CVT!これからはAMTの時代だ!

alto001

今回注目したいのは、スズキのAGSです。AGSとはオート・ギヤ・シフトの略で、一般的にはAMT(自動変速マニュアルトランスミッション)と呼ばれています。自動的にクラッチ操作とシフト操作をしてくれるシステムで、世界初はいすゞ自動車のNAVi5でした。BMWがSMGという名前でスポーツモデルに採用したり、またヨーロッパのスモールカー用に広がっていきました。日本車でもトヨタMR-SやレクサスLFAに搭載されていました。
しかし、そのほとんどは、最近のトレンドであるDCTとは異なり、シフトアップ時のタイムラグが気になるものばかりでした。どうしてもエンジンの回転が落ちるのを待ってシフトアップしなければならないので、構造上、避けられないと思っていました。加速している時に、シフトアップ時に減速しているように感じることが違和感を生み、機械に対する信頼性を損なってしまうのです。
しかしスズキが新型アルトに搭載したAGSは、そうしたストレスをほとんど感じさせないレベルに仕上げられていたのです。

alto002 alto003

これまでのAMTと違うのは、ATの替わりとして考慮されていることです。
シフトレバーもAT車と同じデザインで、そのパターンもP-R-N-D、そして左側に倒してアップダウンという設定です。そしてクリープ機能が付いているので、Dレンジでブレーキを離すとスルスルと発進します。AMTにはクリープ機能が付いていないのが一般的ですが、AGSには普通のクラッチを使ってトルコンATのようなスムーズなクリープを出しているのです。多少の上り坂なら、MTのようにサイドブレーキを使わず、ATのようにそのまま発進することができます。
例えばコンビニの駐車場に、傾斜を登って停車するような時でも、瞬時に1速にシフトダウンしてくれて、しかも安定感のある駆動力を発揮してくれます。まるで先を見越して、ドライバーの意志を反映させたかのような制御になっているんです。

 

タイムラグが最も気になる1速から2速へのシフトアップも、半クラッチを上手く使って、実にスムーズにやってくれるのです。少なくとも一般的な市街地の発進加速であれば、それほど減速感は気にならないでしょう。
そんなに半クラッチをたくさん使って、果たしてクラッチの耐久性は大丈夫なのか?? とてもに気になりますが、エンジニアによれば、全く問題ないそうです。半クラッチの時間は長いでしょうが、大きなトルクが出てからガツンとつなぐよりはクラッチの負担は少ないことでしょう。ゆっくりスムーズに発進・加速させるためには、半クラッチの制御は必要なのです。

alto005

アルトの5速AGSは、最も安価なグレード、Fにだけ設定されています。上位のグレードは全車CVTとなっているのです。それは販売上、カタログ燃費が問題になるからです。FFの場合、5速AGSが29.6km/Lなのに対して、CVTは37.0km/Lなのです。25%もの差が付いてしまっているのです。この差は、CVT車に与えられているアイドリングストップ機構やエネチャージが、AGSにはないことも効いています。
しかし実際の走行では、ほとんど燃費の差はありませんでした。アイドリングストップやエネチャージを持ってCVTが、AGSより少しだけ燃費がいい、といった印象でした。驚くのは、それは高速燃費でも同じで、メーターの中にある瞬間燃費計は一定速では大差ありませんでした。ただギヤ比はCVTのほうが高いので、エンジンの回転数は低く抑えられているんです。それでも、燃費は変わらないんですよ。

※オーバーオールギヤ比は、CVTが2.247に対して、AGSの5速が3.673。100km/h走行時のエンジン回転数は推定で、CVTが2800rpm、AGSが4500rpm程度になる。

alto004

AGSの走りは軽快です。なにしろCVTよりも30kg近く、それもフロントだけで軽量なんです。620kgと650kg、つまり5%近く違うのですから、当然です。しかもMTと同じようにダイレクトなフィーリングですから、すごくクリアなパワーフィールを味わうことができます。
このAGSはごく普通のMTをベースにしています。特殊なメカニズムは何もありません。スズキのエンジニアが行ったことは、とにかくあらゆる局面で不安定な動きを限りなく低減するために、徹底的に制御を磨き上げること。それが、ボクらが構造的に無理だ、と思っていた領域を、しっかりと改善してきたのです。
そしてさらに進化させようとすれば、7速や8速といった多段化が可能になります。段数が増えるとMTでは面倒になりますが、AGSでは自動ですから問題ありません。5速に自動変速の副変速ギヤを付ければ10速になります。多段化すればシフトアップ時のタイムラグが小さくて済み、さらにポテンシャルは高まります。確かに重くなりますが、それでもATやCVTのような重さになることはないでしょう。

またシフトレバーはインパネの一等地を占拠してしまっています。AMTであれば簡単なスイッチにして、マニュアルモードはパドルにしてしまえば済みます。それによってインパネがもっと使いやすくなることでしょう。

alto007

これからのスモールカー、コンパクトカーにはAMTがメジャーになるかもしれません。日本メーカーもヨーロッパではごく普通にAMTを販売しているので、あっという間に広がることになるかもしれません。

 (岡村神弥)