6月19日に秋葉原UDXで開催された「アキバモーターショーCafe トークライブ『自動車ウェブメディアの実態 ~クルマ雑誌はライバルか否か?』」で席が隣り合わせになった人が、「実はこんなのがあるんです」と、電子雑誌を見せてくれました。
これがこれまで見たどの電子書籍とも違い、とても読みやすかったんです。詳しく知りたかったんですが、話せる時間が短く、その場でそれ以上のことはわかりませんでした。じっくり見られなかっただけに余計興味がわいてしまい、話を聞きに開発元に押しかけてしまいました。
お話をうかがった株式会社モリサワ 電子書籍営業部の園田部長代理はかなりのクルマ好きだそうで、学生のころはレーシングカートにハマったり、F1鈴鹿GPは毎年予備予選から観戦したり、友人のモータースポーツを手伝ったりしていたそうです。先日も今話題のLCCでクララルンプールに飛びSuper GTセパンラウンドを観戦したばかりとのことでした。
そんな園田さんが普及させようとしている電子書籍はどんなものなのでしょうか。
例えばこんな雑誌があったとします。
これまでの電子雑誌は、いわゆるページビュー型と呼ばれる画像方式なのだそうですが、その場合は、読みたい部分を拡大し、あっちこっちスクロールさせながら記事を読み、ページ全体を俯瞰する場合はまた縮小させて……という作業が必要でした。左手にスマホを持ち、右手で拡大縮小操作をしなければならないのでちょっと不便。
しかしこのMC Magazineで制作された電子雑誌の場合、読みたい部分をタップすると、こんな感じで記事がポップアップしてくれ、その枠の中でテキストをスクロールできます。しかも枠の大きさが自由に変えられるので、タブレットクラスの画面だと自分の読みやすいサイズに調整できます。スマホの狭い画面でも、誌面の俯瞰イメージはそのままに、読みたい記事をタップして読み、閉じてまた次の記事へと片手で操作できるので、混雑した電車内でつり革にしっかりつかまった状態でも軽快な操作で快適に読むことができるでしょう。
こんなことができるのは、ページにテキストデータを含んでいるからなのですが、同時にリンクが自由に貼れるというもう一つの特長を有しています。本文から別のテキストやウェブにリンクしたり、広告ページから動画CMやカタログ請求ページにリンクしたり、通販サイトにリンクして欲しいものがその場で注文できるようになったりと、応用が可能です。
さらに、ポップアップするテキストを横組み英文にすることもできるので、日本の雑誌の海外進出の障害になっている縦書き横書きやページレイアウトの問題もこれで解決です。今ならまだクールジャパンのイメージをもたれているので、日本語の雑誌そのものでありながら現地語で読めるというのは、現地の読者にとってのプレミアムになりますし、ひいては日本のコンテンツ輸出の大きな助けになることでしょう。
制作コストはさすがにページビュー型と同じとはいかないそうなのですが、上乗せされるコスト以上の付加価値を生むものだと思います。一冊の雑誌、見開きページの世界観をそのままに、リーダビリティを犠牲にせずに実現できる。読者も読みやすくてうれしい。広告主には新しい広告の可能性を提供できるし、物販につながる。そのことによって広告価値が上がって出版社の広告収入が増える(あるいは減少を食い止められる)……といいことに想像を巡らせてみると、誰もがうれしいまさしくwin-winになれる気がします。だからもしかすると、電子雑誌の革命ではなく、制作システムの革命、新しいマネタイズへの扉、と言えるのかもしれません。
クルマ離れ、雑誌離れが叫ばれて久しいですが、それは携帯電話とコンテンツ、携帯ゲーム機とソフトウエアにお金と時間を取られたことも原因の一つだと言われています。これは、スマホやタブレットの土俵に乗り込んでいって、取られたお金と時間をなんとかクルマの世界に取り戻すための武器になり得るのではないでしょうか。
雑誌を読むという行為の場合、滞在時間が長くなり、それだけ目に触れる時間が長くなる。長くなるということはそれだけ意識に残りやすくなるし、好きになりやすくなる。ということは、クルマが欲しくなる、関連商品が欲しくなるという連鎖に向かう可能性があるということではないでしょうか。新入社員研修中に同期で恋仲になる、事務所では席が近い女性と社内恋愛に発展する(いわゆる半径5メートルの恋というやつです)ことがありますが、これはすべて見ている時間が長いからです。同じことが雑誌の世界にも言えそうな気がします。
「電子雑誌が盛り上がれば紙の雑誌も活性化するでしょうし、そうすると読者も増え、広告収入も増え雑誌が儲かる。読者が増えるということは自動車が売れるということにつながるでしょう。MC Magazineを普及させることで業界活性化に貢献したい」と、熱い思いをお持ちの園田さんでした。「レイアウトも含めた見開きの世界観を電子雑誌でも大事にしたい」とも。
やや前のめりの紹介になってしまいましたが、このシステムで作られた電子雑誌なら読みたいし、紙のイメージと読みやすさはそのままに、電子なりの新しい可能性が広がるいいものだと思ったからです。
これまで電子雑誌や書籍には全く惹かれなかったのは、元々紙世代だということもありますが、読みにくいというのが最大の理由でしたから。
さらに、このMC Magazineの元になった、MC Bookという電子書籍制作システムがあるのですが、それを使えば、元になった電子データがあれば絶版になった名著を復活させるのもさほど難しくないそうなので、そちらの展開も期待しています。もしかしたら、そんな本や雑誌をGAZOOのような自動車メーカーのポータルサイトのようなところに置けば、ページビューも電子書籍の読者も増えるし、クルマを買いたくなる人が増えるんじゃないかと勝手に妄想を膨らませています。
MC Magazineが気になった方は、7月4日(水)~6日(金)まで東京ビッグサイトで開催されている、第16回国際電子出版EXPOに出展しているそうなので、ブースをのぞいてみてください。
■第16回国際電子出版EXPO
http://www.ebooks-expo.jp/
また、同時開催で第19回東京国際ブックフェアも7月5日(木)~8日(日)まで開催されるので合わせてどうぞ!
■第19回東京国際ブックフェア
http://www.bookfair.jp/
ショーに行けなかった方はこちら。
■モリサワ
http://www.morisawa.co.jp/biz/products/mcmagazine/#summary
(Autanacar)