「学生フォーミュラ日本大会2023」の過酷な審査は、あと一歩のところで涙するチームも…

■無念の車検落ちから「エンデュランス」出走へ

●学生フォーミュラ日本大会2023って?

学生たちが自ら設計した小型フォーミュラで、ビジネスの構想から、企画設計、製造、そして車両性能を競う学生フォーミュラ。その21回目を数える日本大会が、2023年8月28日(月)から9月2日(土)までの6日間にわたって、静岡県掛川市、および袋井市にまたがる静岡県小笠山総合運動公園(通称エコパ)で開催されました。

万が一の際に車両から短時間で脱出できるように、ということで脱出のテストも行われます。
万が一の際に車両から短時間で脱出できるように、ということで脱出のテストも行われます。

学生フォーミュラは、アメリカで1981年にスタートしたFormula SAEという「ものづくりによる実践的な学生教育プログラム」がそのもととなり、現在ではFormula SAEシリーズとして、世界8ヵ国で10大会が開催されています。

日本大会もその一つとして、2012年からシリーズに加入しています。今回は90チームのエントリーを受けましたが、最終的に登録されたのは77チーム、そして、ピット割で用意されたのは、ICVクラス50台、EVクラス16チームの66台となりました。

この場にマシンを持ってくることができなかったチームも視察にやってきていた。写真は東海大学チーム。
この場にマシンを持ってくることができなかったチームも視察にやってきていた。写真は東海大学チーム。

ここに来るまでに、静的審査と及ばれる「プレゼンテーション」「デザイン」「コスト」といった審査がオンラインで行われ、製作した車両も事前にシェイクダウン証明を出さねばなりません。

そして、この会場に実車を持ち込んでからは、安全性や設計要件の確認など、車両としての出来を確認する車検が行われます。ここではチルト(車両を傾けて燃料漏れなどがないことや、車両が横転しないことの確認)や騒音、ブレーキ、EVには車両に水をかけて絶縁ができているかを確認するレインといったテストも行われます。それらが終わると、ようやく動的審査にすすむことができます。

75mの加速タイムを競うアクセラレーション。37号車は4本走って24位
75mの加速タイムを競うアクセラレーション。37号車は4本走って24位

動的審査では、75mの加速タイムを競う「アクセラレーション」、左旋回と右旋回の周回タイムを競う「スキッドパッド」、直線、ターン、スラロームやシケインを組み合わせた1周約800mの複合コースの走行タイムを競う「オートクロス」を行い、最後に、そのオートクロスのコースをつないだ1周約1000mのコースを2人のドライバーで20周走行する「エンデュランス」が待ち構えています。

オートクロスでの37号車は2周のみでしたが無事にタイムを残せて、27位を獲得。
オートクロスでの37号車は2周のみでしたが無事にタイムを残せて、27位を獲得。

既定の時間内に審査をクリアすることができず、コマを進められず終わってしまうチームも少なくありません。車検で思わぬところを指摘され、その修正で時間をとられ、走行させることができなかったり、車検は通過したのにエンジンがかからなかったり、不具合が発生してその修復で時間切れになったり、順調に審査を受けることができないことも多いです。

また、この場にマシンを持ち込めなかったチームも、次年に向けて各チームの動向をチェックする、なんてシーンも見ることができます。

もちろん、この会場内では参加各校のそれぞれの喜怒哀楽を見ることができます。そんな中で、エンデュランスの現場で悔し涙を流しそうなチームがありました。それが北九州市立大学チームでした。

●北九州市立大学チーム「KF-works」、今年こそはの意気込みで挑む

赤旗が振られ、コースから出されてしまった37号車は、フロントタイヤがロックしてしまっていた
赤旗が振られ、コースから出されてしまった37号車は、フロントタイヤがロックしてしまっていた

北九州市立大学チームの「KF-works」は、2012年から活動を開始。2018年にはチーム6代目の車両で全動的審査完走を達成し、着実に進化をしてきたチームでした。

しかし、コロナ禍明けの2022年に製作した8代目の車両KF08は車検不通過と、まさに惨敗ともいうべき状況になってしまいました。

やはり、このコロナ禍は大変だったようで、「コロナ禍明けは引継ぎもしっかりできてなくて、まず何をどうしたらいいのかというところから手探りでしたし、離れていってしまったスポンサーに戻ってきてもらうのも大変でした」といいます。

それでも、昨2022年の大会に出場するわけですが、「昨年は残り5分でシェイクダウンに間に合わなくて、フォローアップの走行もできず…でした。スポンサーの皆さんに顔向けできない、もうそんな思いは二度としたくない。これで最後にしたい、と思ってやってきました」と語ってくれました。

今回持ち込んだ、チームにとって9代目のKF-09。使用するエンジンは、カワサキZ650のパラツインエンジン。癖がなく扱いやすい、それをハイレスポンスで、操作に付いてくる車にしたいということで、ハルテックのフルコンを入れて、レスポンスアップも図ったということです。

少し珍しいところでは、タイヤはダンロップのディレッツァを履いていたりします。フージャー・ユーザーが多いのですが、フージャーが高くて購入できず、住友ゴム工業のスポンサーがついたことでチョイスとなりました。

また、サスペンションについても予算がなかったため、市販バイクのホンダグロムのリアサスを流用するなど、その車両製作は「苦労しかしていない」というほどで、製作の作業だけではなく、予算での苦しさも見え隠れしています。

それでも、このエコパに乗り込む直前の8月26日には、北九州カートウェイで走行、24kmをほぼノートラブルで走行できたということでした。さらに「今年は何が起きてもすぐに修理ができるように、簡単な構造を採用しています」と、万全を期して臨んだ大会だったようです。

そして迎えたエコパでの動的審査では、大会3日目(チームにとっては2日目)で技術車検、そして騒音試験とチルト、そしてブレーキテストを合格し、車検項目のすべてを通過し、無事に動的審査にコマを進めることができました。

大会4日目には、オートクロス(27位)、アクセラレーション(24位)、スキッドパッド(29位)と、3種目でタイムを残すことができました。金曜日の走行となる「エンデュランス」Gr.B午後枠の走行となった北九州市立大学の37号車に、「ここまで一年、悪夢にうなされ続けましたが、ついにこの場に立つことができました」とリーダーが語ってくれたものの、走行中にフロントブレーキの異常が発生し、最終的にはフロントがロックしてしまったことで、コース上に止まってしまいます。そしてオフィシャルスタッフから赤旗が振られ、車両は前輪を浮かしてピットへ戻ることとなってしまいました。

走行後にコメントを求めましたが、言葉を発することができかったです。でも、今年の北九州市立大学はしっかり総合32位という順位を獲得することができました。来年、ゼッケン32をつけて、また新たな挑戦に戻ってくることに期待したいです。

(青山 義明)

この記事の著者

青山 義明 近影

青山 義明

編集プロダクションを渡り歩くうちに、なんとなく身に着けたスキルで、4輪2輪関係なく写真を撮ったり原稿書いたり、たまに編集作業をしたりしてこの業界の片隅で生きてます。現在は愛知と神奈川の2拠点をベースに、ローカルレースや障がい者モータースポーツを中心に取材活動中。
日本モータースポーツ記者会所属。
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