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■サステナブルなアルミ部品を国内2輪車で初採用
バイクには、アルミニウム(以下、アルミ)を原材料とした部品も多く使われていることはよく知られていますよね。軽量で剛性も高いアルミ部品は、たとえば、フレームやエンジン、スイングアームなど、モデルによって多少異なりますが、さまざまな箇所に使われています。
ただ、アルミ部品を製造する場合には大量の電力が必要であるため、従来は石炭や石油を使った火力発電が主流。でも、それではCO2排出量を多く排出してしまうという問題があります。
そんな中、ヤマハ発動機(以下、ヤマハ)は、カーボンニュートラル実現に向けた取り組みの一環として、2023年2月より2輪車用アルミ部品の原材料として「グリーンアルミニウム(以下、グリーンアルミ)」の採用を開始したことを発表しました。
バイク用部品にグリーンアルミ材を使うのは国内初の取り組み(ヤマハ調べ)。ヤマハでは、この新アルミ材を大型バイクや市販モトクロッサーなどの競技用モデルの2024年モデルから採用するとのことですが、一体どんなものなのでしょうか?
また、これによりバイクの性能が変わったり、価格が上がったりしないのでしょうか? ヤマハの技術者に聞いてみました。
●グリーンアルミ材とは?
そもそもグリーンアルミとはどんなものなのでしょうか? ヤマハによれば「CO2の排出量が少ない再生可能エネルギーを用いて製錬されたアルミ材」とのこと。
具体的には、水力発電や風力発電などクリーンな発電方法で作られたアルミのことで、火力発電で精錬する従来のアルミよりも、製造段階でのCO2排出量を少なくすることが知られています。
ちなみに、このグリーンアルミは、アップルがスマートフォンのiPhoneなどですでに使用していることでも有名。また、4輪車では、日産自動車やBMWも採用することを発表するなど、近年注目されているアルミ材なのです。
●メインフレームやホイールなどに採用
では、どんな箇所やどんなバイクに使うのでしょうか? ヤマハでは、従来から、使用済みのアルミ製品から精錬した「リサイクルアルミニウム(以下、リサイクルアルミ)も積極的に使っており、現在、その比率は「約8割に達している」といいます。
こうしたリサイクルアルミも省エネルギーに大きく貢献することで注目されていますが、ヤマハによれば、バイクの部品にリサイクルアルミを100%使うことは難しいのだとか。
理由は不純物が混ざってしまうことで、強度などが新規で作るバージンアルミニウム(以下、バージンアルミ)ほど出せないため。そのため、たとえば、エンジンのボディシリンダーに使うダイキャスト材など、ホイールやフレームほどの強度がなくても安全面などに問題ない部品へリサイクルアルミを使用。
一方、しっかりと強度が必要な部品、たとえばメインフレームやホイールなどにはバージンアルミ材を使用するという、マスバランスという方式を採っているのだそうです。つまり、バージンアルミ製部品とリサイクルアルミ製部品を組み合わせているということですね。
ところが、バイクに使うアルミ部品全体のCO2排出量でみると、ヤマハによれば「バージンアルミ材製造時のCO2排出量が約8割弱を占める」とのこと。
そこで、バージンアルミ材を使っている部品をグリーンアルミ材で製造した部品に代えることで、部品を作るときのCO2排出量をさらに削減しようというのが、今回の取り組みなのです。
●なぜ大型バイクや競技用モデルに採用するのか?
では、どんなバイクに採用されるのでしょうか? 具体的なモデル名は未公表ですが、ヤマハによればまずは「大型バイクや競技用モデル」からとのことです。
なぜ大型バイクや競技用モデルかというと、ヤマハ製バイクの場合、これらのモデルはたとえば原付など小排気量のスクーターなどと比べると、使っているアルミ部品の比率が高いため。
車両重量に対する比率では、小排気量スクーターは12%程度。対する大型バイクでは29%、市販モトクロッサーなどの競技用モデルになると31%もあるそうで、まずはアルミ部品を多く使うこれらモデルにグリーンアルミ材を適用するのだそうです。
ちなみに、グリーンアルミ材を使ったバイクの販売は、おそらく2024年に発売されるモデルからになるとのこと。
前述の通り、新しい原材料を使った部品の生産自体は2023年2月から始まっていますが、実際に部品を装着したモデルが市場に出てくるまでには、かなり時間がかかるからだそうです。
●バイクの性能は同じだが、価格はどうなる?
このように、エコな製造方法で作られるグリーンアルミ材ですが、従来のバージンアルミ材で作った部品を使うバイクと比べ、性能などは変わらないのでしょうか?
ヤマハの担当者によれば「製造工程は同じなので、強度なども変わらない」とのこと。
ヤマハには、たとえば、超軽量で高い剛性も誇る「スピンフォージド・ホイール(SPINFORGED WHEEL)」というものがあります。
独自の回転塑性(フローフォーミング)加工という手法を用いて製造されるこのホイールは、2021年にフルモデルチェンジした「MT-09 ABS」から採用され、大きな話題に。その後も、順次さまざまなモデルに装備されています。
そして、こうした高性能ホイールも、グリーンアルミ材を使って作ることが可能。そのほか、フレームなども同様で、性能的には同じにできるのだそうです。
では、価格はどうでしょう? こうした新素材などは、一般的にコストが掛かるといわれており、それがバイクの本体価格に乗せられ、値上がりすることはあるのでしょうか?
これも、答えはノー。ヤマハによれば、「コストは増えるが、自助努力により、価格には反映させない」とのこと。価格が上がらず、性能も同じであれば、我々ユーザーも一安心ですね。むしろ、CO2排出量を減らせるのですから、大歓迎といったところです。
ちなみに、ヤマハではリサイクルアルミ材やグリーンアルミ材の使用を順次拡大する予定。2050年までに、100%これらサステナブル材(環境や社会課題に配慮された素材)へ切り替えることを目標にしているそうです。
(文:平塚 直樹)