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■2022年よりHRCがF1と関わってきた
ホンダが2021年シーズンをもってF1活動を終了したのち、しかしホンダが生み出したパワーユニットはF1で活躍し続けています。
ホンダ・パワーユニットの開発を引き継いだのがHRC(ホンダ・レーシング)なのは、いまさら説明するまでもないでしょう。HRCは法人としては別組織といえますが、実態としてホンダのエンジニアが技術的に支えていることは公然たる事実といえます。
2022年シーズンも、それまで同様レッドブルとアルファタウリはHRCが支援したパワーユニットを搭載していました。そしてレッドブルは22戦中17勝という圧倒的な成績を残したことで、ホンダの技術力は証明されたという見方もあります。
一方で、実質的にはホンダの技術が入っていようと、公式にはレッドブル・パワートレインズがパワーユニットの製造者となっています。ブランディング的にはホンダの活動休止は失敗だったという指摘があるのも事実です。
はたして、2023年はどのような体制になるのでしょうか。HRCがF1開幕を前にしてオンライン記者会見を開きました。
●製造者の名前にホンダが復活する
株式会社ホンダ・レーシング代表取締役社長 渡辺 康治さんによると、HRCが技術支援するパワーユニットの製造者名は2023年シーズンに「ホンダRBPT」という名称になり、パワーユニット名称は「ホンダRBPTH001」になるといいます。
あわせて、レッドブル、アルファタウリのマシンにはホンダとHRCのロゴが掲示されるということです。そうであれば、ホンダが活動終了を宣言した意味は何だったのかと感じるところも正直ありますが、ホンダのエンジニアにとってF1は離れることができないものであり、関わり続けていたいのかもしれません。
そうしたスピリットの部分について、2018年からF1プロジェクトのリーダー的存在だった浅木 泰昭さんは、自身のエンジニア人生を振り返りながら、ホンダ(エンジニア)とF1の関わりについて興味深い話を聞かせてくれました。
浅木さんといえば、ホンダがF1最強エンジンと言われた第二期F1においてエンジン開発に携わっていたのがエンジニアとしてのスタートという人物。
その後、気筒休止機能を持つ量産V6エンジンの開発、初代N-BOXの開発責任者を務めるなど、モータースポーツと量産モデルの両方で実績を残してきたことでも知られています。
筆者は、浅木さんがN-BOXの開発責任者だった時期にインタビューをした経験があります。その際に、F1というレギュレーションで縛られたモータースポーツにおいて実績を残せたという自信は、軽自動車というやはり規格の中でベストを尽くすカテゴリーでもライバルに勝てるという自信につながった…という旨の話がありました。
世界最高峰のモータースポーツであるF1でトップになったというエンジニアのプライドは、プロダクトの種類にかかわらず自信を生み出してくれるというわけです。
●世界一になったという自信はかえがたいもの
2022年のF1においてホンダの知財を使って生まれたパワーユニットが圧倒的なパフォーマンスを示したという事実は、将来はレッドブル・パワートレインズの実績であり、HRCの支援やホンダの知財に基づいていたことは忘れられてしまうかもしれません。
しかし、実際にF1パワーユニットに関わったエンジニアの心の中には、世界一になったという自信が消えることなく残っていくはずです。
浅木さんは、5年前にF1プロジェクトに関わった際に「若いエンジニアたちに世界一という自信を感じさせる」ことをテーマとしていたといいます。
そうして、実際に若きエンジニアたちが世界一になったという自信をつけた今、浅木さんは勇退します。2023年3月でHRCのF1プロジェクトから離れ、4月には退職するということです。
モータースポーツファンからすると最強のF1パワーユニットを生み出したホンダにはスポーツカーを作ってほしいと願ってしまうかもしれませんが、エンジニアにとっての実績が生む自信というのはそんな単純なものではないのでしょう。
浅木さんが実践してきたように、F1で世界一になったという自信がN-BOXという圧倒的な人気モデルを生み出したように、いまF1パワーユニットに関わっている若きエンジニアたちが、どのような量産車を作り上げるのか、大いに注目していきたいとあらためて思います。