新型・セレナのミニバンの常識を塗り替えるスタイルと色 、モダンテックなデザインとは?【特別インタビュー】

■先代をベースにモダンテックに挑んだデザイン

セレナ・メイン
日産のデザインフィロソフィ「タイムレス・ジャパニーズ・フィーチャリズム」により一新したボディ。シンプルな面が特徴だ

ライバルである「ノア」「ヴォクシー」「ステップワゴン」に続いてフルモデルチェンジされた日産の新型「セレナ」が好評です。

モデル末期まで安定した売れ行きを見せた先代からどのように進化したのか、デザインを統括した入江慎一郎氏にお話を聞きました。

●先代セレナと新型セレナのコンセプト

── まず最初に、先代のデザインをどのように評価したかを教えてください。

セレナ・デザイナー
日産自動車株式会社
グローバルデザイン本部
第二プロダクトデザイン部
プログラム・デザイン・ダイレクター
入江慎一郎氏

「先代はマイナーチェンジ前後で印象を変えていますね。前型はファミリーフレンドリーなスタイルの中で、セレナのコンセプトである『BIG』『EASY』『FUN』を、シートアレンジなどインテリアを中心に展開しました。一方、後期型はエクステリアの押し出しの強さをテスト的にトライした。とくにフロントはラジエターグリルのドットパターンでダイナミックさを狙い、その流れが新型につながっていると思います」

── その新型ですが、デザインコンセプトはどう考えましたか?

セレナ・スケッチ
造形上のテーマがよく見て取れるスケッチ。広いガラスエリアと豊かになったフェンダーに注目

「特別なキーワードは設けませんでした。『アリア』以降のデザインフィロソフィである『タイムレス・ジャパニーズ・フューチャリズム』として、上品さや上質さをベースに、簡潔で洗練された表現がどこまでできるか。また、e-POWERなど電動化を示すモダンテックなテイストにより、先の3つのコンセプトを進化させることが目的でした」

●新しい世代のVモーショングリル

── では、フロントから各部分について伺います。全体的にシャープな印象ですが、フードの丸味が意外なほど強いですね。

「そこはデザイナー陣が絶妙にコントロールした部分です。モダンさを狙うとどうしても冷たくなりがちで、そこにファミリーカーとしての温かみを感じさせるエモーショナルさを取り込んだ。それと、Vモーショングリルのテック感とのコンビネーションを作る、つまり、フロントをハイコントラストな見せ方にしたかったんですね」

セレナ・フロント
新世代のVモーショングリル。ヘッドランプの外側まで広がった一体感のある造形だ。フード先端の丸味が意外

── そのVモーショングリルについて。「ノート」や「サクラ」では外枠にV字を強調するヘッドランプ下のパーツが付いていましたが、セレナにはありません。これは進化したVモーションということですか?

「はい、新世代のVモーションです。横桟のクロムバーをそのまま下に流したもので、ある種デジタル的な配列表現です。また、従来のグリルはランプの内側にありましたが、新型ではランプを含めた非常にワイドな形状になった。ただ、それで重く厳つい印象にならないよう、女性スタッフの意見などを元に調整、ハイウェイスターであっても上品さを確保しています」

──新型はフロントフェンダーのフィニッシャーがユニークです。ただ、セレナ独自の「シュプールライン」がランプにつながる流れ自体は先代も同じでした。

セレナ・フェンダー
ドアミラー前のオペラガラスとフェンダーをつなげることで、独自のシュプールラインを長く見せることを狙った

「そのシュプールラインをより長く見せるにはどうしたらいいのかを考え、いっそのこと三角のオペラガラスとフェンダーをつなげてしまおうと。ブラックアウトしたヘッドランプとフェンダーフィニッシャーのピアノブラックをつなげ、ボディをグルっと1周するイメージですね。その結果、『BIG』の表現としてキャビンが長く見える効果もあります」

●どうしても取りたかったサイドシルの「板」

── 次にサイド面です。サイドシルの「エグり」は、乗員の足が引っかからないための形状と聞きましたが?

「それも含め、ここは一番やりたかった部分なんです。先代のハイウェイスターはここに大きな『板』を付けて3ナンバー化していたのですが、後付け感があったのと、これによってタイヤが引っ込んで見えてしまった。なので、まずはこれを取りたかったのです。結果、この『エグり』は乗降性の向上と、タイヤとボディの関係も改善し、スッキリしつつ、エアロダイナミックな表情も出せたと思います」

── リアフェンダーですが、先代がほぼフラットだったのに対し、張り出し感が出ました。

セレナ・サイド
シンプルになったプレスラインと、抑揚を持たせたリアフェンダーの対比がよく分かる

「先のフードの丸さと共通していますが、ミニバンのフラットな面にエモーショナルさを加えたかった。新型はプレスラインがリアに向けて絞られているのですが、これに対応してフェンダーを張り出し、前方に向かってブリスター風の造形にしました。ドアの厚みがなくて難しかったのですが、ここはクレイモデラーさんの技術によります」

── リアパネルでは、ガラスエリアが先代より広く見えるのですが、ここは変更しましたか?

「ガラスの広さは変わっていませんが、ガーニッシュの位置は若干下がっているかもしれません。また、新型はサイドのプレスラインがリアに回り込んでナナメ下に落ちています。これによって低重心で安定感のあるスタンスを得ているんですね」

●究極のシンプルさの中の高級感を狙う

セレナ・カラー
新色の「ターコイズブルー」と「利休」。ミニバンとしては珍しく色の変化にこだわって開発された

── つぎに、新しいボディカラー2色についてお伺いします。まず、「ターコイズブルー」は空や海をイメージしたと聞きますが、その意図をもう少し詳しく教えてください。

「実は、日産の発祥地である横浜をリスペクトした色なんです。同時に、アウトドアシーンでの空や海をイメージしました。ただ、単なる青ではなく、深緑を入れることで色の変化を狙っています。屋外で見ると、フードの曲面などでは従来のミニバンになかった色の変化が分かると思います」

── いっぽう、「利休-りきゅうー」は茶室の土壁をイメージしたといいますが?

「アウトドアらしいアースカラーですが、それに止まらず、日本的な凛とした上質さを狙いました。具体的にはハイライト部分に相性のいい青を入れています。ソリッドのベージュは発色がいいのですが、どうしてもダルさが出てしまうので、より引き締まった発色としたかったのです」

セレナ・インテリア
シームレスでフラットなインパネは最近の日産が進めている表現。ラウンドしながらも広がりを感じさせる

── インテリアですが、包まれ感のあるシームレスなインパネが特徴的です

「シームレスでフラットなインパネは、最近の日産が取り組んでいるテーマで、より広さ感を出す表現ですね。中でもセレナは、ミニバンとしてその効果が如実に出ていると思います。また、インパネ手前はステッチラインをラウンドさせることで、包まれながらも空間の広がりを感じさせる効果があるんです」

── では最後に。今回新しいセレナのデザインを手掛けて、今後の「タイムレス・ジャパニーズ・フューチャリズム」にどのような可能性を感じましたか?

「極限まで要素を減らしつつ、しかし、デザインの色気のようなもの、たとえばダイナミックさやエモーショナルさを表現するのは非常にチャレンジングです。ただ、成功すればそれ以上のモノはない。幾何学形は究極のシンプルさで、いちばん強いカタチと言われますが、まさにその次元のデザインです。こうした、素材のよさによる造形は高級感にもつながるんですね。あれこれ加えるのは『タイムレス』とは言えないんです」

── 究極のシンプルさと言えますが、そこには極めて高い技術が必要になりそうですね。本日はありがとうございました。

(インタビュー:すぎもと たかよし

この記事の著者

すぎもと たかよし 近影

すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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