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■前後輪トルク配分を「100:0」~「20:80」で可変させる「E-Four Advanced」を採用
トヨタ・クラウンは、1955年に誕生し、現行型で16代目になりました。
歴代史上、大変革を遂げた新型クラウンは、グローバルモデルになり、エンジンを横置きしたFFをはじめ、クロスオーバー、スポーツ、セダン、エステートという4タイプを設定するなど、車名こそ残ったものの、別のクルマに変わった印象すら受けます。
最初に投入されたのはクラウンクロスオーバーで、2.4Lターボを積むデュアルブーストハイブリッドシステム、2.5L NAエンジンを積むリダクション機構付シリーズパラレルハイブリッドシステムという2本立て。
駆動方式は、ともに電気式4WDシステムである「E-Four」です。
なお、2.4Lターボ仕様には、前後輪トルク配分を「100:0」〜「20:80」で可変させる「E-Four Advanced」が組み合わされています。
さらに、後輪操舵を担うDRS(Dynamic Rear Steering)が備わり、低速域では後輪を逆位相とすることで、高い取り回し性を確保。中速域では、後輪を前輪と逆位相とすることで、軽軽感を高め、さらに高速域では同位相とすることにより、安定感を実現するシステムになっています。
●ターボとモーターで「デュアル」ブースト
箱根で行われた試乗会は、「トヨタ」ブランドで初となるデュアルブーストハイブリッド仕様をメインに、2.5L NAモデルにも乗り比べることができました。
余談ですが、デュアルブーストの「デュアル」は、ターボとモーター(前後)から命名されています。ボルボは、C40、XC40のバッテリーEVで、「Single Motor」「Twin Motor」と車名に入れています。
クラウンのデュアルブーストハイブリッド仕様もターボ、フロント、リヤのブーストからトリプルブーストと表現するのもアリだったかもしれません。このデュアルブーストハイブリッド仕様は、新型レクサスRXにも搭載されています。
注目のデュアルブーストハイブリッド仕様は、エンジンとフロントモーターが2つのクラッチを介して、6速ATの「Direct Shift-6AT」に接続されるパラレルハイブリッド。
2.4Lターボが積む「Direct Shift-6AT」は、トルコンの代わりに(トルコンレス)フロントモーターが組み込まれています。
モーターとエンジンは、湿式の多板クラッチで接続。さらに、リヤモーターは水冷式のeAxelという構造になっています。なお、駆動用バッテリーは、アクアで量産初として採用されたバイポーラ型のニッケル水素電池が搭載されています。
同バッテリーは、集電体を正極、負極で共有し、部品点数を少なくすることで電池を小型化が可能。また、通電面積が広く、シンプルな構造のため、電池内抵抗を低減。大電流が一気に流れることにより、従来型のニッケル水素電池よりも高出力化も果たしています。
デュアルブーストハイブリッドシステムは、モーターのアシストにより発進からスムーズで力強いトルクが得られるだけでなく、ターボの過給によってさらに一段階鋭い加速を引き出せます。また、高速域でもターボが加勢することで、パンチ力のある伸びを享受できるのが魅力。
さらに、6ATとの組み合わせにより、従来のTHS IIよりもダイレクト感があるのも美点です。6速ATの「Direct Shift-6AT」は、フォルクスワーゲングループなどのデュアルクラッチトランスミッションと比べると、ギヤシフト時のダイレクト感ではさすがにかないませんが、スムーズさでは明らかに上。ヌメッと加速する感覚も拭えないTHS IIよりも切れ味を味わえます。
●カタログ燃費では2.4L NAのシリーズパラレルハイブリッドシステムが大幅に上回る
WLTCモード燃費では、2.4L NAのシリーズパラレルハイブリッドシステムが22.4km/Lに対し、15.7km/Lと大きく譲るものの、システムトータル出力349PS(2.4L NAは234PS)による速さは、公道ではまずすべてを解き放すのは無理といえるほどの速さ。
また、「E-Four Advanced」は、前後トルク配分が「100:0」~「20:80」で緻密に制御されているため、どういった駆動配分で走っているのかは当然分からないものの、山道での安定感も群を抜いています。
路面を捉えて放さないロードホールディング性能の高さが際立っていて、コーナリング姿勢の安定による安心感の高さにつながっています。
つまり、ドシッと腰が据わったような旋回姿勢を示してくれます。
「RS」は、電子制御式可変ダンパーの「NAVI・AI-AVS」が備わり、路面に応じて減衰力を自動調整するとともに、前方にあるコーナーの情報によりあらかじめ姿勢を作ってくれることで、積極的な走りも容易になります。
後輪操舵のDRSと相まって、その旋回性は鋭さも併せ持っています。コーナーが奥になるほど、回り込むようなブラインドコーナーでもグイグイとノーズがインに向き、しかもボディの姿勢は終始安定しているわけです。安定していて、しかも自在にノーズをインに向け、さらにボディの揺り戻しも少ないというフットワークの良さを享受できます。
ターボ+ハイブリッド仕様(デュアルブーストハイブリッドシステム)は、「RS」系グレードのみで、21インチタイヤを装着。
225/45R21インチというタイヤサイズを履いているにもかかわらず、荒れた路面以外ではフラットライド感があり、後席も含めて乗り心地は思ったより(21インチなのに)も快適でした。可変ダンパーの効果も絶大といえそう。
電制ダンパーの「NAVI・AI-AVS」がない標準サスペンションの2.5Lハイブリッド車も荒れた路面以外ではラフさもなく、後席も含めて十分に快適といえる乗り味といえます。
●急に高まる感のあるエンジンサウンド
一方で、アクセルを強めに踏み込むと、それまで静かさに包まれていた車内に、大きめのエンジンサウンドが届いてきます。やや唐突に音が高まる印象もあり、スポーティと受ける取るのか、静粛性は中間加速域ではもう少し取るのかは、車種のキャラクターによって変わってきそう。
なお、新型レクサスRXは、車格も車形(エンジンコンパートメントとキャビンの距離なども含め)も価格帯が異なることもありますが、より高い静粛性が維持されていた印象を受けました。また、2.5L NAエンジンを積むシリーズパラレルハイブリッドシステムも決して遅いというフィーリングはなく、山岳路でもいざとなればスポーティな走りを堪能できます。
ただし、2.4Lターボよりも軽快感がある代わりに、腰高感があり、鋭いハンドリングやパワートレーンのパンチ力、スタビリティでは2.4Lターボが1枚上手という印象。
新型クラウンクロスオーバーのスタイリングに惚れて、燃費も重視したいのであれば、2.5L NAエンジンでも高い満足感が得られるはずです。
ただし、リヤシートの40:20:40分割式のパワーリクライニング、リヤセンターアームレスト(カップホルダー+トランクスルー機能付)は、2.4Lターボを積む「RS Advanced」にのみセットオプションになっていますので、後席の快適性、長尺物の積載も重視するのであれば「RS Advanced」が最適です。
(文:塚田 勝弘/写真:小林 和久)