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■マシントラブルで惜しくも31位
カーボンニュートラル実現に向け、「エコで楽しい」バイクなどの創出を目指し、ヤマハが現在行っているのが電動トライアルバイク「TY-E2.0」のプロジェクト。
100%モーターとバッテリーで走るTY-E2.0は、山間部にある複雑なセクションを走り抜けるトライアル競技向けに開発された電動バイクですが、ついに2022年8月27日〜28日、世界最高峰の大会「2022年FIMトライアル世界選手権」の第5戦フランス大会に参戦。
結果は、マシントラブルなどもあり、残念ながら31位に終わりましたが、TY-E2.0で大会に参戦した日本人トップライダーの黒山健一選手は、世界で「戦えるバイク」に仕上がっていたとコメント。そのパフォーマンスの高さを実感したようです。
●ハードなオフロード競技向けの電動バイク
TY-E2.0は、ヤマハが2018年から開発を進めている電動トライアルバイクです。
ちなみにトライアルとは、山間部などの高低差や傾斜が複雑に設定されたセクションと呼ばれるコースを、いかにバイクに乗ったまま足を付かずに走り抜けるか(足を付くと減点)を競う競技です。
競技では、急な登りの傾斜を走り抜けたり、大きな岩がゴロゴロあるような場所を前輪を上げながらクリアするなど、とにかくハード。マシンのトータル性能とライダーの高いテクニックが要求されます。
そんなトライアル競技用として開発されたのが、このマシン。初代モデルのTY-Eは、2018年と2019年に世界選手権「トライアルEカップ」へ出場し、今回もライダーを務めた黒山選手のライディングで、2年連続のランキング2位を獲得しています。
2022年3月に発表された2代目のTY-E2.0は、TY-Eをベースに、新設計のCFRP製コンポジット(積層材)モノコックフレームを採用。パワーユニットやバッテリーのレイアウトを見直すことで、前モデルとの比較で大幅な低重心化を達成しています。
また、前モデル比で約2.5倍の容量を持つ新開発の軽量バッテリーを搭載するなどで、より戦闘力をアップ。
クラッチやフライホイールなどのメカニズムと、微妙なグリップの変化を読み取る電動モーター制御の組み合わせにより、パワーユニットも熟成し、トラクション性能なども向上させています。
●追い上げ体勢でポテンシャルを発揮
TY-E2.0が、今回挑戦したのは、世界最高峰のFIMトライアル世界選手権。その中でも、2022年シーズンより電動車とガソリン車が混走することとなったトライアル2クラスに参戦しました。
難易度の高い12セクションを2ラップするのが今回の大会。1ラップ目、黒山選手は序盤の2セクションで減点5となりましたが、その後は減点を抑え、25番手前後をキープ。
しかし、第11・12セクションで減点5となり、1ラップ目を減点41で終えました。
続く2ラップ目、黒山選手は減点5でスタートしたものの、第2セクションで初のクリーンを獲得すると、その後の第4セクションでもクリーンとし、追い上げ体勢に。
ところが、第7セクションでマシントラブルが発生。ピットに戻り修復を試みたものの修復が困難だったため、残りのセクションをエスケープすることで完走。
結果的に、36台中(電動車はTY-E2.0を含め2台)31位で大会を終えました。
●モーターのトルクとパワーは十分
リザルト的には少し残念でしたが、今回の参戦目的は、あくまでTY-E2.0の実力確認や実戦を通したデータの獲得、課題の抽出など、さらなる開発に向けた情報収集が主眼でした。
ヤマハは、今回の参戦により
「当社の電動トライアルバイクの正確な現在地を把握するとともに、さまざまな課題の抽出と貴重なデータを収集しました。今後はこのデータを幅広い方面に活用していきます」
とコメント。
また、黒山選手は「最後まで走りきれなかったのは残念」といいつつも、
「モーターのトルクとパワーは十分で、車両トータルのパフォーマンスも高く、難しいと思ったところもほとんどがいける、戦えるバイクになっていました」
と、TY-E2.0のポテンシャルの高さを実感したそうです。
さらに、「クラッチの耐久性や、トラブルを見据えた整備性」などの課題も明確になったとのことですから、今後これらデータを活かし、さらに戦闘力がアップされることが期待できそうです。
TY-E 2.0と黒山選手の挑戦は、まだ始まったばかり。
ヤマハが目指しているのは、EVならではの力強い低速トルクや加速性能などで、「内燃機関を上回る楽しさ」を持つバイク。
将来的に、どんな電動モデルが出来上がるのかも含め、今後に期待したいですね。
(文:平塚直樹)