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■上質感を追求した4代目エクストレイル
北米で日産ローグの名で販売されている日産エクストレイルの新型モデルが発表されました。発売開始は、2022年7月25日(月)です。
日産エクストレイルは、クロカン4WDほどの悪路走破性は持たないものの、高い悪路走破性を強みとしてきました。アウトドアや離れ業の数々を披露する「エクストリームスポーツ」を想起させるプロモーションなどもあり、2001年から10年連続でSUV販売台数ナンバー1に君臨。
しかしその後、コンパクトからミドルサイズまで、数多くのSUVが登場したのはご存じのとおりです。初代のホンダ・ヴェゼルがSUV販売ナンバー1に輝き、マツダCX-5やトヨタRAV4、SUBARUフォレスターなどの国産勢のほか、輸入車も含めて激烈な競争が展開されてきました。
エクストレイルは、「TOUGH GEAR」を掲げ、2000年11月に初代がデビュー。2代目も「TOUGH GEAR」というイメージで、2007年から2012年まで販売されました。
2代目には、世界で初めて日本のポスト新長期に対応したクリーンディーゼルも設定。そして従来型の3代目は、「TOUGH GEAR」に加えて、「Advanced TECH.」というコンセプトも加えられ、2013年から2021年という長寿モデルになりました。2017年6月のマイナーチェンジで「プロパイロット」を採用するなどのテコ入れもあったものの、ライバルに対してモデルチェンジのサイクルが長くなったことも、販売がシュリンクしていった一因といえそうです。
4代目となる新型は、「TOUGH GEAR」、「Advanced TECH.」に、「Refined(上質)」というテーマも加えられています。ブームから定番化しているSUVは、ここ10年で40台以上が増加し、75%を占めているという調査もあります。購入価格帯も上昇し、350万円以上が過半数を占めているそうです。
先述したように、国産SUVだけでなく欧州SUVの選択肢も増え、電動化対策などで今後はさらに価格が上がっていくかもしれません。ちなみにマツダがラージクラスのCX-60を投入した背景には、CX-5からのステップアップしたい顧客を着実に捕まえたいという狙いがあるようです。
●全幅が20mm広がったものの、最小回転半径は0.2m小さく
新型エクストレイルは、北米のローグから約2年遅れの投入になります。新型エクストレイルは最新の「e-POWER」と、日産アリアにも搭載される電動駆動4輪制御技術「e-4ORCE」という最新技術を搭載するため、満を持してのデビューとなったようです。
日本仕様の新型は、e-POWER専用モデルになっています。車体であるプラットフォームも一新されていて、軽量化、車体の高剛性化などのメニューも盛り込まれています。
筆者だけでなく、多くの人が気になるのがボディサイズでしょう。全長4660×全幅1840×全高1720mm、ホイールベースは2705mm。最小回転半径は5.4mです。最低地上高は2WDが200mm、4WDが185mm。従来型(先代)は、全長4690×全幅1820×全高1730mmで、ホイールベースは2705mm。最小回転半径は5.6mでした。
新型になり、全幅は20mm拡幅されたものの、1850mm以下に収まり、全長は30mm短くなっています。最小回転半径も0.2m小さくなっていて、日本の道路環境、駐車場事情にも十分に配慮されているのがうかがえます。新型車の多くが肥大化する中、日本のユーザーに寄り添ったディメンションといえそうです。新型の開発陣からも日本でストレスなく扱うには、この辺りのサイズまでが限界という声もありました。
●第2世代「e-POWER」、可変圧縮比エンジン「VCターボエンジン」を搭載
パワートレーンは、先述したように100%電動駆動で、第2世代の「e-POWER」にスイッチしています。さらに、モーターを駆動するための電力を発電するエンジンは、日産が世界で初めて量産化にこぎ着けた可変圧縮比エンジン「VCターボエンジン」が搭載されています。
e-POWER用にチューニングされたVCターボエンジンにより出力が大幅に向上し、エンジンの回転数を抑制。さらにモーター、インバーターが新しくなり、よりスムーズで静かな走りを享受できます。VCターボの出力は106kW/250Nm、フロントモーターは日産ノートの1.2倍となる150kW/330Nm、リヤモーターはノートの1.9倍に達する100kW/195Nmとなっています。リヤモーターのトルクは、RAV4(ハイブリッド)の倍くらいという分厚いトルクを誇ります。
クローズドコースで試乗すると、停止時から電動駆動らしいスムーズな加速フィールが得られるのはもちろん、コーナーなどからの加速Gの立ち上がりもスムーズかつパワフルで、ストレスフリーといえる加速感が得られます。
とはいえ、欧州の超高級EVのように、不用意にアクセルを踏む込むと身体がシートに押しつけられるほどの超弩級ではなく、扱いやすい範囲に収まっているのも好印象です。これなら高速道路から山岳路まで力強いトルク感と高速域のパンチ力を安心して引き出せそうです。
モーターやインバーターの刷新を含めて、圧縮比を8〜14まで自在に可変できるVCターボの効果も実感できます。1.5Lから2.8Lの排気量に相当するというVCターボは、マルチリンク機構とアクチュエーターで14:1という高圧縮比、8:1という低圧縮比の間で可変。e-POWERとの組み合わせにより、低速域から全開加速までシーンに応じて最適な加速を引き出せます。
また、ドライブモードは「AUTO」、「SPORT」、「ECO」、「SNOW」、「OFF-ROAD」が用意されています。さらに、アクセルペダルだけで車速を自在にコントロールできるいわゆる「ワンペダル」モードの「e-Pedal Step」の採用もあり、加減速を繰り返す市街地走行に加えて、油圧ブレーキと回生ブレーキを最適に制御。コーナーでよりコントロールしやすくなっているほか、滑りやすい雪道や下り坂でも安心して走破できるそうです。
しかし、走行モードのメーター表示が2つの階層に分かれてしまっていて、少し戸惑うシーンもありました。
●静粛性を大幅に高めた3代目
さらに、電動化の恩恵も含めて静粛性の高さも享受できます。新開発プラットフォームをはじめ、吸音・遮音材の適切な配置(吸音材は厚さが2倍になった箇所も)やフロントドアの遮音ガラスが採用されています。
エンジン始動時の音・振動の徹底した遮断も効果的で、エンジン始動時は、ほかの騒音なども要因としてありますから、ほとんど気がつかないレベル。クローズドコースで試乗した限り、高速道路でも前後席で普通に会話しながらドライブが楽しめるほどの静粛性を手に入れているはず。
技術面のトピックスである「e-4ORCE」は、前後モーターと左右のブレーキを制御することでコーナーでも意のままの走りを堪能できます。
4輪のグリップ限界を算出し、モーターとブレーキで各輪の駆動力をコントロールできる「e-4ORCE」は、高速コーナーからS字コーナーなどがあるクローズドコースでもその実力の一端を垣間見ることができました。コーナー手前のブレーキング時ではノーズダイブを抑え、コーナーの入り口で操舵する(ターンイン)ときは後輪駆動になり、コーナリング中には内輪のブレーキをつまみ、外輪に駆動力をかけることでスムーズな姿勢でコーナーをクリアできます。しかも、こうした介入ぶりを過度に伝えることなく、比較的ナチュラルな操舵感を伴っているのも美点といえます。
さらに、エクストレイルといえば、高い悪路走破性でしょう。クロカン4WDほどではないものの、雪道やオフロードでの走破性が従来型よりも高められているそうです。乗り味、乗り心地に関しては、比較的路面が良いクローズドコース、という前提つきにはなりますが、とくに前席はフラットライドを基本に、細かな振動もよく抑えられている印象を受けます。
後席は若干、リヤホイールハウスからの騒音と、路面からの微振動が感じられますが、先述したように静粛性の高さを武器に、上質な乗り味を享受できます。
●リヤドアは大開口部を確保し、2列目はロングスライドが可能
新型にも2列シート、3列シート仕様が設定されています。なお、2WDは2列車のみで、4WDに2列と3列を設定。2列目までの乗降性は良好そのものです。
SUVらしく若干高めのフロアではあるものの、後席ドアが大きく開くようになり、SUVとしてはかなり広めの開口部足元によりラクに乗り降りできます。
気になるのは、サードシートの乗降性と座り心地。3列目にアクセスする際の足元、頭上の開口部はさすがに狭く、かなり窮屈な姿勢になります。シートに収まってからも座面の低さに加えて、身長171cmの筆者で、天井に頭が付くか付かないかという頭上空間も気になります。足元、頭上空間だけでなく、シートサイズも含めて子どもや160cm以下の方であればある程度実用になりそうですが、あくまで短時間用、非常用の域は出ません。
一方で、2列目は先代よりも20mm拡大された前後スライドにより、状況に応じて足元空間を調整できます。最も前にスライドさせれば、1列目からも2列目に座る子どものお世話などもある程度できそう。
また、2列目はヒップポイントを下げて頭上空間を広くするなど、ライバルと比べても広さを実感できるはずです。積載性も高く、サードシートは5対5分割可倒式で、床下にフラットにダイブダウンできます。
セカンドシートは、4対2対4の分割可倒式。フラットに前倒し可能で、フレキシブルラゲッジボードはなくなりましたが、エクストレイルに期待される荷物の積みやすさは健在です。
そのほか、最先端の先進安全装備の搭載も見逃せません。360度全方位の安全を確保できる「360°セーフティーアシスト(全方位運転支援システム)」をはじめ、新たに万一に備えて「SOSコール」を搭載。
対向車や先行車の有無に応じてハイビームの照射位置をコントロールする「アダプティブ LED ヘッドライトシステム」、高速道路の単一車線での運転支援技術である「プロパイロット」には「ナビリンク機能」が追加されています(NissanConnectナビゲーションシステムとのセットオプション)。こちらはナビと連動し、地図データを元に制限速度に応じて設定速度の切り替え、コーナーに応じた減速支援などにより操舵をサポートする機能。
さらに、駐車時にステアリング、アクセル、ブレーキ、シフトチェンジ、パーキングブレーキのすべてを自動で制御する「プロパイロット パーキング」も採用されていて、縦列駐車、並列駐車、車庫入れをサポートします。
新型エクストレイルは、持ち前のタフさに加えて、上質感が備わり、自慢の先進安全装備もアップデートされています。競争が激化しているミドルサイズSUVにおいて、3列シートも設定しているなどの個性もあり、どれだけ販売を伸ばせるか要注意です。
●ボディサイズ:全長4660×全幅1840×全高1720mm
●2WD価格
「S」:319万8800円
「X」:349万9100円
「G」:429万8800円
●4WD (e-4ORCE)価格
2列シート車
「S e-4ORCE」:347万9300円
「X e-4ORCE」:379万9400円
「G e-4ORCE」:449万9000円
3列シート車
「X e-4ORCE」:393万300円
(文:塚田 勝弘/写真:前田 惠介)