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■緊急事態からドライバーを安全に帰還させることを可能にするマツダのCO-PILOT 2.0
●やっぱりマツダは他とは違う、パッセンジャーに寄り添った安全運転支援、自動運転レベル2
高速道路の追い越し車線を走行中、突然運転中のドライバーの首ががっくり垂れる。すでに意識は無さそうだ。ドライバーの手はハンドルから離れ、頭はサイドウィンドーにもたれかかっている。
CO-PILOT 2.0システムが、室内に設けられたドライバー監視カメラで異常を感知する。と同時に、軽やかな電子音アラームが作動する。
ナビが表示されていたマルチファンクションディスプレイが切り替わり、「ドライバー異常を検知しました」とメッセージが掲示され、次に、より大きな音量でシステム起動音が鳴ると、落ち着いた男性の声で「ドライバー異常のため1km先のパーキングに停車します」とアナウンスを行う。
ステアリングとアクセル、ブレーキの操作は全てシステムに引き継がれ、同時にディスプレイは「安全な場所に移動しています」と同乗者に車両の状態を報せる。
車外ではハザードランプが点灯し、次に断続的にホーンが鳴らされて周囲のクルマに異常事態を報せる。車両は減速に入り、ブレーキランプは速めの点滅動作を行った。
ディスプレイには車線変更の告知が出て、再び男性の落ち着いた声で車線変更がアナウンスされる。走行車線に車線変更してゆっくりとクルマを走らせながら、すでにシステムがデジタルマップから、探し出している直近の安全な停車場所に向けて自動で操縦を行う。
以後、その自動操縦にディスプレイとアナウンスが協調しつつ、クルマは安全なパーキングに停止し、停止後ヘルプネットシステムを介して、警察と消防へと自動通報が入る。
これがマツダのCO-PILOT 2.0システムの一連の動作である。
●マツダの高度なADAS技術は「人間中心」
ドライバーに何かあった時、ADAS(Advanced Driver-Assistance Systems/先進運転支援システム)がドライバーに代わって運転を引き継ぎ、安全にクルマを停める。目的はそこにある。仮に居眠り運転が起きてもこのシステムはフォローできるだろうし、マツダからアナウンスは無いが、将来的には薬物使用や泥酔運転などのアウトロー行為から社会全体を守ることにも役立つだろう。
すでにCASE革命[Connected(コネクテッド)/Autonomous(自動運転)/Shared&Services(シェアリングとサービス)/Electric(電動化)]が争点という話になって数年が経過しているが、その進歩は著しい。ADASとその先へと繋がる自動運転へと一直線に向かっているように見える。
ところが、マツダは例のごとく他社とだいぶ違う。マツダの基本的思想は「人間中心」である、人とクルマは常に良きパートナー状態にあり、もし人の身体にトラブルがあったら、それをクルマがカバーする。だからこそ、システムはCO-PILOT(副操縦士)であり、そこでは操縦士たるドライバーとワンチームなのである。ドライバーが運転を放棄してコ・パイに任せっぱなしにすることを、原則的にはよしとしない。
こうした、ドライバーに何かあったとき、さっと出て来て助けてくれるシークレットサービス型のADASを訴求するメーカーは少数派で、マツダのCO-PILOT以外ではトヨタのガーディアンくらいしか存在しない。恐らく他社でもやっているのだろうが、それをメインに発表しようとはしていない。
一般的にはもっと華々しく分かりやすい、「ニューヨークからロサンゼルスまで自動運転だけで走りきる」みたいな発表を行っている。ただ、そういう自動運転系は現実にはほぼ無理で、夢を売るビジネスに近い。法律の全面改定を行わない限り実現しない。
たとえば、ラッシュアワーに、ひっきりなしに人が道路を横断する信号の無い交差点で、我々が現実にどうやってクルマを進めるかと言えば、接触しないように注意しながら、そろそろとクルマを前進させて、歩行者がどこかで譲ってくれるのを期待する。
もちろんこれは法律上はアウトで、本来、歩行者が完全に途切れるまでクルマは動いてはいけない。ところがこの法律は、歩行者が途切れない交差点の存在を想定していない。自動運転は法律に完全に従うしかないから、こういう状態では、ラッシュアワーが終わって歩行者の通行量が減るまでの数時間、止まって待ち続けるしかない。
ということで、これは法律が変わって、歩行者優先に例外事項を設定するか、歩道と車道の間にホームドアの様なものでもつけるくらいまでやらないと出口がない。ということを勘案すれば、矛盾が解決できない完全自動運転の夢をいたずらに追うよりも、今すぐ実用的に社会の役に立つ装備が求められる。
それに対する回答のひとつが、今回マツダが発表したCO-PILOT 2.0の様な、ドライバー救済型のADASである。
●まだコンセプトモデル…2022年に初搭載されるのは、FRのあのクルマ!?
さて、概要が分かったところでいろいろと知りたいことはあるだろう。いつどの車種に積まれてデビューするのか? そして出来はどうなのか? それを説明しよう。
まず、今回試乗したCO-PILOT 2.0は、まだコンセプトモデルであり、Mazda3に各種デバイスとシステムが仮に取り付けられた状態にある。言ってみれば「現状ここまでできました」という中間報告であり、ADAS領域で少々地味なマツダの「忘れないでね」という意思表示だと思う。
マツダの発表によれば、2022年にデビューするラージアーキテクチャーモデル、それはつまりFRのシリーズということになるが、それらに採用されることになる。監督官庁との折衝は今なお継続中で、ADASの時代の安全と、道交法が定められた時代のギャップがある。
たとえば異常検知後のシステムによる自動運転の最中は、周囲のクルマへの注意喚起として、ずっとブレーキランプを点滅させたいのだが、法律ではブレーキランプを点灯していいのはブレーキの動作中だけということになっており、そういう細々とした法律との調整にも時間を要している。そういう手間を惜しむとロクなことにならないので、しっかりと手続きを踏んで欲しいと思う。
さて、実際のシステム稼働時における自動運転の上手さの評価には、過去最良の点をあげて良いと思う。減速Gの出し方、荷重の掛かり方とステアリングの切り方、戻しのタイミングなど、Gの変化が極めてスムーズである。
考えてもみてほしい。あなたが助手席に座っていて、ドライバーが失神状態にあるのだ。そこで運転を交代したシステムが乱暴な運転をしたら、ちょっとしたパニック映画である。乗員に安心感を提供するジェントルな操作を行い、同時に、アナウンスの声も徹底して落ち着かせる方向にチューニングした男性の声を使うという調整が行われていることは、中々見事である。
ということで、このCO-PILOT 2.0の登場には大きな期待が寄せられるのだが、同時に、マツダのADAS、特にレーダークルーズコントロールとレーンキープアシストの制御レベルの向上にも期待したい。CO-PILOT搭載以外のクルマも、こういう上手なG制御ができる様になるのかとエンジニアに聞いた所、「まだプロトタイプなので…」と口を濁していたが、これは強く要望しておきたい。
マツダのADASは、全部このレベルにして欲しい。本当にそれができたら、この領域では完全にトップグループに躍り出ることができると思う。
(文:池田 直渡/写真:マツダ)