「ノッカルあさひまち」富山県朝日町で地方都市が抱える少子高齢化と公共交通機関縮小の問題へ解決策、マイカー乗り合い公共交通サービスを運用開始

■少子高齢化時代の新たな移動手段の誕生・富山県発「ノッカルあさひまち」

東京などとは異なり、もともと地方都市では公共交通機関の便が悪く、クルマがなければ生活が成り立たないのが現状でした。そこに前々から懸念されていた少子高齢化・人口減少の波が訪れ、買い物や通院といった日常的な移動が困難になるという問題がいよいよ浮き彫りになってきています。

高齢化でクルマの運転が困難になり、クルマを手放し、免許返上する人が増加。電車やバスに不便がなく、クルマがなくても何ら支障のない主要都市(東京・札幌・大阪・名古屋・福岡)在住の方なら何の抵抗もなくできるでしょうが、そうではない地方都市に住んでいる方にとって、免許返上は大きな決断力の要ることです。

地方在住だと、近くの駅やバス停まで行くのにクルマで15分はかかるのはザラ。いったん電車に乗ったにしても、駅から駅の間は20分ほどという有様です。このような環境ではクルマを手放すに手放せません。中には断腸の思いで免許返上に至った人も少なくないでしょう。幸いに病院への送迎をしてくれる家族がいたとしても、その送り迎えをする人も高齢化の途上にあるなら、免許返上も時間の問題。誰も彼もが運転できなくなったらこれからいったいどうしようと悩んでいる人も少なくないと思われます。

どの自治体も、公共交通機関を充実させるという理想を掲げながらも税収や資金・人手不足を理由に打開策をあげられずにいる中、「これが解決へのひとつの方向性を示しているかな」と思われる取り組みを富山県朝日町が発表しました。

●鉄道、バス、タクシーに続く、第4の公共交通機関となるか?

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「ノッカルあさひまち」のロゴ。

マイカー乗り合い公共交通サービス「ノッカルあさひまち」がそれです。

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締結調印をすませた、博報堂・常務執行役員 名倉健司氏(左)と、富山県朝日町・町長 笹原靖直氏(右)。

これは富山県朝日町、広告代理店の博報堂、自動車メーカーのスズキが、三位一体で実証実験を経て生み出したサービスで、2021年10月1日から本格運用を開始したと10月12日に発表、同日付けで富山県と博報堂が連携協定を締結しました。

このサービス内容は、決められたルート内にある各バス停で、乗客を乗せ降ろしするバス(と運転手)の役割を、一般個人のクルマとそのオーナーに置き換えたものです。したがって、乗客として利用するのが地域住民なら、運転するドライバーも地域住民。

詳しく説明しましょう。

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機能は極めてバスに近い。バスとの違いは、ドライバーも利用者と同じ地域住民であることと、クルマがそのひとのマイカーであること。
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車両には「ノッカル」のロゴが入ったプレートが貼り付けられる。

新たなサービス「ノッカルあさひまち」は、ご近所の人が自分のクルマで出かけるさい、移動したい人が「ついでに『乗っかる』」ことを公共事業化、助け合いや親切心という優しさを人の移動に振り向けて形にしたものです。

街の中心部と、その周囲に広がる各エリアを行き来するドライバーのクルマに、移動したい乗客が「乗っかる」から「ノッカル」。例えば、乗客が街のほうにある10km先の病院に行きたいとします。その方面に行くクルマがあれば乗り込み、病院近くで降りる…。こう書くとまるでタクシーのようで、乗客が「そこ右」といったら右に曲がってくれるような気がしますが、あくまでも機能は限りなくバスに近いもの。ルート経路は定められており、バス停に相当する「ノッカル停」とでもいうべき停留所や時刻表も存在します。

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クルマは一般車両だから、乗り込むさいの感覚は、タクシーとはまた別のものであろう。

つまり、乗客は最寄りの停留所から定められた時刻に乗り、病院なら病院近くの停留所で降りるというすんぽう。その時刻表も「街ゆき→(集落からの出発時刻)」「集落もどり←(街からの出発時刻)」とあり、いかにもローカルな風情が漂うものです。

テレビの地方の人口減少をテーマにするドキュメントもので、利用者の減少から「バス会社が赤字」とか「赤字路線」、「バス会社撤退」という言葉がときおり出てきますが、バスが減っていても、バスよりも定員数は少なくとも、人を乗せて動かせる、いつでも「スタンバイ!」状態にある乗りものがあります。そう、一般個人のクルマです。

このサービスがうまいのは、使われていない間は住民宅のガレージに眠っている個人車両に目をつけ、そのオーナーに、空き時間(=都合のいい時間)と手持ちのクルマを、人の移動のアシストにあててもらうことはできないか?と発想したところです。もちろん、個人持ちのクルマですから、見知らぬ人を乗せる、運ぶの役目をいきなり依頼することはできませんが、公共事業化し、ねらい(次項)に賛同してくれる人を募ることができれば、地方自治体が抱える高齢者・クルマ未所有者の移動困難を少しでも解消できることになります。

●利用方法

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利用料金はバス回数券で支払うしくみだ。

予約方法は3ステップ。

利用する前に、まずはウェブサイトまたは会員登録窓口での会員登録が必要です(本稿最後に)。

1. 乗車したい日の前日17時までに、予約窓口に電話予約を入れる。
2. 乗車当日、会員証とあさひまちバス回数券を持って、予約した時間の5分前までに停留所で待つ。
3. 「ノッカルあさひまち」と示されたクルマが停留所に来たら、ドライバーに会員証を見せてクルマにノッカル。

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この時代らしく、スマートホンで予約できるが、電話での受付も行っている。

ウェブサイトやスマートホンで予約できるほか、利用者の年齢層を想定し、電話ででも受付を行っているのが、デジタル時代にして親切なところです。

利用料金は、片道ひとりあたり、「1人で利用」ならバス回数券3枚(600円相当)、「2名以上で利用(乗り合い)」ならバス回数券2枚(400円相当)となります。複数名乗車のほうが、ひとりあたりの金額は200円お得になるという勘定です。

本格運用に至った理由は、

1. 地域内の交通利便性を高める
・既存のバス/タクシー/鉄道では対応できないニーズに応える。
・.特にバスの本数が少ない/バス停まで遠いエリアのニーズに応える)
2. 持続可能な公共交通づくりに繋げる
・持続可能な交通に向けては、多様な輸送資源の活用が必要
・車両/ドライバーの確保が難しい中、地域内の遊休資産(マイカ/町民ドライバー)を活用
3. 助け合いの促進に繋げる
・誰もがいきいき暮らせる街づくりのためには、共助の精神が必要

の3つです。

このサービスは最初からこの形で作られたわけではありません。朝日町は運行のあり方、ドライバーおよび利用者の募集&管理、博報堂はサービス設計などを、スズキはサービス設計を手がけたほか、一部車両の貸与およびそれらの維持管理を担っています。3社ばかりか、博報堂DYグループはシステムの構築、地元のタクシー会社である黒東自動車商会は、本業で手慣れた予約受付や配車の管理を「ノッカル」用についても担当。

これら5者(5社)がそれぞれの役割を持ちながら、まずは昨年2020年8月に、まずは試験的に町の職員が運転して地域住民を送迎する体(てい)で、無償でスタートしました。早くも2ヵ月後の10月には自家用車を持つ地域住民からドライバーを募って同じ町内の住民を送迎する方式も加え、当初の職員送迎式と併用化。今年2021年1月より前述した料金にて有償化し、この10月に運用を本格化しました。

もともと白ナンバープレートでの営業は行ってはいけないことになっていますが、道路運送法の改正により、令和2年11月に創設された「事業者協力型自家用有償旅客運送制度」に基づくものであればよいことになりました。これはバスやタクシーに代表される交通事業者による、そのノウハウを活かしての協力の下、使用権限を市町村が有する自家用車であれば、一般ドライバーでも運行業務に就くことを可能とするものです。したがって、運行業務に就くドライバーやクルマは、その間は市町村に属する立場となり、登録が必要です。また、利用料金はさきの回数券の金額からもわかるように、ドライバーが受け取る対価が実費の範囲にとどまるのは、この制度によるものなのです。

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新しい公共交通機関だが、バスやタクシーといった、既存の乗りものと併せて利用する人もいる。
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「定期的な外出が一般化」「92歳のおじいちゃんが10年ぶりに外出」なんて、運営側にとっては思いがけない効果だったにちがいない。

これまでの試験運用期間中、会員数は164人、利用者数はのべ799人、ドライバー数は22人となったとのことで、利用者は「ノッカルのおかげで買い物が増えた」「ドライバーと話すのが楽しい」「病院の行き帰りに利用」と述べ、ドライバーからは「近所の困っている人の役に立ちたい」「でかけるついでに気軽にできる」「地域に貢献できて嬉しい」という声が挙がったといいます。乗る側乗せる側、その感想のどれもこれもが、それまでのバス利用では得られないものばかりです。

●これが成功事例になってくれれば…

筆者は、いまは東京在住の身ですが、出身地の群馬県前橋市も似たような状況。他人事、いや、他県事ではありません。もともと群馬県はクルマの保有率が高いほうに属する県で、それは公共交通機関が発達していないゆえ。筆者の家から最寄りの両毛線・駒形駅に行くにもクルマで20分はかかります。東京と違って空きのタクシーが流れているわけでもなし。東京23区内なら、どこにいようと5分も歩けばどこかしらの駅にたどり着けるのではないでしょうか。筆者が東京に出てきてひっくり返ったのは、駅のホームから隣の駅のホームが見えることでした。それに引き換え、両毛線なら駅と駅の間は20分はかかるという有様です。

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現在の群馬県某バス停の時刻表。数時間に数本となっていた。減ったなあ~。

この記事を書くにあたり、前橋市内の某バス停の時刻表を調べたのですが、筆者が中学の頃に比べて本数が数時間に2~3本にまで激減していました(1時間平均1本以下!)。たまに帰る者の目には、休日の幹線路上のクルマの数は減っているように見受けられます。昔のほうがもっと多かったような気がします。外で遊ぶ小学生の姿もめっきり見かけなくなりました…。やはり人口減&少子高齢化の波は、まちがいなくわが群馬県にも押し寄せているのです。

父がひとりで暮らしていますが、当然普段はクルマ移動です。その父とて自ら「そろそろ免許返上を考えなきゃ」と口にするようなお年頃。しかしそうとわかっていても、行きつけのスーパーやかかりつけの病院など、平素どこへ行くにもクルマで最低20~30分はかかることを思うと、クルマを手放すことにも免許を返上することにも踏ん切りがつかないでいるようです。

本来は長男である筆者が「そろそろ返上したら」と提言すべきなのでしょうが、現実を思うとなかなかいい出すこともできません。ましてや、普段そばにおらず、クルマを手放した後に外出移動のアシストができるわけでもない者に、そのような無責任なことがどうしていえましょう? かといって、頻繁にニュースを賑わすブレーキの踏み間違いによる暴走事故は決して対岸の火事ではなく、心配ではあるのです。別に仲間を集めて安心しようというわけではありませんが、似たような境遇、心境にある方は多いのではないでしょうか。

わが家の場合は、いざとなったら近くに住む妹夫婦がサポートしてくれるでしょうが、家庭環境、家族構成は、100世帯あれば100とおり。クルマも免許も手放してしまったけど何となく家族には頼みにくい、息子夫婦とは疎遠になった、彼らも忙しいだろうなど、遠慮のほうが先行してしまう家庭もあるでしょう。

こういった事情に束縛されることなく移動できる手段を構築した、富山県朝日町の「ノッカルあさひちょう」のサービスが成功、定着すれば他の自治体から注目され、中には「この手があったか!」と膝をたたいてこの手法にノッカル自治体も出てくることでしょう。
日本全国津々浦々、そのようになることを心から願うばかりです。

【ノッカルあさひまち】

ノッカルあさひまち予約サイト
https://buscatch.jp/nokkaru_asahimachi/

ノッカルあさひまち 概要説明サイト(富山県朝日町サイト内)
https://www.town.asahi.toyama.jp/gyosei/gaiyo/kotsu/1594702432592.html

富山県朝日町サイト
https://www.town.asahi.toyama.jp/gyosei/gaiyo/kotsu/1594702432592.html

(文:山口 尚志 写真・図版:富山県朝日町/博報堂/山口尚志)