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■300km/h超えの765ccエンジンは市販車用がベース
世界最高峰の2輪車ロードレース「MotoGP」の登竜門として知られているのが「Moto2」。近年は、さらに下位クラスの250cc単気筒マシンで競う「Moto3」からMoto2へ、そしてMoto2でチャンピオン獲得や好成績を残した若いライダーがMotoGPへ昇格するという図式になっており、数々の実力派ライダーを輩出しています。
たとえば現在のMotoGPには、6度のチャンピオンに輝いたホンダのマルク・マルケス選手、2020年度に王座についたスズキのジョアン・ミル選手、21年シーズンで現在ランキング1位を爆走するヤマハのファビオ・クアルタラロ選手なども、Moto2からのステップアップ組です。
また、現在、日本人で唯一のMotoGPライダー・中上貴晶選手も2017年までMoto2で闘っていました。
そのMoto2では、マシンに搭載するエンジンを共通化していて、イギリスのバイクメーカーであるトライアンフが供給する765cc・3気筒エンジンを使用。
そのエンジンが2022年から2024年までのさらに3シーズンも使われることが発表されました。
しかも、そのエンジンは市販車「ストリートトリプルRS」用エンジンをベースにしたもの。普通のライダーでも乗れるバイクと同じエンジンで闘っているのです。
●ノーマルでも123psを発揮
Moto2は2010年からレギュレーションが変更され、参戦マシンについてエンジンの共通化が図られました(車体は各チームのオリジナル)。そのため、マシンの性能差が少なく、毎回白熱したレースが展開されています。
ベースとなるエンジンは、2018年まではホンダの市販スポーツモデル「CBR600RR」をベースとした4気筒を使用。トライアンフ製エンジンが使われるようになったのは2019年シーズンからです。ベースとなっているのは、前述したとおり、トライアンフ製ネイキッドモデル、ストリートトリプル・シリーズの最上級モデルRS。
同シリーズには、SやRといったモデルもランアップされていますが、RSはノーマルでも最高出力123psを発揮(Sは95.2ps、Rは118ps)。車両重量188kgという軽量な車体や最新の電子制御システムなどとの組み合わせで、街乗りやワンディングなど、幅広いシーンでアグレッシブな走りを実現します。
●数々の記録更新と若手ライダーの躍進
Moto2用エンジンは、これをベースに吸気効率の向上や高回転化により、140ps以上の最高出力を発揮します。さらに、最先端のエレクトロニクスパッケージによりパワーとトルクを向上させることで、数々の新記録が出るほどのパフォーマンスを発揮します。
このエンジンが使われるようになった2019年以降、34のレースでラップレコードが更新されたほか、Moto2マシンでは初となる300km/hオーバーの直線スピードも記録。オーストラリアのフィリップ・アイランドというコースで最高速度301.8km/hが達成されています。
そういった成果により、トライアンフ製エンジンでMoto2を闘ったライダーたちの中にも、現在はMotoGPに昇格し、大活躍している選手が数多くいます。
たとえば、2020年にKTMワークス入りしMotoGPのルーキーイヤーでいきなり自身はもちろん、KTMとしても初優勝を飾ったブラッド・ビンダー選手(2021年シーズンも第11戦オーストリアGPで優勝)。
そして、2021年シーズンでも、Moto2から昇格しドカティのサテライトチームであるプラマック・レーシングに入ったホルヘ・マルティン選手が、ルーキーながら大躍進! ポールポジションを連発すると共に、第10戦のステリアGPでは初優勝を決めるなど、破竹の勢いをみせています。
これらライダーの活躍は最高峰クラスMotoGPの勢力図を塗り替えるほどの勢いだけに、今後もMoto2から次世代のトップライダーが続々と登場するかもしれませんね。
ちなみに、2021年シーズンのMoto2には、イデミツ・ホンダ・チーム・アジアから小椋藍選手も参戦。クラス唯一の日本人ライダーだけに、今後の活躍に期待したいものです。
(文:平塚 直樹)