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■地道な作業でわかった、サイドアンダーミラーに映るエリア
筆者は「バカなことだ」「答えはわかりきっている」ということでも、「やってみなければわからない」という考えの持ち主で、何事もあえて実際に試すことにしています。
前に「ワイパーゴムの寿命はティッシュ1枚でこんなに違う!」の中で「ワイパーブレードの刃先を手入れすることで4年もたせた」と書きましたが、これなど実際に試さなければわからなかったことで、筆者はこれを「誰かがやらなきゃわからないバカ実験」と呼んでいます。
それはさておき、筆者の旧ジムニーシエラの左フェンダー上には、サイドアンダーミラーがついています。運転席から死角に入る左側方の部分を映し出す、育ちすぎたしいたけみたいな形をしているものですが、あまり役に立っていません。
今回、このクルマの納車時から試してみたかったことを実践してみました。すなわち、サイドアンダーミラーの映している範囲は、車両を外から見たときのどのエリアなのか?
真夏の炎天下、汗だくになって試した実験(といえるかどうかわからないが)のレポートをお届けします。
●サイドカメラ装備車には存在しないサイドアンダーミラー
2021年8月2日、トヨタから新型ランドクルーザーがフルモデルチェンジして発表されました。これまで「200」という型式番号で呼んでいたランクル通は、この新型を「300」と呼ぶようになるのでしょう。
「200」が2007年9月の発売でしたから、実に14年ぶりのフルチェンジとなります。ジムニー乗りの筆者にとって、「いつかはクラウン」ならぬ「いつかはランクル」という憧れを抱くクルマです。
今回の300シリーズから、従来200シリーズで全車標準装備だったサイドアンダーミラー(カタログ呼称:2面鏡式補助確認装置)がなくなりました。
200シリーズでは、オプションでマルチテレインモニターを選んだ場合には装備されませんでしたが、新型は逆にパノラミックビューモニターが全車標準になったために廃止されました。
このように360度タイプであれ、サイド限定であれ、生産ラインでの組立時に何らかのカメラ(とナビ)がつくクルマは、物理的なサイドアンダーミラーは装着されません。見えないサイド部分を見せる機能が重複するからです。
逆にナビなしカメラなし、サイドアンダーミラー付きのクルマを買った後、カー用品店で汎用ナビ&サイドカメラをつけた場合は、サイドアンダーミラーとサイドカメラ、両方で車両側面の死角部を得ることができることになります。
結論からいうと、左サイドの死角を見せる機能はサイドカメラの勝ち。筆者がジムニーの前に使っていた日産ティーダには「サイドブラインドモニター」がついており、左ドアミラーに備えられたカメラが左前輪付近の様子をナビモニターに生中継していましたが、鏡の場合と違って正像であること、目の前のモニターに適正サイズで映し出していることから、大いに役立ってくれました。
厳密にいうと、サイドカメラとフェンダー上のしいたけミラーの映す範囲は必ずしも一致しないのですが、死角の低減のためには備えるほうがいいでしょう。ただし、壊れた、故障したなどの際には、値段が高い点でカメラの負けとなります。
●では実践・・・
冒頭で記した目的に戻ります。
サイドアンダーミラーが見せているのは、車両を外から見たときのどのエリアなのか? 相当に難儀するはずだと覚悟しながら、方法を考えました。
【方法1】
1.自前の折りたたみ携帯電話の背面フラッシュランプを点滅させ、運転席ヘッドレストにゴムバンドで固定する。
2.車両左にしゃがみ、会社支給のiPhoneのサブカメラ(液晶側カメラ)を地面からアンダーミラーに向け、アンダーミラーを介してヘッドレストのフラッシュ点滅がわかる範囲をiPhone液晶内で確認する。
4.iPhoneを地面に這わせ、液晶を見ながら、アンダーミラーの枠周囲でフラッシュが消えかかる場所にさしかかったら、そのポイントの地面にチョークで印を付ける。
5.これを繰り返す。
つまり、「前のクルマのドアミラー角度が合っているかを知る方法」の記事中で述べた、「こっちからそっちが見えるなら、そっちからもこちらが見える」の道理をそのまま転用したのです。
ただしこのときは、ヘッドレストにかぶせた不織布をドライバーの目に見立てましたが、サイドアンダーミラーは像が小さくなって暗くなることから、わかりやすさを求めて、フラッシュランプに変更しました。
失敗でした。
まずiPhoneに映るアンダーミラーが相当小さくなること、したがって、ミラーからさらに遠い、ヘッドレストのフラッシュランプはなお小さくなってしまう。小さくなるのがわかっていたので、ランプ光が明確にわかるように点滅させたのですが、どのみちまったく無意味でした。
そしてこのサブカメラがズームができないのには参りました。iPhoneに詳しくないので知らなかった! これじゃあ、見づらくてしょうがない。
というわけで、次の「方法2」に変えました。
【方法2】
1.自前の折りたたみ携帯電話の背面フラッシュランプを点滅させ、運転席ヘッドレストにゴムバンドで固定する。 → 「方法1」と同じ。
2.車両左にしゃがみ、コンパクトデジタルカメラを地面からアンダーミラーに向け、液晶モニターいっぱいに映しながら、アンダーミラーを介してヘッドレストのフラッシュランプがわかる範囲をデジタルカメラモニター内で確認する。アンダーミラーは液晶いっぱいにズーム。
4.カメラを地面に這わせ、液晶を見ながらアンダーミラー枠周囲のフラッシュが消えかかる場所にチョークで印を付ける。
5. これを繰り返す。
「方法1」と異なるのは、iPhoneをデジタルカメラに変え、ズーム拡大してサイドアンダーミラー&ミラー内のフラッシュランプ=ヘッドレストを見られるようにしたことだけです。うん、これで何とかいけるだろ。
サイドアンダーミラー内のランプ点滅をミラー枠に持っていくようにカメラを地面に這わせ、その位置での(※)地面とカメラの接触部にチョークで印をつける。
これを繰り返し、繰り返し、なお繰り返す…。その途中経過がこちらです。
だんだんらしくなってきました。この地面の線が、運転席から見たアンダーミラー周囲枠と一致するはず。念のため、クルマに乗り込んで確認してみましょう。
原因を探ってみましょう。察しのいい方は、(※)の部分をお読みになってすぐにお気づきになったかと思います。
カメラのレンズ、カメラ内部の撮像素子、地面…、それぞれの位置が異なることがズレの原因です。最初にiPhoneを使ったのは、サブカメラが本体の上端にある=iPhoneを逆さにすれば地面に近づけることができるからだったのですが、想像以上に映る像が小さかったため、ズレの懸念を認識しながらもデジタルカメラに変えたのでした。
「まあ、何とか形になるだろう」と甘く考えたのが運の尽き。指先ほど小さくてズーム&ワイド自在のCCDカメラと、それを映し出すモニターがあればいいのでしょうが、この実験だけのために用意するのも抵抗がある…。
しかたない、別の方策を考えましょう。やりたくはなかったが、禁じ手を使うか!
【方法3】
1. 父親を使う。
誰がいい出したものか、「立っているものは親でも使え」という言葉があります。「急ぐ用事のあるときは、誰でもよいからそばに立っているものを使ってもいいのだ」という意味です。この実験、特に急ぐ用事でもないのですが、「おし、父ちゃんの手を借りよ!」ということにしました。
そばにいなかったので家に上がりこんだら、父はソファに座って新聞を読んでいましたが、趣旨を話して立ち上がってもらいました。
カメラ作戦も難儀でしたが、父親作戦も困難を極めました。しかし、いちばん確実な方法でもありました。
父には猛暑の中クルマの横に立ってもらい、筆者はエアコンガンガンの運転席に座り、まずは適当に動いてもらってアンダーミラーに足先が映るポイントを探す。ミラーに映る車体部分探しも同じで、フェンダー上を指で撫でてもらい、それぞれ映る場所映らない場所の境界線を探りました。
まいったのはここから。「右!」「左!」「ちょい前!」「下がって!」などと頼むのですが、ミラー像は左右が逆になるほか、より広い範囲を映すためにミラー面の曲率が高くなっているため、「こうだ」と思って指示したところで、地面上、フェンダー上での直線の動きはミラー内では曲線となってしまい、映る映らないの境界ポイントが思うように見つけられないのです。
それでも手さぐり足さぐりの試行錯誤を繰り返し、地面なら足先が消えかかったところで筆者が外に出て、その位置にチョークで印をつける。フェンダーなら指の消えかかった場所にひもをテープで固定する…。その連続でエリア出しを進めましたが、地面のマーキングの際、さきほどのズレた線の失敗作がいくらかの指標にはなったのは望外の喜びでした。
と、炎天下の悪戦苦闘では終わらず、作業は翌朝にまで持ち越したのですが、なんだかんだで最終的にはこの写真のようになりました。
●考察
ミラーの四隅と地面上の白線に囲まれたエリアの相関関係を、写真を加工して表してみました。室内から撮ったミラー写真、チョーク線の範囲外の芝生が映ってしまっていますが、実際、筆者の運転席からの目にはミラー内に映ってはおらず、ミラー枠上辺とチョーク線は一致していますので、ご了承ください(レンズを目の高さに合わせるのを忘れました。)。
【考察】
1. ふだん、左車線にクルマが存在している状態では気づかないが、平面で見たとき、クルマの側面(この場合はタイヤ)から2mを超える範囲まで映していることがわかった。
2. 小さいミラーだから意識していなかったが、車両最後端よりもさらに後ろの範囲までも映していることもわかった。
3. ミラーが角の丸い四角形でも、エリアの形はいびつなホームベース型となる。
4.鏡面の、球面に近いほどの歪みの影響と、主に地面を上方から下方に向けて映すことから、ドアミラーと異なり、映る像は、左右ばかりか上下(=奥行き)も逆になる。
5.したがって、ミラーの四隅位置と実際の地面の四隅位置は、頭の中で変換する必要がある。
さて、これらをどう考えるか。
冒頭で述べた、「カメラの勝ち」を実証する形となりました。
サイドアンダーミラーのチラ見で鏡像を見ても、車両の外側での光景が実際にどのようになっているのかが即座に把握しにくい理由がよくわかりました。すべてはミラー面の高い曲率が災いしているのです。
そして左右のみならず、上下が逆像になるのは「何となく想像していたようなしていなかったような」だったのですが、実際に確認してみたら「なるほど、こういうことか」と理解することができました。
今までいかにいい加減に、中途半端にしか解釈していなかったかということ、そして極度な曲面の鏡になるだけで、洗面所にある平面鏡を見るのとはまったくの別ものになることを実感させられました。
筆者は、故障したら厄介、そしてその修繕費用が高いという点がカメラ式のウィークポイントだと思っているのですが、きちんと周辺把握をしたいなら、これらの欠点に譲歩してでもカメラ式を選ぶのが賢明のように思います。
筆者は日ごろ、旧ジムニーのアンダーミラーを、左側だけとはいえ、ボディ外側の位置と、車両のおおよその先端位置を把握することにしか使っていないのですが(本当はオーバーフェンダーのほうがアンダーミラーよりも外側にあるにしても)、どうやら明日以降も本来の使い方をすることはなさそうです。
このタイプのミラー付きのクルマにお乗りの方は、本当の意味で使っていないのではないかと思います。
従来のランクルのフェンダーや、新型ジムニーのドアミラーにある2分割式のアンダーミラーなど、役立てているひと、いるのかなあ?
●なぜアンダーミラーが要るのか?
そもそもなぜアンダーミラーが登場したのか? これは車高、というよりも着座高の高いクルマはウエストラインもそれなりに高く、普通の乗用車よりも車両サイドがなお見にくいということから取り付けられました。
目安は高さ1m、直径30cmのポール(6歳児に相当)を車両横に立てたとき、運転席から直接でもミラーを介してでもその存在がわかるようにというものです(直前側方運転視界基準)。
では、高さ1mのものが車両サイドにあるとき、運転席からどのように見えるのかを試してみました。高さがほぼ1mの三脚がありましたので、これを6歳児に見立てて鏡像エリア内に置き、直接視界とアンダーミラーを通しての間接視界から6歳児がどう目に入るかを写真でお見せします。
まず助手席サイド。サイドアンダーミラーには鏡面いっぱいに映り、助手席ドア越しに目視しても頭が確認できます。
次に車両左から2m近く離れた位置となると、ミラー左上にかろうじて映り込みますが、目視ではセンターピラーに隠れ、完全に見えません。
その位置からちょい後ろにずらしてみましょう。ミラーでの見え方に大差はありませんが、リヤガラスに頭がわずかに見えてきました。
次にミラーエリアの最後端でクルマに寄せる。地面上での移動量はわずかであるのにもかかわらず、ミラー内では枠の角から内側に向けて半分以上移動している点が惑わされるところです。リヤガラスからの見え方はさきと似たりよったりです。
●上下が逆になることの真相は?
さて、考察の4.で上下が逆になると書きましたが、正確には「逆になったという錯覚に陥る」というべきでしょう。サイドアンダーミラーは上から下に向けているため、鏡面の上下は、鏡の中の奥行きを映しています。これが運転者の感覚をよそに、実際の光景に対して上下が逆になったと錯覚する理由です。だんだんわからなくなってきましたね。
百聞は一見にしかず。子供が地面に寝そべっている想定で、地面に人型の線をひいてみました。
なんだか殺人事件の現場検証みたいになってしまっていますが、地面の線は寝そべっている子どもです。この状態で乗り込み、運転席からアンダーミラーを見ると…。
さきに書いたとおり、これは上から下に向けて奥行きのある地面を映しているがゆえに起きる事象です。よく考えればあたり前のことが起きているだけなのですが、ドアミラーやルームミラーでは得ることのない感覚なので、頭がこんがらかることのないようにしましょう。
おおよそ結果はわかっていても、やはり何事もやってみなければわからないものです。やればやったなりの収穫はあるのですから。やはりいい意味での「バカな実験」は必要です。
(文・写真:山口尚志)