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■タイプRがサーキットなら、Modulo Xシリーズは公道が本籍地!
「えっ、エアロパーツでこの走りに仕上がってるのですかっ!?」と驚かずにいられなかった『Modulo X』シリーズ第7弾となるFIT e:HEV Modulo X。
「誰がどんな道で乗っても安心して気持ち良く走れる!」をコンセプトに、ホンダアクセスの手がけるこのニューモデルに触れて開発背景を知ることで、同社が手がけるModulo Xシリーズの本質を、新たなチャレンジであると理解するとともに改めて「すごい!」と見直すことができました。
ホンダアクセスはホンダ車のあるカーライフを走る、使う、楽しむなど、幅広い領域で用品の開発などを行っているホンダの子会社。
そこで多くのカスタマイズ部品を開発するほか、このModulo Xのようなコンプリートカーも手がけています。
たとえば今回のFIT e:HEV Modulo XはFITのカタログの1モデルとしてラインアップされており、走りにこだわる方向けのもう一台のFIT“が登場したと捉えることができます。
「タイプR(近年ではシビックで登場、すでに販売終了)がサーキットなら、Modulo Xシリーズは公道が本籍地」と開発統括の福田正剛さんとおっしゃるように、このモデルは見た目も走りも決してスパルタンではなく、しかし運転の質にこだわる方に家族でも使えるモデルとしてこれまでも開発されてきました。
Modulo Xの新たなチャレンジというのは、これまでは専用の足回り+実効(実際に効果のある)空力を意識したエアロパーツ開発によって、ベース車にはなく、タイプRとも異なる走りの質を具現化してきました。ところが今回は専用サスペンションやブレーキの強化は行っていないんです。
実はFITに搭載される運転新技術「ホンダセンシング」の進化がModulo Xの開発に影響とチャレンジングな課題を与えたようです。
ホンダセンシングは単眼カメラやバンパーに付けられたコーナーセンサーが統合制御をしています。Modulo Xの場合バンパーが空力やデザインにとって重要パーツなのに、このニューモデルではバンパーの面に対して角度を変えることなく面を維持しなければならなかったのだとか。さらにサスペンション(バネ)を変える=車高が変わることによってホンダセンシングの検知性能が変わってしまうから足回りも変更できない。
「それでどうなったの、Modulo X!?」。基本的にはリアルに効果を発揮する“実効空力”を新しいアイテムや発想を取り入れながら突き詰め、開発されたのが今回のモデルなのです。
足回りを変更せずに走りを変えたModulo Xの新たなチャレンジ。空力ってすごい、いやModulo Xの“実効空力”の効果に本当に驚かされ、空力による性能向上がレーシングカーや超スポーツカーたちだけではなく、身近なモデルにも活かされる、「エア」で走りを変えるって優しいな、と再認識した次第です。
●運転スキルに関係なくドライビングが楽しめる!
今回のニューモデルは昨年、フルモデルチェンジを行った新型フィットe:HEV(ハイブリッド車)の装備充実グレードLUXE(リュクス)をベース車として採用し、専用開発が施されています。
その主な内容は、エアロパーツによる走りのチューニング。試乗は市街地と高速道路に加え、群馬サイクルスポーツセンターというクローズドの林間コースが用意されていました。
ベース車となるFIT e:HEVは1.5Lエンジン+モーターを組み合わせ、発進時や市街地、減速時はEVモードで、上り坂やドライバーが強い加速を求めた際にはハイブリッドモード、高速道路では主にエンジンモードで走行しスマートな高速クルーズが可能です。
それはガソリンエンジンのみを搭載するモデルに比べ全体的に走りに厚みがあり、静粛性の面でも分がある。比較車として試乗した際に、改めて新型FITのコンパクトなサイズ感、そして快適な走行性能の良さを実感したくらいです。
そんな動力を搭載するFIT e:HEV Modulo X。走りに寄与する専用装備はエアロパーツとダンパー、ホイールのみ。
ボディ補強もなく、タイヤもベース車とサイズが同じ、ダンロップの環境性能に配慮したエナジーセーバーを装着し、サスペンションやステアリングまわりの変更も行われてないとのことです。
それでもクルマの動き=運動性能は増している。クルマが動く際に発生する細かな動作やボディの隙間のようなものが整えられているような感覚も得られます。走り出しただけでハンドルの操作感がやや重たく、それは切り始めるところから確かな手応えが得られる確かさからくるものと想像できました。
●大人の所有感をも満たす性能美
一般道でも高速道路でも直進安定性に優れ、緩やかなカーブでもボディの一塊感が増す印象があり、スポーティな性能よりもまず運転のし易さや操縦しやすさに快適さを抱きました。
Modulo Xは速度40km/hくらいから空力を得た走行性能を発揮することを後に開発者の方からうかがい、空力性能でクルマは変わることを再認識。
特にクローズドのワインディングを走ってみると、ベース車でも軽快なハンドリングに満足できたはずなのに、Modulo Xではステアリング操作に対しよりクルマの動きの反応がいい。
リアタイヤの踏ん張りの効き具合も向上しているようで姿勢が作りやすい、もしくは保ちやすい。おかげでコーナーの入り口から出口までの意のままのハンドリング性能が増しています。
それは結果として安定感と共に安心感も強まるワケで、これは運転スキルに関係なくドライビングを楽しめそう。スポーツ走行をするための特別なチューニングが行われているわけではなく、基本性能を向上させているからなんですね。
また、このクローズドのワインディングの路面は超がつくほど不均一で荒れたところもあり、そんなところをペースを上げて走っていくと路面の凹凸に対してタイヤからボディへの一瞬の当たり(突き上げ)が強くなりがちですが、Modulo Xは衝撃の吸収能力も十分。もちろん高速道路などの路面の繋ぎ目を通過する際でもその印象は変わりません。
ちなみにエアロパーツによって高められ整えられたエアはボディの周辺でスムーズに流れるわけです。そこで風切り音の音質の違いも明らか、Modulo Xは低めの音で柔らかな静粛性も得ていました。
FITという車内空間の実用性も高いコンパクトカーで得られる“もう一台のFIT”の走行性能の頼もしさはきっと万人にとって楽しくて優しい。
このような走りの質感を高めたFIT e:HEV Modulo Xのチューニングポイントがエクステリアを構成するエアロパーツ。
フロントグリルやフード(ボンネット)、前後バンパー、テールスポイラー、ドア下のガーニッシュ、そして一輪あたり2.9kgも軽量になったホイールなどですが、一見していかがでしょうか。
見た目で走り好きのテンションを上げるような“いかにも”派でないところ、過去にはそんなクルマも大好きだった大人の所有感をも満たすような性能美を纏っているのもModulo Xの特徴。
●空力性能を駆使した「エアリーフィット」!
では今回、どのような開発が行われたかと言えば(興味のない方はスキップしていただいても大丈夫です)、シャープな造形の先端形状のフードは空力を上下で調整し風の流れをスムーズにします。
またバンパー下のエアロスロープにフィンを組み合わせ、車体の下まわりを通る風を中央でより速い空気が流れるようにして、リアバンパー下面のディフューザーへとその気流と流速を高め、直進安定性向上を狙ったそうです。
バンパーサイド下のフィンはフロントタイヤのホイールハウス内を通る風の流れをスムーズにし、旋回時(フロントタイヤが向きを変えてドライバーが行きたい方向を示したとき)、上質なステアフィールを生むことに貢献。バンパーサイドの小さなフィンも大仕事をしていて、前からサイドへと流れる風がフロントタイヤ周辺の乱流を起こし、旋回時にリアタイヤに影響を与えぬようにしているのだとか。
さらに旋回性能に対するリアタイヤへの配慮という点では、ボディサイドをキレイに流すエアーをリアバンパーに施されたエッヂ(突起)によって空気抵抗低減と旋回性能の向上が図られているそうです。
テールゲートスポイラーはシビックタイプRほど大きくはないものの、これでもリアのリフト(浮き上がり)を抑える効果と旋回性能向上が狙えているのだとか。
一輪あたり2.9kgも軽量化されたアルミホイールは単に軽いだけではなく、“硬いのに柔らかい”剛性バランスを追求。ホイールもサスペンションの一部として運動性能を支えるパーツという位置づけにこだわっていました。
インテリアは既存のデザインをベースに専用のパワースイッチの採用や、シートやステアリング、シフトなどをModulo X仕様に変更。たとえばブラック×ボルドーもしくはブラックのシートはラックススエードとサイド部に本革レザーを採用したコンビシートがサポート性と座り心地の質感をアップさせています。
空力性能を駆使し“エアリーFIT”などと勝手に名付けたくなるFIT e:HEV Modulo X。
目に見えないエアを目に見えるエアロパーツにより処理することで走行性能とデザインに磨きをかけ、ベース車とは異なる走りの質を持つモデルであるのは間違いなし。Modulo Xのこと、もっと注目されても良いのではないかしら。
(文:飯田 裕子/写真:田村 弥)