エンジンの充填効率向上とは?シリンダーにより多くの吸入空気を充填させること【バイク用語辞典:エンジン出力向上編】

■吸入空気量が増えるほど供給燃料量が増やせるのでエンジンの出力は向上

●吸入空気量を増やすには、吸気抵抗を減らす、吸気弁開口面積を増大させることが有効

出力向上のためには、吸気行程中にできるだけ多くの新気をエンジンのシリンダーの中に吸入する、充填効率を向上させることが重要です。吸入空気量が増えれば、その分燃料量を増やせるので出力が向上します。

吸入空気量の指標である充填効率とその向上手法について、解説していきます。

●体積効率と充填効率

基本的にはエンジンが発生するトルクは、シリンダーに吸入する吸入空気量に比例します。吸入空気量を評価する吸気効率の指標としては、体積効率と充填効率があります。

充填効率とエンジン出力
充填効率とエンジン出力

体積効率は、そのときの大気圧と温度の下で、シリンダー容積(排気量)に対して実際にどの程度空気が入っているかの割合を%で表す指標です。ただし、体積効率はそのときの大気圧と気温によって変化します。例えば、気温が高ければ空気は膨張するので体積効率は上がりますが、燃焼エネルギーに寄与するのは吸入空気(酸素)の質量なので、体積効率の上昇ほどトルクは向上しません。

そこで常に一定の条件で評価できるように、吸入空気を標準状態(標準大気圧1bar、25℃)に換算したのが、充填効率です。エンジン出力も標準状態に補正しているので、基本的にトルクは充填効率に比例します。

●吸入抵抗を減らして充填効率を向上

吸気系システム
吸気系システム

吸気行程では、ピストンがシリンダーを下降することによって負圧が発生し、外気との圧力差で吸入空気が吸い込まれます。この吸い込みの過程で、吸気系のエアクリーナーから吸気弁に至る吸気通路に邪魔ものがなく流れがスムーズであれば、より多くの空気が吸い込まれます。

吸気弁周りの流れ
吸気弁周りの流れ

最上流のエアクリーナーは、吸入空気を浄化するのが役目ですが、フィルターの目が細かすぎると吸気抵抗になります。また空気取組み口は、ファンネル形状にして縮流を防止しています。その後、多気筒エンジンであればサージタンクを通過しますが、急激な断面変化や曲がりが発生しないように設計することが重要です。

最終的に吸気ポートから吸気弁を通過して燃焼室に流入します。吸気ポートは、極力ストレートなことが理想であり、吸気弁はその大きさや開閉時期や弁リフト量が充填効率に大きく影響します。

●吸気弁開口面積を増やして充填効率を向上

吸入空気量を増やす方法として代表的なのは、以下の3つです。

マルチバルブ例
マルチバルブ例

・マルチバルブ化

大型バイクや高性能バイク用エンジンでは、4弁エンジンやなかには5弁エンジンもあります。限られた燃焼室では2弁よりも4弁や5弁の方が弁開口面積は増大するので、空気量を増やして充填効率を高めることができます。弁開口面積とは、弁がリフトしたときに弁傘部周りの空気が流れる流路の断面積です。

・ショートストローク化

同じ排気量のエンジンでもショートストローク化すれば、ボア径が大きくなるので大きな吸排気弁が配置でき充填効率が向上します。

・吸気弁開閉時期の最適化

吸気弁のリフト量を大きくする、吸気弁の開弁時間を長くすれば、それだけ吸気量を増やすことができます。ただし、流れには慣性や脈動があるので吸排気弁の開閉時期は静的でなく動的に最適化する必要があります。


充填効率は、通常の無過給エンジンではシリンダー容積(排気量)分の空気量の吸入、すなわち100%が目標になりますが、トルクが最大になるエンジン回転数で充填効率も最大になります。過給エンジンは強制的に新気をシリンダーに押し込むので、過給圧の設定次第ですが充填効率は200%を超える場合もあります。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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