■2050年までに「原材料の採掘、生産、クルマの使用、使用済み自動車のリサイクルや再利用」の領域でカーボンニュートラルを目指す
2020年10月、菅首相が就任時に行なった所信表明演説にて日本として「2050年までのカーボンニュートラル(脱炭素社会)を目指すこと」を宣言しました。
さらにホンダもF1活動終了を発表した際に「2050年にカーボンニュートラルの実現」を目指すためのリソースの最適化を理由のひとつとして掲げ、「2030年に四輪車販売の2/3を電動化する」と発表しています。
このように、日本においても「カーボンニュートラル」という言葉が夢物語ではなく、リアルな目標となってきています。
あらためて、カーボンニュートラルとは何ぞやということを環境省の公式見解から引用すれば『温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする』ことであり、具体的には『二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量から、森林などによる吸収量を差し引いてゼロを達成する』ことがカーボンニュートラルの意味となります。
そのためにはCO2を吸収する環境を整えるだけでなく、そもそもCO2の排出量を減らすことが大事になるのは言うまでもありません。そして日本の社会活動において、自動車の出すCO2は決して少なくありません。国土交通省が発表している2018年度のデータによると、自動車によるCO2排出量は日本全体のCO2排出量の15.9%を占め、自家乗用車だけに絞っても8.5%に相当するといいます。
排出量を数字で記せば、自家乗用車は9697万トン、営業用貨物車は4255万トン、自家用貨物車が3443万トン、バスが410万トン、タクシーが248万トン、二輪車が79万トンとなっています。乗用車からの排出量を減らすことが緊急のテーマであることは明らかです。ですから、クルマの電動化が進んでいるわけです。
こう書くと、エンジン車を電気自動車に置き換えても”火力発電”を使っているCO2排出量の削減効果はほとんどないという意見も出てくるのですが、クルマの電動化というのはハイブリッドカーも含む概念です。ハイブリッドテクノロジーを使うことで燃費が改善されればCO2排出量が減るわけですからクルマの電動化は有効といえるわけです。また、再生可能エネルギーによるクリーンな発電が拡大すれば、純・電気自動車であってもCO2削減効果につながることも期待できるようになります。
前置きが長くなりましたが、クルマの電動化、電気自動車のリーダー的存在といえる日産自動車も、「2050年カーボンニュートラルの目標を設定した」と発表しました。単純に製品レベルでのゼロエミッション化ではなく、事業活動を含めたクルマのライフサイクル全体におけるカーボンニュートラルという高い目標を掲げています。
ちなみに、クルマのライフサイクル全体とは、原材料の採掘、生産、クルマの使用、使用済み自動車のリサイクルや再利用といったすべての領域を指しています。この目標がどれほどハードルの高いものか、想像に難くないでしょう。
具体的な目標として、以下の4点が発表されました。
・よりコスト競争力の高い効率的なEVの開発に向けた全固体電池を含むバッテリー技術の革新。
・エネルギー効率をさらに向上させた新しいe-POWERの開発。
・再生可能エネルギーを活用した、分散型発電に貢献するバッテリーエコシステムの開発。電力網の脱炭素化に貢献する、エネルギーセクターとの連携強化。
・ニッサン インテリジェント ファクトリーをはじめとする、車両組み立て時の生産効率を向上させるイノベーションの推進。生産におけるエネルギーと材料の効率向上。
そして、わかりやすい目標として「2030年代早期より、主要市場に投入する新型車をすべて電動車両とする」という発表もありました。ここでいう電動車両には100%電気自動車だけでなくハイブリッドカーも含めています。
ですから、発電用エンジンと駆動用モーターを組み合わせたe-POWERの拡充は2030年に向けて、ますます増えていくというわけです。
さらに注目したいのは「全固体電池」の開発を明言したことでしょう。エネルギー密度が高くなり、温度管理が容易になり、寿命が長いと電動車両にとって良いことづくめの全固体電池は各社が開発を宣言していますが、量産電気自動車のパイオニアとして多くの知見や経験を持つ日産もその開発競争に加わると名乗りを挙げたわけです。
具体的なロードマップについては今後の発表に期待ですが、2050年のカーボンニュートラルに向けたイノベーションの中でもかなり重要度が高い全固体電池に関する今後の情報発信に要注目です。
(自動車コラムニスト・山本 晋也)