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■スズキが12年ぶりに2つの油冷モデルを投入
●冷却水を使わないので水冷エンジンより軽量コンパクトだが、冷却能力は水冷と空冷の中間
バイク用エンジンの冷却システムとして代表的なのは水冷と空冷ですが、これらとは別に、オイルに潤滑と冷却、ふたつの機能を持たせた油冷システムがあります。スズキが過去に一部のモデルに採用し、2020年、12年振りに油冷システムを復活させました。
スズキが復活させた油冷エンジンについて、解説していきます。
●油冷エンジンとは
現在ほとんどのバイク用エンジンは、水冷エンジンです。2000年以前は、軽量コンパクトで構造が簡単な空冷エンジンもありましたが、冷却能力不足から排ガス規制への適合が困難なことから、ほぼ市場から消え去りました。
水冷エンジンは冷却能力に優れているものの、燃焼室とシリンダー周りにウォータージャケット(冷却水路)を設ける必要があり、構造が複雑で小型コンパクトにできないことが課題です。
この課題を解決するため考えられたのが、油冷システムです。
油冷エンジンでは、冷却水の代わりにエンジン(潤滑)オイルを使い、オイルに潤滑と冷却の両方の機能を持たせています。ウォータージャケットがない分、コンパクト軽量にできます。ただし、冷却能力は水冷と空冷の中間です。
採用例は少ないですが、2008年までスズキが一部のモデルで採用し、その後一時生産をやめていましたが、本年(2020年)に復活させて話題になりました。
●油冷エンジンの構成
油冷エンジンには、シリンダーヘッドの温度が上がりやすい部分にオイルを噴射する装置が必要ですが、基本的な構造は冷却フィンを持つ空冷エンジンと同じシンプルな構造です。
油冷エンジンでは、通常の潤滑用のオイルポンプの他に冷却用のオイルポンプを装備します。このポンプでエンジンオイルをシリンダーヘッドに送り、燃焼室壁面などに吹き付けて冷却します。また、高温になるピストンの裏面にオイルを噴射して冷却するオイルジェットを採用したものもあります。
シリンダーヘッドの冷却を終えたオイルはオイルパンに戻り、エンジン各部を潤滑したオイルと一緒になり、オイルクーラーに送られます。オイルクーラーに送られたオイルは、走行風によって冷却されて、潤滑オイルポンプと冷却オイルポンプで再び送り出されます。
油冷エンジンは水冷エンジンよりもシステムが簡単で軽量コンパクトで、空冷エンジンよりも安定した冷却能力が得られます。
●スズキの油冷エンジン
スズキは、1985年の「GSX-R750」に油冷エンジンを搭載しました。
当時はバブル期にあり、モータースポーツが盛んな時期で、各メーカーが高出力・高性能化を推進していました。そのような中、スズキは高出力化とともに軽量コンパクト化が実現できる油冷エンジンを採用しました。
その後も、1991年の単気筒の「グース」、2000年のビッグネイキッドの「バンディッド」、2001年の「GSX1400」と、油冷エンジンを改良しながら継続的に採用してきました。しかし2006年の排ガス規制への適合が困難なことから市場から撤退しました。
ところが2019年のモーターショーで、スズキが再び油冷エンジンの「ジクサー250/SF250」を発表し、遂に2020年に市場に投入しました。SACS(Suzuki Advanced Cooling System)と名付けた新しい油冷システムを採用し、復活をアピールしました。最大の特長は、従来のようにシリンダーヘッドにオイルを噴射するのではなく、水冷のようにシリンダーヘッドにオイルジャケット(オイル通路)を設けて冷却することです。
12年振りにスズキが油冷エンジンを復活させて話題になっています。スズキの油冷エンジンへの強いこだわりと思い入れが成し遂げた復活ですが、さて市場の評価はどうでしょうか、気になるところです。
(Mr.ソラン)