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■排ガス規制が始まる以前は、軽量コンパクトで低コストな空冷エンジンが主流
●2000年以降の排ガス規制強化によって、多くの空冷モデルが市場から撤退
自動車用エンジンとしてはすでに市場から完全に撤退している空冷エンジンですが、バイクについても2000年前後の排ガス規制以降は、希少な空冷モデルを残して市場から姿を消しました。
空冷エンジンの仕組みと消え去った原因について、解説していきます。
●空冷エンジンと水冷エンジンとの違い
現在多くのバイクは、エンジン内部に冷却水を循環させる水冷エンジンを搭載しています。一方、空冷エンジンは外気や走行風だけで冷却するシステムで、少ないながら一部モデルでまだ採用しています。
水冷エンジンでは、温度が上昇しやすい燃焼室壁面やシリンダー周りにウォータージャケット(水通路)を設けて冷却します。エンジン内部を冷却して温められた冷却水はウォーターポンプによってラジエターに送られます。ラジエターは走行風によって冷却水を冷やし、エンジン内を循環させながら冷却水を設定温度(80℃程度)を維持するように制御します。
空冷エンジンは外気や走行風で冷却するため、シリンダーヘッドやシリンダーブロックに、放熱を促進するための冷却フィンを装着しています。自然空冷と強制空冷タイプがあり、自然空冷は走行風だけで冷却し、強制空冷はエンジンで駆動する冷却ファンを利用して冷却します。
●空冷エンジンの課題
空冷エンジンのメリットは、何といってもシンプルで軽量・低コストなことです。水冷エンジンのように、ウォータージャケットがないため、構造が簡単で部品点数が少なく製造も容易です。
しかし、エンジンが燃焼することによる発熱量に対して冷却能力が追いつかないのと、冷却能力が走行風に依存するため、オーバーヒートしやすいという致命的な問題があります。
オーバーヒートが発生すると、シリンダーやピストンの熱歪みや熱膨張によってフリクションが増大し、最悪の場合は摺動部の焼き付きが発生します。
また、燃焼室やシリンダー壁面の温度が上昇すると燃焼温度も上がり、プレイグニッション(過早着火)やノッキングなどの異常燃焼を起こします。
●空冷エンジンの規制対応の難しさ
空冷エンジンはオーバーヒートを回避するため、出力を制限して発熱量を下げるなどの対応をしています。また、オーバーヒートのリスク以外にも、シリンダー温度が安定しない、気筒間の温度バラツキが大きいことが、燃費や排ガス性能に悪影響を与えます。
バイクは1998年に初めて、そして2006年にはさらに厳しい排ガス規制が施行されました。
空冷エンジンはシリンダー温度が安定しないため、精度高く空燃比の制御ができません。そのため、三元触媒を利用した空燃比フィードバック制御による排ガス低減が不十分で、現行の排ガス規制に適合するのが非常に難しいとされています。その結果、2000年以降には空冷エンジン搭載バイクは激減し、ほとんどの国内モデルが市場から消えました。
また、空冷エンジンは熱膨張分を加味してシリンダーとピストンのクリアランスを大きくとる必要があること、加えてシリンダー外周にウォータージャケットがないゆえに燃焼音や機械音が直接放射されるため、エンジン騒音が大きいという問題もあります。空冷エンジンは、2001年の騒音規制をクリアすることも困難になりました。
現在も、空冷エンジン独特のフィーリングやエンジン音、また冷却フィンの付いた独特のエンジンフォルムを好むファンが多くいます。しかし、排ガス規制や騒音規制はさらに強化される予定であり、今後さらに空冷エンジン搭載バイクの存続は難しくなることが予想されます。
(Mr.ソラン)