ホンダ新型「WR-V」の自由で自分らしいデザインとは? 低価格の車だからこそできるコトがある【特別インタビュー】

■SUVのあるべき姿をもう一度再定義したスタイル

ホンダの新型SUVであるWR-Vの受注が絶好調です。ヴェゼルとほぼ同じサイズながらより手頃な価格と広い空間が特徴ですが、そのスタイリングにはどのような工夫があるのか? さっそく担当デザイナー氏の声を聞いてみました。

●タイやインド市場のニーズを反映したコンセプト

ヴェゼルとほぼ同じサイズながら、まったく方向性の異なるスタイリングを持って登場した新型WR-V。初期受注は好調のようだ
ヴェゼルとほぼ同じサイズながら、まったく方向性の異なるスタイリングを持って登場した新型WR-V。初期受注は好調のようだ

── では最初に。デザインコンセプは「MASCULINE & CONFIDENT(自信あふれる逞しさ)」ですが、これに至った経緯を教えてください。

「この車は日本とタイ、インドの3拠点で開発したのですが、開発当初の2019年にはコロナ禍のため、拠点間のコミュニケーションが難しくなった。そんな制限のある生活の中で、あらためて移動の本質を考えて『自由の大切さ』を再定義したんですね。最近のSUVは、ともすると都会的に寄りがちで、汚したくない、キズを付けたくないといった傾向はどうなのかと…」

今回話を聞いた株式会社本田技術研究所デザインセンター・WR-Vパッケージ担当の黒崎涼太さん
今回お話を聞いた株式会社本田技術研究所デザインセンター・WR-Vパッケージ担当の黒崎涼太さん

── そこへタイやインド市場の特性も加わったということでしょうか?

「はい。突然のスコールといった天候や渋滞、道路の未整備など最低地上高を求める環境や、とりわけインドでは男性ユーザーに受け入れられる見た目の立派さ、ゴージャスさが求められるんですね」

── とにかく分厚いノーズが特徴ですが、これは当初からの発想ですか?

「そうですね。面や線をゴチャゴチャ入れず、しっかりした芯がボディの高い位置に通っているイメージです。高いフードもそれに沿ったものですが、ただ、フードの高さは視界に影響するのでミリ単位で調整しています。たとえば、ボディの四隅が分かりやすいようヘッドランプ上部を若干高くしつつ、センター部は削っている。このあたりはオフロードカーとして、ランドクルーザーなどと同じ発想ですね」

WR-Vのイメージスケッチ。厚みのある力強いボディ面や張り出したフェンダーがよくわかる
WR-Vのイメージスケッチ。厚みのある力強いボディ面や張り出したフェンダーがよくわかる

── フロントフェイスでは巨大なグリルが目立つ一方、下回りはスッキリしていますね。

「グリルは、街中で受け流されない存在感を狙ったものですね。ただ、単に面として大きくするのではなく、上部のメッキ形状も含めて外周は8角形とし、内部は左右両端に折りを入れて多面体にするなどの工夫をしています。ロアバンパー部はあまりゴリゴリ手を入れてしまうと、ボディの高い位置に芯を通すという意図がブレてしまうんですね」

── ボディが分厚い分、キャビンが小さく見えてしまうのは折り込み済みですか?

「というか、あえて小さく見せたいと考えていました。分厚くしっかりした下半身に対し、スリークなキャビンとしてメリハリを意識したワケです。そこはヴェゼルと異なる点ですね」

●当たり前にあるものを磨き込むという開発姿勢

ボディの高い「芯」に沿ってフロントの上部に置かれたヘッドランプと巨大なグリル。一見平面に見えるグリルだが、実際には立体的な造形となっている
ボディの高い「芯」に沿ってフロントの上部に置かれたヘッドランプと巨大なグリル。一見平面に見えるグリルだが、実際には立体的な造形となっている

── フロントグリルやサイドウインドウ、ドアロアガーニッシュなど、いわゆる光りモノが多いのもヴェゼルと異なりますね。

「グリル上部やサイドウインドウ周りなどは『ボディ上部の芯』を強調する意図があります。また、ランプのように光るところ、ドアハンドルのように掴むところなど、機能部分にしっかりアクセントを入れるという意図もあります。特に、インドやタイ市場ではそうした分かりやすい表現が求められますね」

── 最近のテールランプはヴェゼルのように細い横一文字が主流ですが、WR-Vでは太さのあるL字型が特徴的です。

「そこはボディの骨格とのバランスですね。光る部分はヴェゼルのように細いのですが、外形はボディの厚みに沿ってボリュームを持たせています。また、フェンダーに向けたL字型にすることで、リアから見たときに台形となって、タイヤの踏ん張りを感じさせるんですね」

横から見るとフードの高さがよくわかる。ホイールアーチはボディ形状に合わせ四角形に近い形状とされた
横から見るとフードの高さがよくわかる。ホイールアーチはボディ形状に合わせ四角形に近い形状とされた

── ボディカラーはメタリック系が多いですが、ソリッドは向いていないという判断ですか? また、ブルー系が見当たらないですね。

「ソリッドが似合わないということではなく、色の切り変わりがしっかり見えるカラーを選んだということです。たとえば、朝から夕方までの間でリフレクションの印象が異なるようなイメージですね。ブルーはインド市場で用意しているのですが、日本では選び易さを考えた設定としています」

── インテリアのデザインコンセプトは別に設けたのでしょうか?

「いえ、インテリアもエクステリアと同じテーマです。芯を水平方向へ通し、インパネ上部からドアライニングにかけて厚みのある形状とすることで、守られ感を打ち出しています。また、エアコンのエアアウトレットにシルバーの加飾をすることで、車格以上の幅広さを表現しています」

「ボディの芯」に合わせて高い位置に置かれたテールランプ。下向きのL字型とすることでタイヤの踏ん張り感を強調している
「ボディの芯」に合わせて高い位置に置かれたテールランプ。下向きのL字型とすることでタイヤの踏ん張り感を強調している

── では最後に。WR-Vは価格の低さが注目されていますが、そういう車のデザインとして何が達成できたと感じていますか?

「新技術が少ない分、既存のリソースを活用する車として『必ずあるモノ』をいかに磨き込むかに注力しました。たとえば、ドアロアガーニッシュのドアラインには開閉時の干渉を防ぐ『切り欠き』がない。ここはガーニッシュが一体に見えるようミリ単位で調整しているんです。他にもドアを開けたときのヒンジの位置やシールの通し方は適正か、トランクの開口ラインは広さを感じるかなど、今までできなかった部分に神経を注いだ。車が『よく見える』とはどういうことなのか?を考えることで、価格以上のクオリティを出せたと考えています」

── 新しいことができない分、普段は見過ごしてしまう部分にこだわったということですね。本日はありがとうございました。

(インタビュー:すぎもと たかよし

この記事の著者

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すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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