ヤマハが東アフリカのタンザニアでバイク宅配を開始。現地の雇用創出やライダー増加に挑む

■経済成長が著しい東アフリカで新事業に挑戦

ヤマハ発動機(以下、ヤマハ)のグループ会社「クーリメイト(CourieMate)」は、アフリカ東部タンザニアで新会社「クーリメイト タンザニア(CourieMate Tanzania)」を設立し、バイクを使った宅配、いわゆるラストマイルデリバリー事業を開始したことを発表しました。

2023年1月からタンザニアで行った実証実験の時のデリバリースタッフ
2023年1月からタンザニアで行った実証実験の時のデリバリースタッフ

クーリメイトは、従来から同じく東アフリカのウガンダでバイクを使ったデリバリーサービスを展開しており、タンザニアでの事業はその第2弾。

ヤマハやクーリメイトは、こうした新規事業により、現地でプロライダーを育成するなどの雇用創出や、最終的にバイクの需要拡大を目指すといいます。


●タンザニアの物流事情

今回ヤマハのクーリメイトが事業を開始したタンザニアは、近隣のウガンダやケニアなどと共に、著しい経済成長を続けていることで注目されている東アフリカの国です。

現在のタンザニアは、ヤマハによると、ちょうど日本の経済成長期である1960年代〜1970年代くらいの経済規模。お金がない人もまだまだ多いのですが、少子化で悩む今の日本と違い、10代や20代の若い世代が多いこともあり、今後さらなる経済成長が見込まれています。

また、現地では、スマートフォンなどの携帯電話がかなり普及していて、ネットを使ったショッピングも増加傾向。特に、ひげ剃りや車などの洗車用品、懐中電灯など、便利グッズの人気が高いそうで、今後もこうしたEC商品の宅配サービスは需要が伸びる可能性が高いそうです。

加えて、タンザニアなどの東アフリカでは、特に都市部での交通渋滞が激しく、物流を行う手段は長距離であればバス、短距離であればバイクを使うのが一般的。

そこで、バイクメーカーであるヤマハとしては、新しい事業展開としてバイクを使ったラストマイルデリバリー事業に着目したのだとか。

そして、これにより、働きたくても仕事がない人などへの雇用を生み出し、まだまだバイクを買える経済力を持つ人が少ない同エリアの経済成長へ貢献。将来的に、ヤマハのバイクを買うライダーも増やしていこうというのです。

●展開するバイク宅配事業の内容

そんなタンザニアで行うクーリメイトのバイク宅配の新事業ですが、実は、前述の通り、東アフリカでは、すでにウガンダで同様のサービスを実施中です。

今回、新規参入するタンザニアは、ウガンダと比べ、国土がより広く、人口が多いことで経済成長もいち早く進むことが予想されており、事業の規模もより大きくなることが期待できるといいます。

2017年より事業展開しているウガンダのデリバリースタッフ
2017年より事業展開しているウガンダのデリバリースタッフ

タンザニアでの新事業はウガンダと同様に、基本的に顧客の自宅へ荷物を直接配送するサービス。クーリメイトによれば、ウガンダでの事業が一定の成功を収めていることで、タンザニアでも、そのビジネスモデルを活用することが可能だといいます。

ただし、タンザニアは国土が広いこともあり、地方への配送には課題もあるといいます。

それは、まず、まだ現地にはちゃんとした住所がないこと。日本であれば「○○町○○丁目○○番」など、きちんと地域毎に番地まであります。ところが、タンザニアをはじめとする東アフリカでは、住所がかなりざっくりとしていて、どこが顧客の自宅なのか、現地の人に案内してもらうなどをしないと分からないことも多いのだとか。

ウガンダでは、2017年から事業を開始していることもあり、顧客の住所などのデータはある程度の構築ができているそうですが、タンザニアはまだまだこれから。しかも、タンザニアのディストリクト(都道府県や市町村のような地区)は160から170ほどあり、130程度のウガンダよりもかなり多くなるため、それらを全て把握することがかなり大変なのだそうです。

クーリメイトでは、ウガンダと同様にITシステムを駆使することで一度配送した住所のデータを蓄積することで、2度目の配送などでは、より効率的な配送が可能になるといいます。

タンザニアのキオスク(写真は2019年当時)
タンザニアのキオスク(写真は2019年当時)

ちなみにクーリメイトは、2023年1月からタンザニアで、この事業に関する実証実験を行っており、その際には、アフリカで事業を展開するスタートアップ企業「ワッシャ(WASSHA)」と協業し、現地にある小売店「キオスク」も利用したのだとか。これは、顧客が注文した商品をそこに届けるという方式で、いわば、「コンビニ受け取り」のようなサービスです。

実際の事業では、特に住所のデータが少ない地方において、このキオスク方式も採用。クーリメイトの宅配ライダーが届けた荷物を、キオスクの店主や店員が空いている時間に荷物を注文した人の自宅へ届けることで、確実な配送を実現すると共に、配送先のデータ構築も行うといいます。

●日本と異なる生活事情も課題

他にも、現地では日本と異なる生活事情もあり、それらにフィットした事業が必要だといいます。それは、まず、銀行口座を持っている人が少ないため、キャッシュレス決済などができないこと。そのため、宅配などの物流では、大半が現金による代引き決済を行うそうで、宅配ライダーも信頼できる人でないとトラブルに繫がりやすいのだそうです。

ヤマハのクラックス レヴ
ヤマハのクラックス レヴ

また、ECサイトで購入した荷物が、購入者が思っていたものと違っており、荷物の購入者が「いらない」とお金を払ってくれない場合もあるのだとか。

そうなると、クーリメイトと契約している宅配ライダーはお金にならないし、クーリメイトにとっても配送に使っているバイクのガソリン代が無駄になってしまうという問題もあるといいます。

こうした問題の主な要因は、現地のECサイトには、表記がかなり曖昧だったり、ざっくりしているものも多いためだとか。そのため、クーリメイトでは、前述のキオスクに、あらかじめ作成した紙のカタログを配置し、確実な商品選びに繋げる計画もあるそうで、それについては、実証実験でも協業したワッシャとタッグを組んで行って行く予定だそうです。

なお、クーリメイトが宅配事業に使うのは、ヤマハの「クラックス レヴ」というバイクです。2017年に、ヤマハが初のアフリカ戦略モデルとして発表したモデルで、110cc・空冷4ストロークエンジンを搭載したバイクが活躍するといいます。

このモデルのエンジンには、高い動力性能と優れた燃費性能を誇る独自の「ブルーコア(BLUE CORE)」を採用。インド向けに開発した「クラックス(CRUX)」用をベースに、燃費を約18%向上するなどのアップデートを施しているといいます。

また、タンデム時でも快適なフラットシートやボード型タンデムフットレストを採用。積載性に優れたリヤキャリアや高荷重に対応するサスペンションなども装備することで、高い実用性も誇ります。

クーリメイトでは、このモデルを使い、現地のライダーと契約して配送を依頼。今後は、特に地方で、エージェントを数多く増やすことで、タンザニア全域を網羅するデリバリー事業に成長させることを目標としています。

さて、ヤマハのバイクが東アフリカのタンザニアで、どのような活躍をみせ、現地の人々の生活にどのように役立っていくのか? また、それにより、ヤマハのブランドがいかに現地へ浸透していくのか? 今後に期待大ですね。

(文:平塚 直樹

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平塚 直樹

自動車系の出版社3社を渡り歩き、流れ流れて今に至る「漂流」系フリーライター。実は、クリッカー運営母体の三栄にも在籍経験があり、10年前のクリッカー「創刊」時は、ちょっとエロい(?)カスタムカー雑誌の編集長をやっておりました。
現在は、WEBメディアをメインに紙媒体を少々、車選びやお役立ち情報、自動運転などの最新テクノロジーなどを中心に執筆しています。元々好きなバイクや最近気になるドローンなどにも進出中!
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