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■黄色いランプは、クルマからの「おなかがすいた」のSOS
昔のクルマのメーターにあった警告灯といえば充電警告と排気温度警告くらいのもので、ブレーキ液の残量を示すランプさえありませんでした。
ブレーキ液残量警告や、今は規制緩和でなくなった排気温度警告のランプは、安全基準の強化や排気ガス対策を背景とする法制化で取り付けられました。その後のさらなる法規化や、かなり増えている安全デバイスの作動を示す必要があり、こんにちのメーターには多種多彩のランプが据えられており、ONにするや、一挙銀座のネオンのように灯ります。
その中のひとつに、昔はごく一部のクルマに限られ、今はあるのが当たり前になったランプ「燃料残量警告灯」があります。
●燃料残量警告灯が点いてからどれくらい走れるか? をエンストさせずに知る方法
「燃料残量警告灯」とはその名のとおり、燃料の残量が少なくなると灯るランプです。燃料計の針が「E(empty:空)」位置にあることに気づかずに走り続けてガス欠に陥ることを防ぐために、このランプが設けられています。
このランプ点灯のタイミング、クルマによってさまざまです。タンク内の燃料残量が約10L以下で点灯するクルマがあれば約6.5以下、約7L以下で点くなど、いろいろとあります。中には「燃料の残量が少なくなると点灯……」という、至極あいまいな書き方をしているものも。
「あのランプ、点いてからどれくらい走れるの?」とはよく聞かれることです。筆者もいつも考えていることであり、ランプ点灯からガス欠でクルマが停まるまでどれほど走れるか、ぜひ試したいと思っているのですが、停まるタイミングと場所をガソリンスタンド敷地内の給油機の前に合わせるなどという芸当はできるはずもなく、かといって携行缶に燃料を入れて試すほどのことでもありません。
筆者のクルマの燃料計は液晶ドット式ですが、何リッター入れるごとに1ドット増えていくのかの観察と、燃料残量警告灯点灯から何km走れるのかを計算で出すことを併せて行ないました。
●何リッター入ると1ドット増えるのか?
計算のためのパラメーター(要素)は次のとおりです。
1. 燃料残量警告灯点灯時のキロ数:300.9km
2. 燃料計最後の1ドット点滅開始時のキロ数:322.9km
3. 前回給油時から今回給油時までのキロ数:328.4km
4. 燃料タンク容量:40L
筆者のクルマはスズキの旧ジムニーシエラで、タンク容量40Lですが、燃料の残りが何Lになると燃料残量警告灯が点灯するのかは説明書には記されていません。「燃料が少なくなると」という表現にとどまっています。
また、この燃料計は、ドットが最後の1個になると同時に「っぴーーーん!」という音を鳴らしながら警告ランプを点灯させます。
その後もしばらく走り続けると、その1ドットが怒りの点滅を始め、いよいよガス欠への恐怖感をあおるという演出つきです。
メーター、給油機カウンターを同時撮影し、表にまとめたものがこちらです。
給油量とドット数が増加する様子を示した写真を別に掲げていますので、よかったらご参考に。
さて、40Lで10ドットなら、理論上は1ドット4リッターのはずだけど、そんなはずもないだろうなと思っていましたが、案の定予想どおりでした。
見てのとおり、燃料の送りスピードは一定でも、増え方は均等ではないでしょ? 実は走っている間の減り方も均等ではなく、特に半分以下になったときはドットの減りが早いように思います。
前回の給油から今回の給油までの間、5ドット……すなわち半分の時点で200kmに到達しており、理論上はフルで400km走れるはずだったのですが、ごらんのとおり、燃料残量警告灯点灯時点で300kmちょい。運転の仕方はずっと同じであったのにもかかわらず、いかにあいまいに造られているのかがわかるというものです。
さあ、ここから計算です。
●いよいよ見えるぞ! ランプ点灯後の走行可能距離
給油機の自動ストップは、36.83L入ったところで働きました。ということは、給油開始時点で残りは3.17Lだったことになります。
平均燃費は、
給油時のキロ数328.4km ÷ 給油量36.83L = 8.91664404・・・ ≒ 8.9km/L
表の黄色セルの給油量(A)は、次のドットが点灯した瞬間の数字。すなわち、この表を鵜のみにするなら、給油量8.91L+給油時残量3.17L=10.24L(黒セル)の時に燃料残量警告灯が点灯。点灯後に走れる距離は……
平均燃費 8.9km/L × 10.24L = 91.136km
……となるはずなのですが、乗っている本人からするとどこか怪しさが漂う数字です。走行中のドット減の早さからいって、点灯後に91km超も走るとは考えにくいのです。
どこかに間違いがあるのではないかと考えて表を見たとき、ランプ点灯のタイミングが怪しいと気づきます。
さきに、燃料計ドットは走行中の減り方も給油中の増え方も均等ではなく、あいまいと書きました。すなわち、ドット数が2から1へ、1から2へと増減する瞬間の残量が同じと考えていいのかという疑問に突き当たります。ここでいうなら、はたして10.24Lなのでしょうかということです。
もういちど丁寧にじっくり考え直してみます。見落としや忘れていることはないか?
あった、ありました!
燃料残量警告灯点灯時から給油スタンドまで走った距離を忘れていました。これは
328.4km – 300.9km = 27.5km
この27.5km走る間に費やした燃料は、平均燃費から計算して
27.5km ÷ 8.9km/L = 3.08988876・・・ ≒ 3.1L
これを推定残量に加える。
3.17L + 3.1L =6.27L
これが計算上で出る、燃料残量警告灯が点灯した瞬間の燃料残量です。
仮にこの残量で平均燃費をかけてみると
8.9km/L × 6.27L = 55.803km
計算上、ランプ点灯から55.803kmは走れる「はずだ」ということになります。
この8.9km/Lという平均燃費でタンクが空になるまで走れる距離は、
8.9km/L × 40L = 356km
ランプ点灯時の距離が300.9kmなら、
356km ― 300.9km = 55.1km
55.1km ÷ 8.9km/L = 6.19101123・・・ ≒ 6.2L
ランプ点灯から55.1km走れるはず、その時の燃料残量は6.2Lとなり、先の55.803km、6.27Lの近似値となります。
まとめると、旧ジムニーシエラ(2008年3月車)の場合、
・燃料残量警告灯点灯後に走れる距離:約50km(と思っていたほうがよい)
・そのときの燃料残量:約5~6L(と思っていたほうがよい)
高速道路の給油スタンドは約50kmごとに設置されており、クルマの方も燃料残量警告灯点灯後も約50kmは走るように設計されているといわれていることから、この結果は理にかなっているように思えます。
ただしここでは平均燃費から算出していますが、その平均燃費とてそのときどきの走り方でいくらでも変わります。エアコンをONにして山間道を登ろうものならあっという間にすっからかんに……あくまでも参考にとどめるべきです。
そして昨今、クルマ界の悩みとなっているスタンド数の減少は高速道路でも起こっていることで、慣れた区間を走るならともかく、見知らぬ地へ行くのに高速道路を走るなら、特にそれが長距離となることがわかっているなら、燃料計がたとえ残り半分を指していても、スタンドを見かけたら給油するほうが賢明です。営業時間にも要注意!
●最後のドット点滅からは?
同じことを別の側面から探ってみましょう。ドット点滅時の距離から残量、走行可能距離を推測します。
最後の1ドット点滅開始時の走行距離は322.9km、給油時の走行距離は同じく328.4km。
その差、
328.4km ― 322.9km = 5.5km
この間の燃料消費量を、またまた平均燃費から導き出す。
5.5km ÷ 8.9km/L = 0.617977・・・ ≒ 0.62L
これを推定残量に加える。
3.17L + 0.62L = 3.79L
3.79Lになった時点で点滅が始まると推測できます。
この点滅開始から本当の意味でタンク空っ欠になるまでは、平均燃費から、
8.9km/L × 3.79L = 33.731km
33.731km走れるということになり、さきと同じ考えで近似値を求めると、
総走行距離328.4km - 点滅開始時のキロ数322.9km = 5.5km
5.5km ÷ 8.9km/L = 0.61797752・・・ ≒ 0.2km/L
となります。
このクルマ独自のドット点滅による計算はともかく、ランプ点灯時の距離と給油量、平均燃費、そのクルマのタンク容量から、燃料残量警告灯が点いてからいったい何km走ることができるのかを計算ではじき出してみてください。
●「満タン法」と「燃料消費率」について
ここでは誰にでもできる燃費計測法「満タン法」を採りました。
ガソリンスタンドで給油ノズルを差し込むと、給油開始時の量がどうであれ、満タンになったところでストップします。この時点でメーターの区間距離計(トリップメーター)をリセット(0:ゼロ)にし、次の給油で入ったぶんが、それまでの走行に費やした燃料の量ということになります。
よって得られる数値は「走行距離÷給油量」で示され、その数値が、前回の給油から今回の給油までのリッターあたりの走行距離となります。これが満タン法。
給油機がストップするタイミングは、いつでもタンク内の燃料量が同じであることが前提です。これを読んで試してみようと思った方は、できれば毎度同じスタンドの同じ給油機で行なってください。とはいえ、もともと大雑把な計算法でもあるため、大きな違いが出るわけでもありませんが、同じ給油ノズルで行なったほうが、より納得できるものになるでしょう。
ところでその「燃費」。これは「燃料消費率」の略称で、いまのところ「1リッターあたりの燃料で何キロ走る」という「km/L」で示されます。よく「燃費がいい」とか「燃費が悪い」といういい方をしますが、筆者にはどうもピンときません。このいい方は逆だと思っているからです。
「燃費」とは「燃料」を「消費」する「率」のことです。屁理屈をいうようですが、「『消費』する『率』」ならその数値は小さいことのほうが「いい」ことなのに、「km/L」という、「数字が大きいほうが優れている」ことになる単位で示すため、筆者にはおかしな表現に見えて仕方ありません。
ろくでもない行動をとるひとのことを「あいつは最低だ」といいますが、もしあなたが「お前のクルマの燃費は最低だ」といわれたらそれはほめ言葉です。「燃料」の「消費」が「最も低い」のですから。その証拠に、いっぽうでは「低燃費」といいます。「燃料消費率」なら、数字は「km」を表すのではなく、「L」を示すべきなのです。
ヨーロッパの燃費表記は「100km走るのに何リッター燃料を消費するか」という「L/100km」の単位で表現され、「3.5L/100km」などと記載されますが、これこそがあるキロ数あたりの「燃料消費率」、すなわち「燃費」なのであり、日本式の「km/L」は「燃料消費率」ではなく、たとえば「リッターあたり走行率」とにでもいいかえるのが本当だと思います。
最後は屁理屈、御託ならべになってしまいました。
誰もが疑問に抱く「燃料残量警告灯点灯から走れる距離」は、給油時にあらかじめトリップメーターをリセットしておき、次の給油までにランプ点灯時と給油時のキロ数を記録しておけば、あとは計算で出せるものです。
最近はガソリンスタンドの数も減っていて、「最寄りのスタンドが遠くなった」という話をよく耳にするようになりました。自分のクルマの燃料計、ランプ点灯タイミングの特性を知ることは、決して無駄なことではありません。
(文・写真:山口 尚志)
※2021年10月15日の記事を2023年12月15日に再編集しました。