スズキの良心に拍手パチパチ! 5ナンバーサイズを頑なに守った「スイフト コンセプト」【これだけは見逃すなジャパンモビリティショー2023】

■あくまでも、あくまでもコンセプトモデルの「スイフト コンセプト」

モデルチェンジを機に5ナンバーサイズ(全長4700mm以下、全幅1700mm以下、全高2000mm以下)から3ナンバーサイズになる車は枚挙にいとまがありません。

5ナンバーサイズから3ナンバー域に踏み込むときは、最初はほどほど。まずは誰にもわからない程度の20~30mmの拡幅にとどめて車幅1720~1730mmに。この程度ならほどほどの苦情ですみ、多くのユーザーを洗脳した(ことにした)ら次のモデルチェンジでまた20~30mmワイド化。この調子で3~4度モデルチェンジした頃には車幅が1800mm近くなっていたという車がいかに多いことか。

この傾向は、まずは物品税廃止、消費税導入で、5ナンバーサイズと3ナンバーサイズの税ランク差が小さくなった、1989年以降のクラウンやセドリック/グロリアクラスから始まりました。これが次にマークII、ローレル級に波及し、その後ギャラン、レガシィ格にまで拡大・・・90年代に入ってからは衝突要件が厳しくなってきたことの背景もあります。つまり車両のサイズアップで対応するのが手っ取り早いわけです。

となると残るはエントリークラス。上位クラスが1695mmを維持している間は序列を守り、車幅1695mmまでいくらかの余白を残していたエントリークラスも、上が次々3ナンバーサイズに移行している間に1695mmにまで成長しています。

要するにこのクラスも時間の問題なわけ。

さて、お話移りましてここはジャパンモビリティショー2023会場のスズキブース。

ステージ上に掲げられていた「スイフト コンセプト」
ステージ上に掲げられていた「スイフト コンセプト」

歩いていると、何やら見慣れた車が置いてありました。

「スイフトか・・・」

でもよく見ると前後ランプもボディサイドのプレスラインも違う。

リヤビュー
リヤビュー

近づいたり離れたりしながら見ていたら、スズキ説明員の方が「どうぞ、中に乗り込んでみてください。」と勧めてくれたので運転席に座ってみると、キャビンは広くなっていないし、荷室を覗けば容量は現行車並みらしい。

モデルチェンジのたびに必ずしも広く、大きくする必要はないし、ヘタに外形サイズを大きくされるよりはずっとましなのでそれはいい、いや、むしろ好感なのですが、2代目以降のスイフトから続いてきた、サイドのウエストラインが高い、サイドガラス上下寸が小さいというウィークポイントをまだ引きずっている・・・

ここで説明員の方とコントみたいな会話を交わしました。

「これは次の新型スイフトのようですが、いつ頃発売になりそうですか?」

「いや、これはコンセプトモデルで、『スイフト コンセプト』です。」

「・・・・・・…。あのぅ、どう見ても完成度が高そうなので次期スイフトにしか見えませんが・・・」

「コンセプト! コンセプト! 私の顔を見てお察しください!」

お互いニヤつきながらかなり無理のある会話で、「そうか、これはコンセプトモデルなのか。」とこちらもかなり無理して自分をいい聞かせることにしましたが、

「サイドのウエストラインをこれだけ高くしてガラス上下寸を短くしないとスイフトにならないのですか?」

アイデンティティのひとつ、起き上がったフロントピラーだが、目を凝らしてみると結構倒れているようにも映る
アイデンティティのひとつ、起き上がったフロントピラーだが、目を凝らしてみると結構倒れているようにも映る

と尋ねると、「ウエストラインが高いこととガラス上下が短いこと、加えてフロントピラーを黒く塗って立て気味にするのはスイフトのアイデンティティで、この形にしないとスイフトから離れてしまう」のだそうな。

ところで冒頭に書いたサイズの話。

「1695mm」に拍手を贈ります!
「1695mm」に拍手を贈ります!

いまのスイフトスポーツが3ナンバー(車幅1735mm)であることから、「スズキよ、スイフトよ、どうせお前もだろ?」と、次のスイフト(たとえコンセプトモデルであるにしても!)はいよいよ全車1700mm超と予想してサイズを確認したら、何と車幅は1695mmときた!

フロントガラス左下に貼られたサイズ表記ステッカー上で輝く「全幅1695mm」の文字に称賛の拍手を送った来場者は、筆者だけではないと信じます。

さきの「どうせ・・・」を2秒で追いやり、説明員の方にサイズの質問をしたら「はい、5ナンバーサイズを死守しました!」と誇らしげ。

若いひとや運転に不慣れなひとが乗ることを考えて5ナンバーサイズを守ったのと同時に、「後方視界向上のため、リヤドアのハンドルをオーソドックスな位置に戻した」と。

見ればなるほど、これまでリヤドア窓枠後ろに置かれていたドアハンドルがウエストライン下に移されています。いわれるまで気づかなかった。

筆者は本クリッカー内の「リアル試乗」で、後席にひとがいないときのため、「フロントシートスレスレまで動くリヤシートスライド(前席からふり返って後席上の荷を手にできるようにするため)をぜひ」と提唱していますが、同じ提案を説明員の方にしたらまるで新鮮だったようで、「たいへんいいアイデアをありがとうございます。」とお礼で返されました。

調子に乗って「シート下にレールを設ける必要があり、簡単なようで意外と変更部位が多いと思いますが、コンセプトモデルなら市販まで時間があるからできるでしょう?」と申し上げたら「そうです、コンセプト、コンセプト! お察しください。」とまたまたお互いニヤニヤ。

リヤビュー
リヤビュー

というわけで、この車は見た目にかなり完成度が高そうでも、あくまでもスイフトのコンセプトモデル。読者のみなさん、スズキブースで見かけてもどうか勘違いされませぬ様。

にもかかわらず、これがもし来年2024年1月あたりに発表・発売されたら、「スズキは車の開発スピードが早いねえ」とみんなでほめてあげましょう。

以上、スズキブースからお届けした次期スイフト・・・じゃなかった、「スイフト コンセプト」の、かなり無理のあるレポートでした。

(文・写真:山口尚志