2024年度にデビュー。特急「やくも」用新型車両273系の振り子システムが大幅に進化

■陰陽連絡の新しい切り札

JR西日本は特急「やくも」に2024年度から導入する新型車両273系を公開しました。

特急「やくも」用新型車両273系
特急「やくも」用新型車両273系

特急「やくも」は岡山〜出雲市間を結ぶ特急です。岡山駅では山陽新幹線と乗り継いで、関東・関西と山陰エリアの米子・松江・出雲市を結ぶいわゆる陰陽連絡特急という役割を果たしています。

「やくも」に使用されたキハ181系気動車は岡山県の津山まなびの鉄道館で保存されています
「やくも」に使用されたキハ181系気動車は岡山県の津山まなびの鉄道館で保存されています

「やくも」が運転を開始したのは山陽新幹線新大阪〜岡山間が開業した1972年3月15日。当時の伯備線・山陰本線は非電化区間だったので、当時最強の気動車だったキハ181系を投入しました。

1982年から41年間活躍している381系振り子式電車
1982年から41年間活躍している381系振り子式電車

1982年7月1日に伯備線と山陰本線が電化開業し、「やくも」は381系電車に置き換えられて所要時間を短縮。以来41年間活躍しています。

「やくもブロンズ」を基調とした車体色。前面には雲のイラストと「やくも」のロゴが入ります
「やくもブロンズ」を基調とした車体色。前面には雲のイラストと「やくも」のロゴが入ります
側面にも雲のイラストと「やくも」のロゴをデザインしています
側面にも雲のイラストと「やくも」のロゴをデザインしています

新型車両の273系は老朽化した381系を置き換えるとともに、米子・松江・出雲市への旅をより快適にするために開発されました。

エクステリアデザインのコンセプトは「山陰・伯備線の風景に響、自然に映える車体」。「沿線の自然・景観・文化・歴史を尊びお客様と交換する色」として、車体カラーは「やくもブロンズ」を基調としています。また、前面と側面に雲のイラストと「やくも」のロゴをデザインしています。

●客室設備は3タイプ

273系は出雲市側から1〜4号車の4両編成が基本。多客時は2編成を連結した8両編成での運転も可能となっています。

273系のグリーン車
273系のグリーン車

グリーン車は1号車の出雲市側にあります。客室にはリクライニングシートを1+2列で配置。シートモケットは積石亀甲(つみいしきっこう)柄となっています。

273系の普通車
273系の普通車

普通車は2〜4号車で、リクライニングシートを2+2列で配置。シートの間隔を新幹線並みに拡大して足下をゆったりさせています。シートモケットは麻の葉柄でデザインしています。

大型荷物スペースは各客室に設置
大型荷物スペースは各客室に設置

グリーン車、普通車共に全席にテーブル、コンセントを装備しているほか、各客室には大型荷物スペースを設置して利便性を向上させています。

セミコンパートメントの大型荷物スペース
セミコンパートメントの大型荷物スペース
セミコンパートメント。左が4人用で右が2人用です
セミコンパートメント。左が4人用で右が2人用です

1号車岡山側には普通車セミコンパートメントを設置。大型テーブルを挟んだボックス席で、4人用と2人用を各2組設置しています。セミコンパートメントにもコンセントと大型荷物スペースを設置しています。

3号車の車いすスペースと車いす対応座席
3号車の車いすスペースと車いす対応座席
車いす対応大型洋式トイレ
車いす対応大型洋式トイレ

バリアフリーに対応しているのは3号車。客室内には車いすスペースが3か所、車いす対応座席を2席設置しています。また、車いす対応大型洋式トイレも設置しています。

ユーティリティスペース
ユーティリティスペース
フリースペース
フリースペース

3号車には幅広い利用層を意識したフリースペースと様々な用途に対応するためのユーティリティスペースも設置しました。

●車上型の制御付自然振り子装置を初搭載

273系は車上型の制御付自然振り子装置を新開発して搭載したのが大きな特徴です。

273系が装着している振り子台車
273系が装着している振り子台車

「やくも」が走行する伯備線・山陰本線はカーブ区間が多く、現行の381系はカーブ区間で乗客が感じる遠心力を低減させて乗り心地を向上させるため、自然振り子装置を搭載。カーブの内側に車体を最大5度傾斜させることで、乗り心地の向上とスピードアップを図っています。

車体を最大5度傾斜させてカーブ区間を通過する381系
車体を最大5度傾斜させてカーブ区間を通過する381系

381系が採用している自然振り子装置は、振り子中心より下部にある床下機器などの重量物が、カーブ通過時に遠心力によってカーブの外側に移動する力を利用して、客室部分をカーブの内側に傾けるパッシブ装置です。そのため、カーブに入って遠心力を受けてから車体が傾く「振り子遅れ」や、直線に戻っても車体が揺れる「揺り戻し」が発生して乗り心地を悪化させていました。

この自然振り子装置の弱点を補うため、1989年にJR四国2000系が制御付自然振り子装置を初めて導入。このシステムはJR各社にも普及し、JR西日本も283系(1996年)、キハ187系(2000年)に採用しました。

JR西日本283系
JR西日本283系
JR西日本キハ187系
JR西日本キハ187系

制御付自然振り子装置は車体の傾斜を制御する振り子アクチュエーターを振り子台車に取り付けて、カーブが始まる場所で車体が適切に傾き、直線に戻った時は車体を安定させることで「振り子遅れ」「揺り戻し」の解消を図っています。

自然振り子装置の381系(左)はまだ車体が傾いていませんが、制御付自然振り子装置の283系(右)の車体はすでに傾いています
自然振り子装置の381系(左)はまだ車体が傾いていませんが、制御付自然振り子装置の283系(右)の車体はすでに傾いています

車両のCC(コマンドコントローラー)には運行区間のカーブの場所や半径・長さなど記録したマップデータをインストール。速度発電機で自車の走行位置を推定し、ATS(自動列車停止装置)の地上子からの信号により走行位置を絶対補正して、カーブの場所を把握。カーブの直前で各車両のTC(チルトコントローラー)に指令し、振り子アクチュエーターを使って車体を傾けることで「振り子遅れ」を解消し、乗り心地の向上とスピードアップを実現しました。

287系の車上型の制御付自然振り子装置の概要と自然振り子装置の381系、制御付自然振り子装置のキハ187系との比較
287系の車上型の制御付自然振り子装置の概要と自然振り子装置の381系、制御付自然振り子装置のキハ187系との比較

273系は車両にジャイロセンサを搭載。ジャイロセンサが得た横Gによって生成した走行データとCCのマップデータを照合して自車の走行位置とカーブが始まる位置を正確に把握します。また振り子アクチュエーターも連続的に制御できるように改良。車体傾斜制御をより緻密に行うことで乗り心地をさらに向上させることに成功。

381系の自然振り子装置と比較すると乗り物評価指数が最大23%改善されるそうです。

273系「やくも」は2024年度にデビューします
273系「やくも」は2024年度にデビューします

273系「やくも」は2024年度から順次導入して、381系を置き換える予定。デビューが待ち遠しいです。

(ぬまっち)

この記事の著者

ぬまっち(松沼 猛) 近影

ぬまっち(松沼 猛)

1968年生まれ1993~2013年まで三栄書房に在籍し、自動車誌、二輪誌、モータースポーツ誌、鉄道誌に関わる。2013年に独立。現在は編集プロダクション、ATCの代表取締役。子ども向け鉄道誌鉄おも!の編集長を務める傍ら、自動車誌、バイク誌、鉄道誌、WEB媒体に寄稿している。
過去に編集長を務めた雑誌はレーシングオン、WRCプラス、No.1カーガイド、鉄道のテクノロジー、レイル・マガジン。4駆ターボをこよなく愛し、ランエボII、ランエボVを乗り継いで、現在はBL5レガシィB4 GTスペックB(走行18万km!)で各地に出没しています。
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