Be-1やフィガロの再来? 日産のEVコンセプトカー「コンセプト20-23」は、現代に蘇ったパイクカー!?

■日産が2030年までに欧州に投入するすべての新型車をEVに

車の電動化(主にバッテリーEV化)は、国や地域の政策や電源構成、充電インフラの整備などにより、進捗具合が異なっています。ライフサイクルアセスメント(LCA)視点はもちろん、駆動用バッテリーのリサイクル、リユースなどの課題解決も端緒についたばかり。

EVコンセプトモデル「コンセプト20-23」のエクステリア
EVコンセプトモデル「コンセプト20-23」のエクステリア

欧州では、合成燃料(e-Fuel)の使用を前提に、ICE(内燃機関)の新車販売を2035年以降も認めるという方針転換も図られていて、単純に電動化が進むという流れに変化も起こっているようです。

メルセデス・ベンツなどをはじめとしたドイツ勢などは、100km以上走行できるプラグインハイブリッドの開発や販売にも当面の間、注力するはず。一方で、レクサスやボルボやジャガーなど、すべてのモデルをバッテリーEV(BEV)化すると表明するブランドも着実に増えています。

EVコンセプトモデルの「コンセプト20-23」のリヤビュー
EVコンセプトモデルの「コンセプト20-23」のリヤビュー

そんな中、2023年9月25日、欧州日産自動車会社(以下、欧州日産)は、2030年までに欧州に投入する新型車を、すべてEVにする目標を明らかにしました。

先述したように、多くの国や地域でICE(内燃機関)の販売禁止時期が議論されるなか、日産が欧州に投入する新型車はすべてEVになると表明。欧州日産は、英国に車両のデザイン、設計、生産の機能を持ち、電動化とクロスオーバーという日産ブランドのコアとなる特性を活かし、EVに転換することで、カーボンニュートラルの実現を目指す狙いが込められています。

●EVコンセプトモデルの「コンセプト20-23」を披露

2023年9月25日、日産デザイン・ヨーロッパ(NDE)の近郊にある運河のほとりで、ロンドンのパディントンにあるデザインセンター設立20周年を記念し、スポーティで都会的なEVコンセプトモデルの「コンセプト20-23」を発表。その場で、内田 誠社長兼CEOが、ヨーロッパでの電動化も宣言しました。

Aピラーの付け根から上方に開く2つのシザードアを採用
Aピラーの付け根から上方に開く2つのシザードアを採用

そうした電動化をイメージさせる存在として披露された「コンセプト20-23」は、NDEの若手メンバーチームによってデザインされました。彼らが働くロンドンで、運転したいと思うような車をデザインするという、シンプルな指示のもと、それ以外の制約なくデザインされています。

コンセプト名は、NDEのロンドンでの「20年」の歴史、同社の伝統的なナンバー「23(ニッサン)」、そして「2023年」であることから命名。また、ハッチバックやシティカーのジャンルに、人目を惹く遊び心をもたらしてきたBe-1、パオ、フィガロ、エスカルゴといった日産のパイクカーの伝統を受け継ぎながら、21世紀らしいトーンが加えられています。

EVコンセプトモデルの「コンセプト20-23」の外観
EVコンセプトモデルの「コンセプト20-23」の外観

同コンセプトカーの遊び心をモダンにアレンジしたデザインは、オンラインレースの世界と日産の「フォーミュラE」参戦の両方が反映されたとのこと。その3ドアハッチバックスタイルには、車体の前後に優れた空力特性を備え、フロントスポイラーにより、空気の流れは車体前方から、ブレーキを冷却するための開口部を通って、前輪後方の通気口から排出されるようになっています。

随所に空力対策が施されている
随所に空力対策が施されている

また、車両の先端からボンネットの上端までなだらかに角度が上がっていて、すっきりとしたフロントマスクも目を惹きます。ヘッドライトは、細い上下の半円形からなる特徴的なデザインが与えられ、LEDによるシャープなビームを強調。ウィンカーも同じ半円形のLEDユニットの一部に組み込まれています。ウインカーは、空気の流れをコントロールできるよう考えられた、コンセプト20-23に親しみやすさも与えています。

サイドビューは、ロープロファイルタイヤ(低扁平率タイヤ)を履いた大径ホイールを覆うように延びるホイールアーチが力強さを演出。前後のホイールアーチ上部には、ホイールハウス内の空気抵抗となる圧力を低減するための通気ルーバーが設けられています。そのホイールアーチの湾曲は、ドア下部まで続き、前輪後方の通気口の縁取りと交差しています。

「コンセプト20-23」のサイドビュー
「コンセプト20-23」のサイドビュー

また、リヤタイヤのホイールアーチにも角度がついたスリットが設けられ、リヤブレーキを冷却する空気の流れを生み出します。そして、サイドスカートが車体下部を包み込みこんでいます。

フロントライトと似た丸型のテールランプ
フロントライトと似た丸型のテールランプ

リヤまわりでは、大型の一体型スポイラーがルーフレールと調和し、エンドプレートはCピラーに近づくにつれて水平になるようカーブすることで、ダウンフォースを発生。また、スポイラーにより後方視界が損なわれるという、スポーツカー特有の問題も回避されています。

ブレード(羽)のようなアルミホイール
ブレード(羽)のようなアルミホイール

フロント同様に、テールランプには上下に細い半円形のLEDが配され、下部の四角いフォルムとは対照的になっています。ロアには、空気の流れをコントロールし、車体下部から空気が逃げることでダウンフォースを最大化する機能を備えています。

バックドアの造形はやさしく微笑んでいるかのように見え、その下を水平に伸びる線によって車幅が強調されています。ルーフには、薄型の換気口がフロントガラスの上辺と接するように組み込まれ、空力性能を損なうことなく、車内を換気することができます。

斜め後方を映し出すサイドカメラ
斜め後方を映し出すサイドカメラ

また、エクステリアのグレーの塗装は、質感のある仕上がりで、1枚の金属から切り出されたような印象を与え、同モデルが走ることを想定した、ロンドンの下町をイメージ。サイドの後部から4分の3は「23(ニッサン)」のナンバーがプリントされています。


●フォーミュラEやオンラインレーシングシミュレーターから影響を受けたインテリア

同コンセプトカーは、エクステリアのみが表現されたモデルであるものの、インテリアデザインのチームは、エクステリアの極めてスポーティな特徴を反映したインテリアをデザイン。Aピラーの付け根から上方に開く2つのシザードアから乗降します。

レーシングカーのようなコクピット
レーシングカーのようなコクピット

ドアの開口部には、肘置き用のフォームパッドが覆われた梁が配置され、これを跨いでシートに収まります。2つの深いバケットシートは、身体をしっかりとサポートしながら快適性も担保。白く縁取られたシートは、レーシングカーを思わせる大きなヘッドレストが付いています。

運転姿勢の調整で特徴的なのが、ドライバーを出迎えるようにステアリングコラムが長く伸び、長方形のスポーティなハンドルでさまざまな操作や調整が可能な点。電動パワートレインの性能を調整するパドルやスイッチ類は、ハンドルの後ろ側の指先の届く範囲に配置されています。

EVコンセプトモデルの「コンセプト20-23」のステアリング
EVコンセプトモデルの「コンセプト20-23」のステアリング

さらに、ステアリングコラムはカーボンファイバー製のマウントで支えられていて、マウントは、前方の大きく開いた空間の底部からボルトで固定。2本の金属製の梁がセンターコンソールを支え、フロアから現れる車の背骨にボルトで固定されているのも特徴的。2本の梁の下には消火器が取り付けられています。

先述したように、同コンセプトカー、とくにインテリアは、レーシングカーの機能を近未来的に表現され、2つのスクリーンに最小限の重要な情報が表示されます。これは、日産のフォーミュラE参戦車両のような本物のレーシングカー、オンラインレーシングシミュレーターのセットアップにインスパイアされたそうです。

EVコンセプトモデルの「コンセプト20-23」のキャビン
EVコンセプトモデルの「コンセプト20-23」のキャビン

EVコンセプトモデルの「コンセプト20-23」は、欧州デザインセンター20周年、そして新時代のコンセプトカーにふさわしいユニークな仕上がりになっています。

(塚田 勝弘)

この記事の著者

塚田勝弘 近影

塚田勝弘

1997年3月 ステーションワゴン誌『アクティブビークル』、ミニバン専門誌『ミニバンFREX』の各編集部で編集に携わる。主にワゴン、ミニバン、SUVなどの新車記事を担当。2003年1月『ゲットナビ』編集部の乗り物記事担当。
車、カー用品、自転車などを担当。2005年4月独立し、フリーライター、エディターとして活動中。一般誌、自動車誌、WEB媒体などでミニバン、SUVの新車記事、ミニバンやSUVを使った「楽しみ方の提案」などの取材、執筆、編集を行っている。
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