「原付バイクの排気量アップを検討」について思うこと【バイクのコラム】

■原付バイクの排気量アップを検討している?

警察庁が『二輪車車両区分見直しに関する有識者検討会について』の構成員や開催スケジュールを発表したことが二輪ファンやメディアの間でひそかに話題を集めています。

警察庁の発表した概要を引用すれば以下の通りです。

最高出力を4kw以下に制御した総排気量125cc以下の二輪車を原動機付自転車と区分することに関し、車両の走行評価や関係者からのヒアリングを通じて、その安全性や運転の容易性等を重点に、検討するもの。(原文ママ)

以前から、いっそう厳しくなる排ガス規制をクリアするには、排気量アップは必須という意見は出ていました。今回発表された有識者検討会によって、年内には提言を取りまとめる予定ということです。

●従来の原付二種が乗れるようになることはない?

カワサキの原付二種「Z125 PRO」の空冷単気筒エンジンのスペックは7.1kW(9.7PS)/8,000rpm。4kWは楽に超えている。
カワサキの原付二種「Z125 PRO」の空冷単気筒エンジンのスペックは7.1kW(9.7PS)/8,000rpm。4kWは楽に超えている。

予定されている検討会は3~4回程度といいますから、おそらく125cc以下原付二種のアーキテクチャーを利用しながら、4kW(約5.4PS)に出力リミッターをかけたモデルを原付一種として公道走行できるような制度に改正される方向というのが、予想される未来です。

一部のユーザーにおいては、これまで小型二輪免許が必要だった原付二種モデルを、問答無用に原付免許で乗れるようになると認識している方もいるようですが、あくまで車両規定の改正であって、免許制度が改正されるということではなさそう。

つまり、現時点で新車で売られていたり、中古市場に流通していたりする原付二種モデルを、原付免許や四輪免許で乗れるようになるということではなく、新規に認められた排気量125ccの原付一種モデルについて原付免許などで乗れるということになるでしょう。

●電動化にリソースを割くべきだと思うが…

株式会社プロトが東京モーターサイクルショーに参考出品した原付二種クラスの電動スクーター。こうしたモデルに普通免許で乗れるようにしたほうがカーボンニュートラルには貢献するのではないだろうか。
株式会社プロトが東京モーターサイクルショーに参考出品した原付二種クラスの電動スクーター。こうしたモデルに普通免許で乗れるようにしたほうがカーボンニュートラルには貢献するのではないだろうか。

原付一種に分類されるモビリティの排ガスがクリーンになり、動力性能のバランスもとれることについて否定するつもりはありませんが、それにしても警察庁の動きというのは遅きに失したという印象もあります。

世界的に原付のようなスモールモビリティについては電動化が進んでいますし、日本でも電動キックボードなどを想定した特定小型原付という新しい規格がスタートしたばかりです。

このタイミングで、内燃機関のモビリティについてのレギュレーションを変更するというのは、エンジン車を生き長らえさせる方向であって、政府が進めるカーボンニュートラルとは真逆の方向だと感じます。

「出力リミッター付125ccエンジンを積んだ原付一種」という規格が生まれれば、メーカーはその新規格に対応したニューモデルをリリースするでしょう。しかし、世界がカーボンニュートラルやゼロエミッションに向かっている今、2020年代の後半に向けて、新しいエンジン車の開発にリソースを割くような政策をとるというのは疑問です。

むしろ、電動化時代における混合交通下での動力性能バランスを考えるのであれば、定格出力600W以下のモーターとなっている原付一種の電動バイクのレギュレーションを、原付二種同様の定格1000W級まで認可することで、発進性などのパフォーマンスを持たせることのほうが有用なようにも思うのです。

自動車コラムニスト・山本 晋也

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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