ホンダ「アコードインスパイア」デビュー。世界初5気筒フロントミッドシップで低重心を実現した驚きの方法は?【今日は何の日?9月12日】

■ホンダが放った技術満載の個性豊かなハイソカー

1989年にデビューしたアコードインスパイア
1989年にデビューしたアコードインスパイア

1989(平成元)年9月12日、ホンダから、当時市場を席巻していた“ハイソカーブーム”に対応するため、高級スポーティセダンの「アコードインスパイア」がデビューしました。

注目されたのは、5気筒エンジン搭載のFFミッドシップという世界初のレイアウトでした。


●1980年代後半に起こったハイソカーブームに乗り遅れたホンダ

1980年にデビューした4代目マークII。ハイソカーブームの火付け役に
1980年にデビューした4代目マークII。ハイソカーブームの火付け役に

1980年に登場したトヨタの4ドアハードトップの4代目「マークII」、1981年にデビューした2ドアクーペ「ソアラ」が火付け役となり、その後1980年代半ばにバブル景気の勢いを受けてハイソカー(ハイソサエティカー)ブームが起こりました。ハイソカーとは、アッパーミドルクラスのスポーティな高級セダンを指します。

ハイソカーブームに後れを取ったホンダは、超個性的なハードトップのアコードインスパイアを投入。短いフロントオーバーハングに低く構えたボンネットからリアに流れるような直線基調の英国風フォルムと、シンプルながら高級感漂うインテリアが特徴でした。

ハイソカーを象徴する4ドアハードトップの流れるようなフォルムのアコードインスパイア
ハイソカーを象徴する4ドアハードトップの流れるようなフォルムのアコードインスパイア

新開発の2.0L直列5気筒SOHCエンジンをフロントアクスルより後方に搭載(フロントミッドシップ)して車両の重量配分を改善、これによって俊敏なハンドリング特性を実現。さらに低重心化を図るため、クランクケースとオイルパンに中空部分を設けてドライブシャフトを貫通させるという大胆なエンジン構造も採用しています。

車両価格は、192.7万~264.4万円で、ホンダらしい個性的な技術満載のハイソカーとしてデビューしたアコードインスパイアでしたが、販売は振るいませんでした。

ユニークな5気筒エンジンといっても2.0Lしかないこと、ハイソカーの最大の売りであった豪華さや重厚感に欠けたことが、市場で評価されなかった理由だったようです。

●4気筒と6気筒の良いとこ取りエンジンだが、今や希少な5気筒エンジン

直列5気筒エンジンは、かつてはWRCで活躍した「アウディクアトロ」や「ボルボ850」、トヨタの「ランクル70系」ディーゼルなどで採用例がありましたが、2023年現在、生産しているのはおそらくアウディのみです。

アコードインスパイア搭載の直列5気筒エンジン
アコードインスパイア搭載の直列5気筒エンジン

直5エンジンのメリットは、簡単に言えば直4エンジンより排気量が大きくでき、直6エンジンより搭載しやすいこと。ガソリンエンジンは、1気筒あたりの排気量が600cc以上になると、燃焼効率面で不利になるので、排気量を2.5L以上に増やそうとすると気筒数を増やすしかありません。

直6エンジンは、振動騒音面で優れたエンジンですが、エンジン全長が長くなり、基本的には横置きができません。一方縦置きだと、衝突時のクラッシャブルゾーンが十分に取れないので衝突安全性で不利となります。そのため、一般的には直6でなく、コストがかかってもV型6気筒エンジンが採用されます。

直列5気筒エンジンは、4気筒と6気筒の良いとこ取りが可能なエンジンなのです。ただし、4気筒と6気筒の狭間でエンジンラインナップを増やすのは非効率的なので、なかなか採用しづらいのが実状です。

●多彩だった4代目アコードの派生モデル

4代目アコードは4気筒エンジン、窓枠がある通常のセダンでした
4代目アコードは4気筒エンジン、窓枠がある通常のセダンでした

アコードインスパイアは、本家のアコードの4代目へのモデルチェンジとともに誕生しました。4代目アコードは、ラインナップ戦略によって積極的にシリーズ展開を行いました。

セダン系の「アコード/アスコット」、上級ハードトップ系の「アコードインスパイア/ビガー」が用意され、アコードとアコードインスパイアはクリオ店、アスコットがプリモ店、ビガーがベルノ店で販売されました。さらに1990年には、「アコードUSクーペ」、1991年には「アコードUSワゴン」、1992年にはワイドボディ版「インスパイア」が登場したのです。


スポーティな高級セダンが飛ぶように売れたハイソカーブームのなかでしたが、人気が獲得できなかったアコードインスパイア。玄人好みの凝りに凝った技術が集成された車ではあったものの、ハイソカーとしてどこか大衆受けするようなポイントがなかったのかもしれません。

毎日が何かの記念日。今日がなにかの記念日になるかもしれません。

Mr.ソラン

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Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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