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■バッテリーEV専用プラットフォーム「MEB」で、多彩なモデルを発売するVW
フォルクスワーゲンが展開しているバッテリー(BEV)の「ID.」シリーズ。日本にはSUVの「ID.4」から導入されています。
ID.4は、2023年11月に導入記念モデルの「Launch Edition」から上陸し、2023年中には完売。そして、2023年夏以降、カタログモデルでもある2023年生産モデルが、本格的に日本に上陸することになり、以前お伝えしたように、全国キャラバンも展開されています。
「ID.4」のカタログモデルの上陸を前に「Volkswagen Tech Day」と題し、栃木県のGKNプルービンググラウンド(テストコース)を舞台に、プレス向け試乗会が開催されました。
なお、BEVの導入は脱炭素化ロードマップに沿ったもので、フォルクスワーゲンブランドとして2030年までにライフサイクルの視点でCO2排出量を-40%(2018年との比較。1台あたり17t相当)、2050年までにカーボンニュートラル化達成を目標に掲げています。
「ID.」シリーズは、ヨーロッパ向けのID.3、日本に初導入されたID.4のほか、ID.4と同クラスのSUVクーペであるID.5、中国向けのミドルサイズSUVであるID.6、2022年に発表され、2024年末以降の日本発売がアナウンスされている「ID.Buzz」のほか、2023年から2026年までの間にさらに10モデルの導入が予定されています。
ミドルサイズセダンで航続距離700kmに達するという「ID.7」は、「上海モーターショー2023」で発表済み。「ID.3」のマイナーチェンジ、「ID.Buzz」のロングホイールベース版もカリフォルニアで発表されています。
●フォルクスワーゲン「ID.4」の走りをチェック
「ID.」ファミリー、つまり、フォルクスワーゲンの電動化戦略を支えているのが、BEV専用プラットフォームの「MEB」です。航続距離の長さ、広々したキャビンと快適性の高さ、ダイナミックな走りなどを実現しています。
プロペラシャフトやエキゾーストがないため、フラットなフロアを実現し、床下に敷き詰められた大容量バッテリーがロングホイールベース化に寄与(結果的であっても)。エンジンがない上に、コンパクトなモーターの採用により、前後オーバーハングを短くすることができます。
なお、軽トラや軽バンなどからも分かるように、前後オーバーハング(とくにフロント)が短くなることで、取り回しがしやすくなる傾向にあります。ID.4の最小回転半径は5.4mで、後輪ステア機構を備えていないことを考えると、十分に小回り性能は高いといえます。
ID.4の「Launch Edition」導入時のプレス試乗会では、ID.4の有効回転半径(ウォール・トゥ・ウォール)は10.2mで、10.6mのポロよりも小さいという説明があったのを思い出しました。
試乗前には、「ID.4」のお腹(床下)を見ることができる機会が用意されました。後輪駆動を採用するID.4は、リヤにモーターが搭載されています。その位置は、後輪よりも前に横向きに配置されていて、実際にはリヤミッドシップといえるレイアウトになっています。
そのほか、空力に配慮された設計になっているのはもちろん、速度域によって可変(開いたり閉じたり)するグリルシャッターも用意されています。また、床下をカバーするパネルは、雪上などを走行する際に、腹まわり(床下)をヒットさせてもパネルが剥がれないように設計されているそう。
ところで、フォルクスワーゲンといえば、RRを採用してきたビートル(タイプ1)やワーゲンバス(タイプ1)などから、ゴルフで初の水冷FFに転換したのはご周知のとおり。FF化によりパッケージング革命をもたらしました。
そして、リヤ(リヤミッドシップ)駆動になった「ID.4」も、BEV専用プラットフォームである「MEB」の採用もあり、高効率パッケージングと後輪駆動を達成しています。先述したように、エンジンをはじめプロペラシャフトやエキゾーストシステムが必要なく、モーターの小型化も相まってリヤミッドシップ化を実現。小回り性能の高さ、「50:50」に近い前後重量配分(実際は47:53)、リヤ駆動によるドライバビリティの高さなどを享受できます。
●サマータイヤを履く後輪駆動で、滑りやすい坂道をクリアできる!?
しかし、リヤ駆動(リヤミッドシップ)となると、たとえば滑りやすい路面での発進性や操縦安定性がどうなるのか、気になるところ。同試乗会に用意されていたメニューは、ドライ路面でのハンドリング路、ウェット路面(摩擦係数が低い、低ミュー路)での円旋回路、同じく低ミュー(コース取りよって氷結路と圧雪路など、ミューが異なる)の登坂路、低ミュー路でのブレーキ、低ミュー路でのスラロームの各テストでした。
後輪駆動(状況によっては後輪駆動に限らず)で凍結した登り坂をサマータイヤで登ろうとすると、急な降雪で立ち往生するクルマが続出するニュースが思い浮かびます。
緻密な制御が可能なモーター駆動のID.4は、低ミュー路はもちろん、左右輪でミューが異なる条件下でも、少しスリップはするものの、その後、難なくスタートできます。モーターの制御、トラクションだけでなく、「50:50」に近い前後重量バランスの良さがなせる技だそうです。
なお、FFのT-Rocで同じ登り坂をチャレンジすると、坂道発進できずにスリップし、断念というデモ走行を見学。
●低ミュー路での円旋回でもスピンはしない
スキッドパッドを使った円旋回では、水がまかれ、圧雪路並の低ミューという条件でした。公道であればサマータイヤを履く後輪駆動車で、冬道に侵入することはないでしょうが、想像以上に普通に走れてしまいます。
床下中央にバッテリーが敷き詰められ、重いことに加えて、前後重量バランスの良さ、モーターならではの緻密な制御により、サマータイヤでも普通に旋回できます。
なお、ID.4は、横滑り防止装置は、完全オフにはできず、トラクションコントロールのオンとオフが可能になっています。オンの状態の方が当然ながら発進性に優れるものの、オフにしてもラフなアクセルワークや操舵をしてもスピンさせるのが難しいほど。オフでも最後には、横滑り防止装置が介入するため、姿勢を戻していきます。
同じく、低ミュー路でのスラロームでも安定性の高さを披露してくれました。前後重量バランスの良さもあり、ステア操作に対して素直に向きを変えてくれるため、難なくクリア。円旋回でもスラローム、後述するハンドリング路でも床下に重いバッテリーを積むことで、安定感を抱かせるのと同時に、重さという現時点でのBEVの宿命も感じさせます。
低ミュー路でのスラロームでは、前後にかかる荷重が手に取るように分かりやすいのと、ボディの姿勢も安定しているのが印象的でした。スタッフからパイロンに少しくらいヒットするくらい試してもいいですよ、という声もありましたが、筆者が参加した日にヒットするようなことはなかったようです。
●ブレーキング時でもノーズダイブせず、ウェット路のスラロームも安定感抜群
後輪駆動を採用する、ID.4のブレーキング時の姿勢も安定しています。シフトポジションを「B」にすると、回生だけで十分な減速感が得られ、最後は停止のためにメカブレーキを踏む程度。
後輪駆動は、前輪駆動よりも回生量が少なそうなイメージ(効率が悪い)でしたが、今回のテストくらいの短い距離ではもちろん問題はなく、バッテリー容量も含めて、当然ながら回生量も織り込み済みで設計されているはずで、ドライバーが意識することはないはず。それよりも、低ミュー路でのブレーキングでは、車体が前のめり(ノーズダイブ)になることなく、しっかりと制動。
ドライ路面では、ハンドリング路のテストが用意されていました。ハンドリング路は、狭くて回り込むようなコーナーが続きます。舵が利いていて、一定の舵角ではクリアできないようなコーナーの後半から、さらに回り込む状況でも、素直に向きを変えてくれるのが美点。「D」レンジのままだとコースティング(滑走、空走)するため、「B」レンジにして走行する方がこうしたワインディング路では走らせやすい印象を受けました。
ID.4には、残念ながらパドルシフトの設定はなく、アウディQ4 e-tronのようにパドルで回生レベルを選択できると、こうしたシーンではより走らせやすいはず。
ほかのBEVと比べても、回生量(回生ブレーキ)も小さい(少ない)印象で、好みによるでしょが、BEVに慣れた人ならもう少し強い減速感が得られた方が走らせやすい(あるいは、ありがたみがある!?)と感じるかもしれません。
なお、蛇足になりますが、ID.4ではサマータイヤでもある程度、低ミュー路でも走ってしまいますが、ウインターシーズンは、スタッドレスタイヤ、もしくは地域によっては少なくてもオールシーズンタイヤが必要なのは言うまでもありません。
(文・写真 :塚田勝弘)