バイクを運転中、カーブ途中でクラッチを切ったら危険ですか?【柏秀樹の初心者・リターンライダーのための常識?非常識?】

■柏秀樹、バイク初心者やリターンライダーを対象にアドバイスしていきます!

皆さん初めまして。柏秀樹と申します。

これから主に、バイク初心者やリターンライダーを対象に、運転にまつわる常識と非常識の両方の視点でアドバイスしていきます。どうかよろしくお願いします。

●自転車は漕がなくても下りで転びませんよね

クラッチを切ってターンしても切らないでターンしても、笑顔で運転でき、後席ライダーが前後に動かない。安全安心そして滑らか!ならOK.エンジンによってコンディションによって クラッチの要・不要は異なるので どれにも対応できる能力こそがベスト。
クラッチを切ってターンしても切らないでターンしても、笑顔で運転でき、後席ライダーが前後に動かない。安全安心そして滑らか!ならOK。エンジンによってコンディションによってクラッチの要・不要は異なるのでどれにも対応できる能力こそがベスト。

早速ですが、つい最近のことです。バイク歴40年以上のベテランライダーから相談を受けました。「カーブの途中でシフトダウンに失敗して転倒しちゃったんですよ。その原因がよくわからないんです」軽い怪我で済んだことをお聞きして、私が質問しました。「カーブの途中でクラッチを切ったら危険ですか?逆に問題ない?」。

すると、そのライダーは「クラッチを切るとトラクションが抜けるから危険!」との返答でした。

はい。それより最初に考えたいことがあります。たとえば、くだり坂を「自転車」で駆け下りるときに一般的な速度で走る限りペダルを漕がなくても転びませんよね。自転車よりはるかに優れたタイヤとブレーキと前後サスペンションがセットされたバイクなら、もっと安全に同じ坂道が下れると思います。

自転車のペダルを漕がない状態はバイクのニュートラルギヤで坂道を下ることと同じ。あるいはギヤが入ったバイクのクラッチレバーを握ったまま坂道を下っても自転車よりはるかに安全走行できます。私は相当な数の実験をしていますがニュートラルギヤのままコーナリングしても転ばなかったし、コーナリング中にバイクのクラッチを切っても何も問題は起きたことがありません。

コーナリング中のシフトダウンというギヤ操作で、そのベテランライダーはクラッチを切ったから転んだのではなく、クラッチを乱暴に繋いだから後輪の駆動力が大きく変化したことで運転不能になり転んだのです。

結論は、コーナリング中にクラッチを切っても転びません、なのです。

●「急+ガチ」が転倒確率を一気にアップクラッチ

ではなぜ、多くのライダーはコーナリング中にクラッチを切ると「転ぶ」と思ってしまうのでしょう。先輩や教習所でそう教わったからなのかもしれませんね。

もしも危険な問題が起きるとしたら、それは運転する人が余計な操作をするからです。具体的には「急」なブレーキ、クラッチ、アクセル、ハンドル操作です。加えてグリップを強く握ってヒジやカタが「ガチガチ」の状態。

そうです。「急+ガチ」が揃うと転倒確率が一気にアップします。逆に「早め・丁寧・ユルユル」が安全快適と上達のキモになります。普段からこの3つをちゃんと意識するべきです。より具体的には、シフト時にクラッチを切るときもミートするときも普段よりわずかに長くゆっくりやれば急激な駆動力変化は起きません。後輪スリップは起きないのです。エンジンの回転数が多少不適切でも、です。

シフトダウンによるスリップ防止のバックトルクリミッターやクラッチレバーを握らなくてもギヤチェンジできるオートシフター付バイクは、便利で良いですが、ライダースキル上達のチャンスを失うかもしれないのです。

●普段から速度控えめ、ハンドルグリップをユルユルに触れる

理想はハイテクに依存しないバイクの原理原則に沿った基本スキルの習得です。乗車中は何かと操作が忙しく、カーブではなおのこと。でも、ゆっくり正確に操作ができないのは速度の出し過ぎか疲れ、あるいはその両方によるものと判断してください。

ならばどうすれば運転スキルが安全にアップできるか。簡単です。普段から速度を控えめにして手、手首、ヒジ、肩の力を抜いたままハンドルグリップをユルユルに触れる。そしてできるだけショックのでない滑らかなシフトアップとダウン、そしてブレーキ&スロットル操作を繰り返し目指すことです。

それもカーブではなく、前後に誰もいない直線路です。直線でちゃんとできないライダーがカーブで滑らか操作は無理です。ツーリング時でも普通の移動時でもやるべきです。特別な練習時間など不要です。ユルユルなグリップ状態でシームレスな運転を目指すことを常態化することが何よりも大事なのです。

この習得度は個人差が大きく、具体的には私の運転するバイクの後席から見て体感してもらうのがベストですが、イメージとしてはオートマチック式自動車やATバイクのギクシャクしない加減速です。電車なら在来線ではなく新幹線の「いつ発進して、いつ止まったかわからない」滑らかな走りです。

交通の現場は教習所で習ったこと以外のことが起きるのが普通。常に例外だらけです。だから習ったこと以外の練習こそ不可欠なんです。その第一歩が写真にありますように左右のレバー操作とハンドルグリップのユルユルな触れ方。これが本当の安全快適そして走る距離に比例して上達していく運転のキモになると思ってください。もちろん強く握らなければならない時もありますが、強い握りのままでは路面から伝わる情報が遮断されるまま。そして早く疲れてかえって危険になるだけなのです。

根性と度胸と体力に依存する走りはすでに過去のモノです。危険で上達効率の悪い手法です。

滑らかな操作の習得は、まずは左右のレバーの触れ方とハンドルグリップの握り方から始まります。
走る距離に比例して進化しながら本当の安全快適と楽しさを得るには、手のひらを浮かせるFG(フローティング・グリップ)を原点に進めていくといいでしょう。

次回は「ゆっくりユルユルで正しく脳を刺激」の予定です。

(柏 秀樹)

この記事の著者

柏 秀樹 近影

柏 秀樹

バイクジャーナリスト/1954年山口県生まれ。大学院博士課程で作家片岡義男と出会い、バイクサウンドのLPレコードを製作。大学講師の道を外れてバイクジャーナリストへ。バイクでダカールラリー4回参戦ほか国際ラリーを楽しみながら新型車インプレなどの雑誌記事や単行本執筆。
ライディングテクニックの原稿依頼が多く、DVD5本他2003年からライディングスクールを開催。関西や東北・北海道への出張も多く、車の安全を含めた一般企業などの安全講習も精力的に行っている。
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