デリカ“テイスト”をふんだんに盛り込んだ「デリカミニ」。新型スーパーハイト軽ワゴンに迫る【三菱デリカミニとは?】

■三菱 デリカとミニの歴史/大成功したパジェロミニ

現行のデリカD:5
現行のデリカD:5

元々「デリカ」は三菱のバン、そしてトラックとして1960年代後半に生まれた商用モデルでした。

その後、デリカは1979年に乗用モデルのデリカスターワゴンを追加。一躍脚光を浴びたのは、1982年に追加された「4WD」で、当時のフォルテというトラックのシャシーを利用して製造されたモデルでした。

デリカスターワゴンは、1986年にフルモデルチェンジして2代目に移行。1994年にはデリカスペースギアに、2007年にはデリカD:5となり、現在に至ります。

三菱を代表するモデルとして、「パジェロ」を思い浮かべる人も多いでしょう。パジェロは1982年に登場、スターワゴンの4WD同様に、フォルテをベースとしたモデルでした。

当時、三菱はジープのライセンス製造も行っており、オフロード4WDに対する知見が豊富なこともあって、パジェロの性能は高く、すぐにヒットモデルとなりました。パジェロは1991年、1999年、2006年とモデルチェンジを行い、2021年にその歴史にピリオドを打ちます。

一世を風靡したパジェロミニ
一世を風靡したパジェロミニ

絶好調の売れ行きを誇った、2代目パジェロの時代。1994年には、パジェロの要素をふんだんに盛り込んだ軽クロスカントリー4WDの「パジェロミニ」が登場します。パジェロミニは専用プラットフォームを採用、高低の副変速機を備えた本格的パートタイム4WDシステムを採用したモデルで、高い人気を誇りました。

1998年にはフルモデルチェンジを受けて2代目に移行。2013年まで製造されました。

1995年にはパジェロミニにオーバーフェンダーを装着、1.1リットルエンジンを搭載した「パジェロジュニア」というモデルも追加され、パジェロ3兄弟として人気を博しました。

●三菱デリカミニの基本概要 パッケージング/eKクロススペースのビックマイナーチェンジなのでユーティリティはバツグンにいい

デリカミニ エクステリア
デリカミニ エクステリア

デリカミニの素性はというと、eKクロススペースのビッグマイナーチェンジ版ということになります。このためパッケージングについては、eKクロススペースと同様のものとなっています。

マイナーチェンジ前はeKクロススペースとなる
マイナーチェンジ前はeKクロススペースとなる

まず、基本のパッケージング。軽自動車なので、ボディサイズは全長×全幅が規格内に収まる3395×1475mm。全高はFFが1800mm、4WDが1830mm。最低地上高はFFが155mm、4WDが160mmです。

大きくスライドするリヤシート
大きくスライドするリヤシート

エンジンはフロントセクションに搭載。シート配列は軽自動車なので前席が2名、後席が2名の4名定員。室内長は2200mm、室内幅は1390mm、室内高は1400mmで、プレミアム系が1390mmとなります。

リヤシートは、左右独立して320mmスライドが可能で、荷室側からのスライド操作も可能なように後席側、荷室側の両方にレバーを装備しています。

ラゲッジルームの容量は定員時で118リットル、2名乗車では630リットルに拡大可能。デリカミニの4WDは、プロペラシャフトを用いた機械式4WDで、リヤサスペンションの形式もFFと4WDでは異なっていますが、ラゲッジルーム容量については駆動方式に関係なく同一。このあたりも、4WDモデルをスタンダードに考えてきたメーカーのノウハウが生かされた部分だと言えます。

●三菱デリカミニの基本概要 メカニズム/マイルドハイブリッドでFFと特有の4WD

Tグレードに搭載されるターボエンジン
Tグレードに搭載されるターボエンジン

デリカミニのメカニズムで基本的な部分は、eKクロススペースと同一で変更はありません。エンジンは自然吸気3気筒とターボ3気筒の2種。

自然吸気は最高出力が38kW(52ps)/6400rpm、最大トルクが60Nm(6.1kgm)/3600rpm。ターボは最高出力が47kW(64ps)/5600rpm、最大トルクが100Nm(10.2kgm)/2400~4000rpmとなります。

いずれもエンジン単体で使われるのではなく、最高出力2.0kW(2.7ps)/1200rpm、最大トルク40Nm(4.1kgm)/100rpmのモーターと組み合わされたマイルドハイブリッドとして使われます。

RISEと呼ばれるデリカミニに採用されているボディ
RISEと呼ばれるデリカミニに採用されているボディ

駆動方式は基本がFFで、4WDはビスカスカップリングを介して、プロペラシャフトで後輪に駆動力を伝達するスタンバイ方式を採用。4WDも、通常はFFとして前輪を駆動するものですが、そうしたときも、わずかに後輪に駆動トルクを配分し、安定性を高めています。完全FF状態がないので、完全なスタンバイ4WDではなく、フルタイム4WD的な要素を持ったスタンバイ4WDともいえるでしょう。

デリカミニの4WD概念図
デリカミニの4WD概念図

ミッションはCVTでギヤ比、最終減速比ともにeKクロススペースと変わりません。ただし、デリカミニの4WDモデルは、タイヤが165/60R15サイズと大径になっています。FF標準モデルは155/65R14サイズです。

計算上の両サイズの直径差は21.4mmなので、円周は約67.2mm長くなり、タイヤ1回転で67.2mm長く進むハイギヤードということになり、もっとも高いギヤ比で走行した場合、100km/h時のエンジン回転数は100回転ほどデリカミニ4WDが低くなります。

サスペンションはフロントがストラット、リヤはFFがトーションビーム、4WDは3リンク式です。

●三菱デリカミニのデザイン/アウトドア&オフロードを感じさせる力強いデザイン

デリカミニの正面スタイリング
デリカミニの正面スタイリング

もともと、eKクロススペースもSUV感を強調したデザインでしたが、デリカミニではさらにそれを進化させ、デリカに寄せたものとしています。

まず、フロント正面のスタイリングです。三菱車の特徴である左右に取り付けられたC形のガーニッシュ(eKクロススペースではメッキ)をJ形のつや消し黒のガーニッシュに変更。ヘッドライト真下にも水平のガーニッシュを配し、そこに「DELICA」のロゴを刻印しています。

さらに、その下の部分も水平な横バーガーニッシュとして力強さを演出。グリル面積は全体として縮小されました。バンパー内にはシルバーのアクセントパーツを装備。ヘッドライトはU字のデイタイムランニングライトを採用、デリカミニを象徴するものとなっています。

デリカミニの真横スタイリング
デリカミニの真横スタイリング

サイドビューで特徴的なのは、4WDモデルに採用した15インチタイヤ。デリカミニの決め手となったのが、この15インチタイヤだといっても過言ではありません。車名を変更したとはいえ、マイナーチェンジレベルでタイヤ径を変えるのは、非常に珍しいことです。

さらに、タイヤ径アップを際立たせるために、フェンダーにはアーチモール状に塗装が施されます。軽自動車でなければ、樹脂フェンダーの装着などが行われるところですが、全幅に制限のある軽自動車ではそれが不可能なので、この手法が採られています。ヘッドライト形状が変更になったことで、サイドスタイルでもヘッドライトの厚みが増していることが確認できます。

デリカミニの真後ろスタイリング
デリカミニの真後ろスタイリング

リヤスタイルでは、リヤウインドウ下のガーニッシュがつや消しメッキとなり、やはり「DELICA」のロゴが追加されています。また、フロントにはなかった「MINI」の文字も追加されています。リヤバンパーはブラックで、フロント同様、バンパー内につや消しシルバーのパーツが組み込まれ、アクセントとなっています。

インテリアの変更部分で、もっとも目を引くのがシートです。デリカミニのシートは、ダウンジャケットの風合いをモチーフとしたキルティング調のもの。標準モデルは合成皮革+ファブリックのはっ水シート生地、プレミアムは合成皮革+ファブリック+PVCシートバックのはっ水シート生地。

また、インパネ左右のカップホルダーを連結している横方向のパーツもオフホワイトに変更され、アクセントとなっています。

●三菱デリカミニの走り/リヤにも駆動トルクをわずかに配分することで安定した走りを確保

デリカミニの走り。ダート路でもグリップ感はしっかりとしている
デリカミニの走り。ダート路でもグリップ感はしっかりとしている

今回の試乗会は、千葉県のキャンプ場をベースとして行われました。まず、キャンプ場にアクセスする砂利道を走ってみると、リヤタイヤが駆動しクルマを押している感じを受けました。大径化されたタイヤと高めの車高は、砂利道でも安心感があります。

キャンプ場を出て一般道を走ると、しっかりした加速が味わえることがわかります。エンジンの出力は軽自動車の自主規制である64ps馬力ですが、トルクは100Nmもあり、そこへ40Nmのモーターが加わるのですから力強さは十分です。

タイヤが大径になっているので、オーバーオールでのギヤ比はハイギヤードで、eKクロススペースよりは穏やかな加速になっているはずですが、その影響を感じることはありませんでした。

車高が高いクルマですが、コーナーでの腰高感などはなく、安定したコーナリングです。ステアリングの切り始めからしっかりと向きを変えていきますが、動きが急でなく落ちついたフィーリングです。

MI-PILOTと呼ばれるACCを装備。高速移動はもちろん、渋滞路でも疲れ知らずで運転できる
MI-PILOTと呼ばれるACCを装備。高速移動はもちろん、渋滞路でも疲れ知らずで運転できる

高速道路へ入り、ACCを作動させます。速度調節、車間維持ともに良好です。車線維持時のため作動するのがブレーキなのですが、クルマの動きが急激にはならず、不快感がないのもいいところ。全車速対応なので、渋滞時に使えるのもうれしい部分です。

運転席での乗り心地、静粛性は軽自動車としては十分に稼げているといっていいでしょう。

今回はリヤシートに乗る機会もありました。リヤシートの乗り心地もよく、静粛性もまずまず。ただし、リヤシートはクッション、シートバックともに平板なため、座っていて若干ながら落ち着きません。リヤシートに1人で乗るなら、片側を前方にスライドさせると身体をあずけられるので、楽に乗れます。

発表会イベントでのキャンバー走行の模様
発表会イベントでのキャンバー走行の模様

試乗会よりも前に行われた発表会イベントにて、ローラーを使ったスタック脱出体験やモーグル走行、キャンバー走行なども体験しました。この際も、しっかりとしたグリップと脱出能力を体感。クロスカントリー性能の高さを実感しました。



●三菱デリカミニのラインアップと価格/エンジンは2種、グレードは標準とプレミアムの2種 すべてのグレードに4WDを設定

プレミアムグレードに装備となるハンズフリーオートスライドドア機能
プレミアムグレードに装備となるハンズフリーオートスライドドア機能

デリカミニは、ターボエンジンを積むモデルが「T」、自然吸気エンジンを積むモデルが「G」となります。標準タイプのほかに、上級の「プレミアム」を設定。プレミアムは装備が以下のようになります。

・ハンズフリーオートスライドドア機能追加(標準モデルは運転席側電動スライドドア[イージークローザー付])
・ステアリングヒーター
・マイパイロット(ACC、車線維持支援機能)
・樹脂ラゲッジボード&PVC後席シートバック
・撥水シート生地(合成皮革&ファブリック+PVCシートバック)
・助手席シートバックテーブル(コンビニエントフック付)
・デジタルルームミラー(マルチアラウンドモニター付)
・マルチアラウンドモニター(移動物検知機能付)
・電動パーキングブレーキ&ブレーキオートホールド
・リヤサーキュレーター(プラズマクラスター付)
・リヤロールサンシェード
※Tプレミアムのみ、アダプティブLEDヘッドライト[ALH](光軸自動調整機構付)をオプションで装着可能

タイヤは4WDモデルがすべて165/60R15サイズ。FFは標準モデルが155/65R14 、プレミアムが165/55R15となります。

プレミアムグレードに装備されるリヤサーキュレーター
プレミアムグレードに装備されるリヤサーキュレーター

■デリカミニ/バリエーション&価格
●660ccターボ
Tプレミアム FF 207万4600円
Tプレミアム 4WD 223万8500円
T FF 188万1000円
T 4WD 209万2200円
●660cc自然吸気
Gプレミアム FF 198万5500円
Gプレミアム 4WD 214万9400円
G FF 180万4000円
G 4WD 201万5200円

●三菱デリカミニのまとめ/アウトドアテイスト軽ハイトワゴンの決め手となるモデル

デリカミニのフロントスタイル
デリカミニのフロントスタイル

以前、スーパーハイトワゴンは、いかに自転車(それもママチャリ)が楽に積めるか?などを競っているようなジャンルとも評されました。

自転車が積めることを重要視した理由は、通勤や通学時、自転車で駅までいった家族が、突然の降雨やパンクなどで自転車を利用できなくなったときに対応できるため…と、スーパーハイトワゴンには実に生活に則したクルマとしての性格が与えられました。

デリカミニのリヤスタイル
デリカミニのリヤスタイル

しかし、そのユーティリティ性の高さはアウトドア派などに認められるようになり、各社はスーパーハイトワゴンにアウトドアテイストを与えたモデルを世に送り出してきたわけです。

こだわりにこだわって採用された大径タイヤ
こだわりにこだわって採用された大径タイヤ

そうしたなか、最後発ともいえるタイミングで登場したのがデリカミニです。デリカミニはekクロススペースのビッグマイナーチェンジ版ですが、デリカというビッグネームを使うため、さまざまなこだわりを持ちました。その1つが大径タイヤの採用です。タイヤサイズを変えると、さまざまな部分に影響が出るので、認証などをすべてやり直す必要が出てくるのですが、それでもあえて15インチタイヤを選びました。

デリカミニを象徴するヘッドライトデザイン
デリカミニを象徴するヘッドライトデザイン

そして、スタイリングにもデリカのテイストをふんだんに盛り込みました。クルマは全幅>全高の比率がスタイリッシュだと言われますが、スーパーハイトワゴンは全幅<全高の比率となります。

ところが、デリカは車高をアップして、全幅<全高にするようなドレスアップが流行っていたクルマなので、デリカミニが全幅<全高の比率でも何もおかしいことはなく、かえってデリカらしさが強調されるというアウトプットとなったのです。

かつて、ビジネスアイテムであったポケットベルや携帯電話が、生活に密着したアイテムとなり、やがては若者を中心にガジェット的なアイテムとなったように、軽ハイトワゴンも使えるクルマとして認知され、そしてより親しみやすく、使える性能をアップしたモデルとして進化。そのなかでもデリカミニは後発モデルということで、その魅力も大きなものとなっています。

(文・写真:諸星 陽一)

●デリカミニTプレミアム・4WD 〈 〉内はG・FF
主要諸元
・寸法
全長×全幅×全高(mm):3395×1475×1830〈1800〉
ホイールベース(mm):2495
トレッド 前/後(mm):1300/1290
車両重量(kg):1060〈970〉

・エンジン
タイプ:直列3気筒DOHCターボ〈直列3気筒DOHC自然吸気〉
総排気量(cc):659
最高出力(kW[ps]/rpm):47[64]/5600〈38[52]/6400〉
最大トルク(Nm/rpm):100/2400~4000〈60/3600〉

・モーター
タイプ:交流同期電動機
最高出力(kW/rpm):88/3206~13874〈135/5344~8851〉
最大トルク(Nm/rpm):260/0~3206〈290/0~4340〉
・リヤモーター
タイプ:交流同期電動機
最高出力:(kW[ps]/rpm):2.0[2.7]/1200
最大トルク(Nm/rpm):40/100
・走行用バッテリー
タイプ:リチウムイオン

・燃料消費率(WLTCモード、km /L):17.5〈20.9〉

・シャシー
サスペンション(F/R):ストラット/3リンク〈トーションビーム〉
タイヤサイズ:165/60R15〈155/65R14〉
ブレーキタイプ(F/R):ベンチレーテッドディスク/L&Tドラム

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この記事の著者

諸星陽一 近影

諸星陽一

1963年東京生まれ。23歳で自動車雑誌の編集部員となるが、その後すぐにフリーランスに転身。29歳より7年間、自費で富士フレッシュマンレース(サバンナRX-7・FC3Sクラス)に参戦。
乗って、感じて、撮って、書くことを基本に自分の意見や理想も大事にするが、読者の立場も十分に考慮した評価を行うことをモットーとする。理想の車生活は、2柱リフトのあるガレージに、ロータス時代のスーパー7かサバンナRX-7(FC3S)とPHV、シティコミューター的EVの3台を持つことだが…。
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