人とくるまのテクノロジー展で見つけた、未来の二輪につながる技術4選【バイクのコラム】

■完全停止まで可能な小型二輪向けAEBS

日立アステモが開発中の、小型二輪の衝突被害軽減ブレーキを実現するためのステレオカメラ。
日立アステモが開発中の、小型二輪の衝突被害軽減ブレーキを実現するためのステレオカメラ

毎年5月後半に開催されている「人とくるまのテクノロジー展 YOKOHAMA」(主催:公益社団法人 自動車技術会)が、2023年もパシフィコ横浜にて開催されました。

5月24日(水)~26日(金)の平日開催かつ、非常にマニアックな展示内容ながら、3日間でのべ6万3810名が来場したというのは大盛況といっていいでしょう。

自動車に関する企業が、自社の技術をアピールする場としておなじみの「人とくるまのテクノロジー展」ですが、2023年は技術者の交流によりイノベーションを生むきっかけとなることも目指しています。

このあたり、新型コロナウイルスが5類感染症に移行したことを意識しているのかもしれません。実際、会場内では多くのエンジニアが交流している様子も見ることができました。

さて、この連載は【バイクのコラム】です。主に四輪技術の展示会といえる「人とくるまのテクノロジー展」で目に留まった、二輪の未来につながるテクノロジーを紹介したいと思います。

日立アステモは、小型二輪でも衝突被害軽減ブレーキやブレーキアシストを実現する技術を有している。
日立アステモは、小型二輪でも衝突被害軽減ブレーキやブレーキアシストを実現する技術を有している

まず注目したいのは、先進技術と二輪テクノロジーの融合に強みをみせる日立アステモです。すでに欧州最大の二輪ショー「EICMA」で発表していた小型二輪向けのADAS(先進運転支援システム)のユニットを、人とくるまのテクノロジー展でも展示していました。

同社の前身のひとつである日立オートモティブシステムズが、長年にわたって実績を積み重ねてきたステレオカメラを二輪用に開発。そこにESC(スタビリティコントロール)システムを組み合わせることで、前方検知とブレーキ制御を組み合わせています。

つまり、四輪ではおなじみのAEBS(衝突被害軽減ブレーキ)をコミュータークラスの二輪にも搭載できるという技術展示というわけです。

完全停止までの制動を車体制御で行ったときの、二輪ならではの課題として、停止後の立ちごけというテーマもありますが、都市型コミューターの代表格といえるスクーターを想定すれば、足つき性が良好な傾向にあるので、AEBSでの停止時でもライダーが足をつくことで立ちごけを防ぎやすいといえます。

ステレオカメラによるAEBSの実績を鑑みれば、都市部における歩行者とのアクシデントを防ぐ効果は大いに予想できます。二輪の交通事故を減らす日本発のテクノロジーとして、世界に拡大することを期待したいと思います。

●四輪系サプライヤーも二輪用モーターを開発していた

ヴァレオのオリジナル48Vモーターへスワップされた電動バイク。バッテリーも交換されているという。
ヴァレオのオリジナル48Vモーターへスワップされた電動バイク。バッテリーも交換されているという

日立アステモは、前述した日立オートモティブシステムズのほか、ケーヒンやショーワ、日信工業といった二輪業界で実績あるサプライヤーが一緒になった企業ですから、二輪に強みを見せるのは当然という見方もできますが、四輪メインのサプライヤーも都市型モビリティとして小型二輪に注目しているようです。

例えば、フランス系メガサプライヤーとして知られるヴァレオは、2023年初のCES(ラスベガスで開催される電子機器の見本市)にて展示していた、独自の48Vモーターを搭載した原付二種クラスの電動二輪を、人とくるまのテクノロジー展でも展示していました。

125ccクラスとなる空冷式モーターの最高出力は9.5kW。電動化ニーズに対するヴァレオの回答のひとつだ。
125ccクラスとなる空冷式モーターの最高出力は9.5kW。電動化ニーズに対するヴァレオの回答のひとつだ

ヴァレオが48Vモーターを推しているのは、電動化モビリティとしては低めの電圧とすることで、コストを抑え、安全性を確保しようという狙いがあります。ローコストという特徴は、この手の小型モビリティとの相性がよいといえます。

四輪用の駆動モーターは水冷となっていることが多く、それはそれでモーターの性能を安定させる効果は期待できるのですが、ラジエターなどの冷却系が必要となるためコストは上がりますし、重量もかさんでしまいます。ヴァレオが小型モビリティ向けに空冷の48Vモーターを展開しているというのは理にかなっています。

ちなみに、この試作モデルに搭載されている空冷モーターの最高出力は9.5kW。日本のみならず、世界中で人気の原付二種スクーターとして知られるホンダPCXの、水冷エンジンの最高出力が9.2kWですから、パフォーマンスの面でも不満ないレベルに仕上がっているといえるでしょう。

●CVTのトップメーカーが生み出す電動自転車用ドライブユニット

四輪用トランスミッションで知られるジヤトコが開発中の電動自転車用ドライブユニットを搭載したサンプルモデル。
四輪用トランスミッションで知られるジヤトコが開発中の電動自転車用ドライブユニットを搭載したサンプルモデル

海外では、日本でいう原付クラスより小さな出力の電動モペットと呼ばれる小型バイクが注目されています。

すでに中華製の電動モペットは、独自ルートで日本に持ち込まれていたりします。それらは電動アシスト自転車と異なり、モーターだけで走行できるのが特徴です。

そのため、日本国内で乗るにはモーターの定格出力に応じたナンバーをつけないと公道走行NGなのですが、2023年7月から特定小型原動機付自転車の制度が始まると、モペットのようなモビリティも増えるのでは?という話もあったりします。

そうしたトレンドを先取りしているのが、ジヤトコの展示した電動自転車用ドライブユニットでしょう。

ジヤトコといえば、CVTのトップメーカーとして知られるトランスミッションメーカー。日産や三菱のCVTは、同社が供給しているほどの規模感です。

トランスミッション技術を活かし、モーターや変速装置を筐体の中に収めている。
トランスミッション技術を活かし、モーターや変速装置を筐体の中に収めている

そんなジヤトコですが、最近ではトランスミッションでの経験を活かして、モーター・インバーター・変速機が一体となったe-axle電動ユニットの開発にも注力しているのは知られているところ。今回の人とくるまのテクノロジー展でも、パソコンサイズの軽自動車用e-axleを展示していました。

電動ユニットのコンパクト化という流れを突き詰めると、電動自転車用ドライブユニットに行きつくといったことなのでしょうか。

それにしても、ホイール中心部の少し膨らんでいるように見える部分に、駆動モーターと変速機構が収まっているというのは驚きの技術です。今回の展示についても、既製品にジヤトコ製のドライブユニットを組み込んだという参考出品なのですが、はたしてジヤトコの名前で一般向けのモビリティが登場するようなことはあるのでしょうか。

●ヤマハの発電用エンジンに機能美を感じた

ヤマハ発動機が展示したレンジエクステンダーユニット。二輪の技術が感じられる3気筒エンジンは次世代燃料にも対応する。
ヤマハ発動機が展示したレンジエクステンダーユニット。二輪の技術が感じられる3気筒エンジンは次世代燃料にも対応する

既存の二輪メーカーにも、バイクの明るい未来を予感させる展示がありました。

特にピックアップしたいのは、ヤマハ発動機の展示していた「αlive RX (レンジエクステンダー)」ユニットです。レンジエクステンダーということは、発電機とそれを回すことに専念するエンジンの組み合わせというわけですが、想定出力88kWという3気筒エンジンは、バイクファンであれば見覚えがあるシルエット。

しかも、この3気筒エンジンは次世代の代替燃料にも対応するということです。その技術を応用すれば、スポーツバイクをe-fuel(カーボンニュートラルの人工燃料)で走らせることも可能といえそう。

すでに、ヤマハ発動機の他、ホンダ・スズキ・カワサキの4社が手を組んで、水素エンジンの開発を進めるという発表もされていますが、趣味性の強いスポーツバイクについては、エンジンが生き残る可能性も大いにあると感じさせるユニットです。

●二輪の安全を守るダミーターゲットはスポーツタイプ

二輪の安全を守るために欠かせないダミーは実物大のソフビといったもの。ABダイナミクス社のブースに展示されていた。
二輪の安全を守るために欠かせないダミーは実物大のソフビといったもの。ABダイナミクス社のブースに展示されていた

2023年の人とくるまのテクノロジー展では、カーボンニュートラルや自動運転といった四輪でのテクノロジートレンドは、二輪にも拡大していることが感じられました。

最後に、二輪を守る技術を育むアイテムを見つけたので紹介します。それが、ADASの開発時に使うスポーツバイクのダミーターゲットです。

こちらはADASの開発アイテムで知られる、ABダイナミクス社のブースに展示されていたもので、人型ダミーが乗った白いスポーツバイクは、複数のソフビを組み合わせたような構造となっています。ですから、誤って車両が接触しても車両を壊すようなことはありませんし、ターゲットについてもバラバラになったパーツを組み立てれば再利用できるようになっているのです。

このダミーターゲットは、四輪のADAS開発において対二輪の事故を想定したシーンで使われているということです。すなわち、四輪の各種センサーが、高速で走るスポーツバイクも検知して対応できるよう研究が進んでいることを意味しています。二輪を愛するライダーにとってはありがたい開発を推し進めているのが、このダミーターゲットなのです。

自動車コラムニスト・山本 晋也

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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