スーパーフォーミュラのレースをもっと楽しむための基礎知識。第4戦 オートポリスの「レース・フォーマット」

阿蘇山腹の斜面にタイトなコーナーが連なる難しいレイアウトに
マシン「SF23」の空力と脚のバランスを合わせ込めるのは誰だ?

スーパーフォーミュラのレース前セレモニーでは、予選でポールポジションを獲得したドライバー+マシンが、最後に全車の間を通って最前列へと歩みを進める。(写真:JRP)
スーパーフォーミュラのレース前セレモニーでは、予選でポールポジションを獲得したドライバー+マシンが最後に、スターティンググリッドに着いた他の全車の間を通って、最前列へと歩みを進める。(写真:JRP)

シーズンインからまだ2か月経たないというのに、日本のトップフォーミュラの2023年選手権シリーズは、早くも9戦中4戦目を迎えます。新たなエアロデザインをまとったニュー・バージョン、SF23は、前作SF19の経験値やこれまで蓄積してきた定石だけでは「速さ」と「強さ」の最適セッティングがなかなか見出せない、技術的な読み解きと「スポーツとしてのドライビング」のアジャストが、ちょっと難しいクルマであることが、ここまで3戦で浮かび上がってきました。

そして迎える今戦の舞台はオートポリス。阿蘇外輪山の北西斜面の、自然の地形をうまく活かしてレイアウトされたレーシングコース。これまでの富士スピードウェイ、鈴鹿サーキットという、国内でもよく知られた規模の大きなコースに比べると、ロングストレートや、「速度の二乗」に比例して増える強烈なダウンフォースでタイヤを押さえつけて旋回して行く高速コーナーはないけれども、逆にアップダウンや路面横断傾斜(カント)がさまざまに変化する中で、ある場所ではタイトに、また別の場所ではもう少し速いコーナリングスピードで深く回り込んでゆく、そうした様々なコーナーが、ドライバーとマシンの前に次々と現れる、そんなサーキットです。

市販車レベルで走るにはかなり難しくて、だからこそ楽しいコース。SFクラスのマシンになると「かなりタイト」で「忙しく」「追い越しの仕掛けが難しい」コースだと言えるでしょう。そしてもうひとつ、日本のサーキットの中でも「観る」のには、景色の良さはもちろん、観戦場所を選べば、広い斜面に広がるコースのほとんど全てを見渡して、そこここで演じられる「競争」シーンを次々に追っていくことができる舞台でもあります。ただし、「お天気が良ければ」という条件がつきますが。

この「レース・フォーマット」を準備している、週末に向けた金曜日も、午後半ばまでは雨が落ちていました。こういう天候だと、コース全体に霧がかかるのも、この地ではいつものこと。こちらの方々によれば「これは『霧』というよりも、『阿蘇山にかかった雲』の中にいるんです」とのことですが。なるほど。

でも時とともに雨も上がり、予選が行われる土曜日、決勝レースの日曜日ともに、まずまずの好天の中で走れるだろうという天気予想が出ています。土曜日朝、セッティングを確かめ、煮詰めるためのフリー走行90分間の始まりだけは、ウェットタイヤが必要になるかもしれませんが。

ここまでの3戦とはコースの”キャラクター”がガラリと変わるここオートポリスに向けて、ドライバーとエンジニアリング・スタッフが、SF23というマシンの存在をどこまで読み解き、そこからこのコースに合わせ込むクルマの基本セットアップと、そこから予選と決勝のそれぞれに車両の動きやタイヤの使い方を”適合”させるための選択肢を、どれだけ準備してきたか。それらを現場での挙動から調整するやり方を、どこまで掘り下げてきたか。そしてここでももちろん、「正解」に近づくのはどのチーム、どのエンジニア、どのドライバーか。それを見守る2日間です。

と書いたところで、「野尻智紀、体調不良により今戦、欠場」というニュースが飛び込んできました。「代打」は昨年チームメイトとして走っていた大津弘樹とのこと。

何はともあれ、この第3戦はどんな段取り・競技内容で進められるのか、を紹介しておきましょう。

■全日本スーパーフォーミュラ選手権・第4戦「レース・フォーマット」

●レース距離:191.634km (オートポリス インターナショナルレーシングコース 4.674km×41周)

オートポリス・インターナショナルレーシングコースのレイアウト。山麓斜面に形作られたサーキットなのがわかると思います。1コーナーから駆け下った先の2〜6コーナーまでが競り合いのポイント。後半の上り勾配・連続コーナーはドライビングのリズムと摩擦限界の感覚が求められる。(オートポリス)
オートポリス・インターナショナルレーシングコースのレイアウト。山麓斜面に形作られたサーキットなのがわかると思います。1コーナーから駆け下った先の2〜6コーナーまでが競り合いのポイント。後半の上り勾配・連続コーナーはドライビングのリズムと摩擦限界の感覚が求められる。(オートポリス)

(最大レース時間: 75分 中断時間を含む最大総レース時間: 120分)
*ちなみに、昨年・同地での第4戦よりも1周少ない。

●タイムスケジュール:5/20(土) 午後2時30分〜公式予選
5/21(日) 午後3時00分〜決勝レース
動画実況は、
J SPORTS オンデマンド:5/20(土) フリー走行 午前9時30分〜 予選 午後2時20分〜
5/21(日) フリー走行 午前9時55分〜 決勝 午後2時30分〜
J SPORTS BS:5/20(土) 予選 午後2時20分〜(J SPORTS 4)
5/21(日) 決勝 午後2時30分〜(J SPORTS 1)
ABEMA:決勝 午後2時30分〜

●予選:ノックアウト予選方式/Q1はA、B各組11車→各組上位6車・合計12車がQ2に進出
・公式予選Q1はA組10分間、5分間のインターバルを挟んでB組10分間。その終了から10分間のインターバルを挟んでQ2は7分間の走行
・公式予選Q1のグループ分けは…B組・”1”の「野尻智紀」が「大津弘樹」に替わります

スーパーフォーミュラ第4戦オートポリス・ノックアウト方式予選Q1のグループ分け(公式通知より)
スーパーフォーミュラ第4戦オートポリス・ノックアウト方式予選Q1のグループ分け(公式通知より)

・Q2進出を逸した車両は、Q1最速タイムを記録した組の7位が予選13位、もう一方の組の7位が予選14位、以降交互に予選順位が決定される
・Q2の結果順に予選1~12位が決定する

●タイヤ:横浜ゴム製ワンメイク ドライ1スペック:今季の仕様は骨格を形作るゴム層に天然素材を配合。ウエット(現状品は昨年までと同じ)1スペック
●決勝中のタイヤ交換義務:あり〜ただしドライ路面でのレースの場合
・スタート時に装着していた1セット(4本)から、異なる1セットに交換することが義務付けられる。
・先頭車両が10周目の第1セーフティカーラインに到達した時点から、先頭車両が最終周回に入る前までに実施すること。(オートポリスの第1SCラインは最終コーナーの曲線部が終わり、コース図面としては直線に移行した先に引かれた白線。左側の縁石の中間部でその外ではグラベルベッドの幅が縮小し始めている地点)
・タイヤ交換義務を完了せずにレース終了まで走行した車両は、失格。
・レースが赤旗で中断している中に行ったタイヤ交換は、タイヤ交換義務を消化したものとは見なされない。ただし、中断合図提示の前に第1SCラインを越えてピットロードに進入し、そこでタイヤ交換作業を行った場合はOK
・レースが(41周を完了して)終了する前に赤旗中断、そのまま終了となった場合、タイヤ交換義務を実施していなかったドライバーには競技結果に40秒加算
・決勝レースでウェットタイヤを装着した場合、タイヤ交換義務規定は適用されないが、決勝レース中にウェットタイヤが使用できるのは競技長が「WET宣言」を行なった時に限られる

●タイヤ交換義務を消化するためのピットストップについて
・ピットレーン速度制限:60km/h
・オートポリスのピットレーンに進入して速度制限区間が始まるのはシケイン状の入路の最初の左カーブを曲がったところ、左右の縁石が切り替わるところに引かれた線であり、出口側の速度制限解除はピットビル端のパドックとの通路の幅中央・ピットウォール端で、この区間の長さをGoogle Map上で測ると317mと短め。これを時速60kmで走行し、途中に停止・発進が入った走行時間の机上概算値はおよそ20秒。これにピットロード手前の減速と本コースに戻る加速のロスを加えた走行時間と、レーシングスピードでメインストレートを駆け抜けた場合との差、いわゆる「ピットインによるロスタイム」は24〜25秒ほどと推定される。これにピット作業のための静止時間、現状のタイヤ4輪交換だけであれば7〜8秒を加え、さらにコールド状態で装着、走り出したタイヤが温まって粘着状態になるまで、路面温度にもよるが1周弱で失うタイム、おおよそ1秒ほどを加えた最小で32秒、若干のマージンを見て32〜34秒ほどが、ピットストップに”消費”される時間となる。…ということは、ピットタイミングが異なる車両同士では、この時間差の中にいるか、もっと差が開いているかで、ピットストップ+タイヤ交換によってどちらが前に出るか、を推測することができるわけです。

レースの中でドライタイヤ4輪・1セットを交換するのは今のSF決勝の基本ルール。オートポリスのピットロード・作業エリアはSFが開催されているサーキットの中で唯一、この写真とは逆向きに、マシンの左側にピットボックス並ぶレイアウト。(写真:JRP)
レースの中でドライタイヤ4輪・1セットを交換するのは今のSF決勝の基本ルール。オートポリスのピットロード・作業エリアはSFが開催されているサーキットの中で唯一、この写真とは逆向きに、マシンの左側にピットボックス並ぶレイアウト(写真:JRP)

●タイヤ使用制限
●ドライ(スリック)タイヤ
・新品・3セット、持ち越し(シーズン前テスト〜ここまで3戦の間に供給されたセットの中から)・3セット
今戦ではまず金曜日のフリー走行で、開始時の路面状況によって、ウェットタイヤを履いて走り始めるか、1アタック相当品で出るかが変わりそうです。いずれにしても路面が乾いてきたら走行履歴のあるドライタイヤでセッティング確認、10周(45km)以上の走行でロングランの状態を確認、走行時間の最後に新品を投入して予選アタック・シミュレーション。予選にはQ1、Q2にそれぞれ新品投入。決勝スタートは新品。という使い方が基本になるはず。
●ウェットタイヤ:最大6セット
●走行前のタイヤ加熱:禁止
●決勝レース中の燃料補給:禁止
●燃料最大流量(燃料リストリクター):90kg/h(119.8L/h)
燃料リストリクター、すなわちあるエンジン回転速度から上になると燃料の流量上限が一定に保持される仕組みを使うと、その効果が発生する回転数から上では「出力一定」となる。出力は「トルク(回転力、すなわち燃焼圧力でクランクを回す力)×回転速度」なので、燃料リストリクター領域では回転上昇に反比例してトルクは低下していきます。一瞬一瞬にクルマを前に押す力は減少しつつ、それを積み重ねた「仕事量」、つまり一定の距離をフル加速するのにかかる時間、到達速度(最高速)が各車同じレベルにコントロールされる、ということになります。
●オーバーテイク・システム(OTS)
・最大燃料流量10kg/h増量(90kg/h→100kg/h)
・作動合計時間上限:決勝レース中に「200秒間」
・一度作動→オフにした瞬間からの作動不能時間(インターバルタイム)は、ここオートポリスでは昨年までと同じ「100秒間」、次の発動まで待たなければならなくなりました。これはレースペースで1周マイナス10秒ほど。つまりその前の周回にOTS作動を止めた地点の10秒前あたりからなら再発動できる、ということになります。
●OTS作動時は、エンジン回転7200rpmあたりで頭打ちになっていた「出力」、ドライバーの体感としてはトルク上昇による加速感が、まず8000rpmまで伸び、そこからエンジンの「力」が11%上乗せされたまま加速が続く。ドライバーが体感するこの「力」はすなわちエンジン・トルク(回転力)であって、上(燃料リストリクター作動=流量が一定にコントロールされる領域)は、トルクが10%強増え、そのまま回転上限までの「出力一定」状態が燃料増量分=11%だけ維持されますので、概算で出力が60ps近く増える状態になリます。すなわちその回転域から落ちない速度・ギアポジションでは、コーナーでの脱出加速から最終到達速度まで、この出力増分が加速のための「駆動力」に上乗せされるわけです。
⚫︎ステアリングホイール上のボタンを押して作動開始、もう一度押して作動停止。
⚫︎ロールバー前面の作動表示LEDは当初、緑色。残り作動時間20秒からは赤色。残り時間がなくなると消灯。
⚫︎一度作動させたらその後100秒間は作動しない。この状態にある時は、ロールバー前面のLED表示は「遅い点滅」。なお、エンジンが止まっていると緑赤交互点滅。また予選中に「アタックしている」ことをドライバーが周囲に知らせたい場合、このLEDを点滅させる「Qライト」が使えます。
●今季に向けた大きな変更は、OTS作動時にロールバー前面と、車両後端のレインライトとリアウィング翼端板後縁のLEDを点滅させていたのが廃止されたこと。前後のドライバーがそれぞれに接近戦を展開している相手がOTSを使ったのを視認できたので、対抗してOTSを作動させ、結局ポジションが変動しない、という状況が多く生まれたために、「目で見て知る」ことができないようにしました。
●ということは観る側もOTS作動をLED点滅で確かめることができなくなる。ここは、全車のオンボード映像と車両走行状態をほぼリアルタイムで視聴することができるアプリ、「SFgo」なら”見る”ことができます。運転操作などと合わせて、OTSの作動、残り時間、インターバルタイムの経過が、表示されるので。さらに今季からはドライバーとチームの無線交信も聞けます。ここまで踏み込んでの観戦には「必須」のツールと言えるでしょう。チームもこのアプリを駆使するようになっていますので、「○○、OTS撃ってるよ」「残り秒数は?」といった無線交信が増えることと思われます。

これらを踏まえつつ、タイトコーナーが続きつつ、それぞれに走るリズムを変えつつ組み立てることが求められるおもしろいサーキット、オートポリスを舞台に、SF23×22台が繰り広げる2日間の濃密な自動車競争を、リアルでも、オンラインでも楽しんで下さい!

フリー走行では、ピットロード出口に設定された「スタート練習」ゾーンに、クラッチミートを確認、ECU設定を行うべくマシンの行列ができる。(写真:JRP)
フリー走行では、ピットロード出口に設定された「スタート練習」ゾーンに、クラッチミートを確認、ECU設定を行うべくマシンの行列ができる(写真:JRP)

(文:両角 岳彦/写真:JRP、筆者)

この記事の著者

両角岳彦 近影

両角岳彦

自動車・科学技術評論家。1951年長野県松本市生まれ。日本大学大学院・理工学研究科・機械工学専攻・修士課程修了。研究室時代から『モーターファン』誌ロードテストの実験を担当し、同誌編集部に就職。
独立後、フリーの取材記者、自動車評価者、編集者、評論家として活動、物理や工学に基づく理論的な原稿には定評がある。著書に『ハイブリッドカーは本当にエコなのか?』(宝島社新書)、『図解 自動車のテクノロジー』(三栄)など多数。
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