■住宅街のど真ん中に出現する鉄橋
JR東日本中央線の西荻窪〜吉祥寺間に、河川も大きな道路もないのに鉄橋があるのをご存じですか?
この場所を含めた中央線の荻窪〜三鷹間は高架線となっています。高架線自体も高架橋という橋の一種ですが、単純な構造で安価で連続的に建設することができるのが特徴です。
一方、川や大きな道路を渡る場合には、強度を高めて橋桁間のスパンを長くすることができる鉄橋(橋梁)を採用するのが一般的です。なお、道路を渡る橋梁は架道橋と呼ばれています。西荻窪〜吉祥寺間でも井の頭通りを渡る場所はスパンの長い架道橋が架けられています。
この井の頭通りの架道橋から西荻窪駅側へ約300mの場所にあるのが、今回のテーマとなる鉄橋です。この鉄橋の下には道路も川もなく、駐車場となっています。
この鉄橋の謎を解くカギは橋桁と橋台にあります。鉄橋の橋桁には塗装を行った際に塗装年月・塗装回数・塗装種別及塗料名・塗装会社の他、橋梁名・位置・支間(スパン)が書き込まれているからです。また、橋台にも橋梁名などが記された銘板があります。
これらによると、橋梁名は「外郭環状架道橋」となっています。つまり、この鉄橋は外環を渡るために設置された鉄橋ということになります。
「外殻環状道路」というのは、現在の東京外かく環状道路のことで、高速道路の東京外環自動車道と一般道の総称となっています。計画された区間は、東京都大田区から埼玉県を経て千葉県市川市に至る約85km。現在、高速道路の部分は大泉インターチェンジ(IC)〜高谷ジャンクション(JCT)までが開通。並行する一般道の部分も開通しています。
未開通の大田区〜大泉ICまでの区間のうち、東名JCT〜大泉IC間は大深度地下トンネルで着工しました。しかし、2020年10月に調布市の住宅街で陥没事故が発生して工事を中断。2022年12月から大泉IC側からの掘削工事を再開している状況です。
「大深度地下ならば鉄橋はいらないのでは?」と思った方も多いでしょう。実は、外環道高速道路部の東名JCT〜大泉IC間は1966年に高架方式で都市計画が決定されていました。大深度地下方式に都市計画を変更したのは2007年のことです。一方、中央本線の外環道交差部分が高架化に際して、橋台の設置に着手したのは1965年3月20日で、これは外環道の都市計画が決定する直前でした。
中央線の高架化工事が始まった頃には、外環道の高速道路部が高架化されることは分かっていたと思われますが、並行する一般道路部は引き続き地上に整備される事になっていたので、橋梁名は外郭環状架道橋のままだったのだと思われます。
現在開通している外環道の一般道部は国道298号線ですが、東名JCT〜大泉IC間の一般道路部は東京都市計画道路幹線街路外郭環状線その2と称されていて、いわゆる都道として計画されています。つまり、国家事業である高速道路部と都道の一般道路部は事業主体が異なることになります。
2007年に高速道路部の大深度地下化が決定したため、国にとってはインターチェンジ部等を除いて用地買収が不要となりました。一方、都道としての外環その2の都市計画はまだ存在していて、開通させるためには東京都が用地を買収する必要があります。
そのような状況の中、2015年1月25日に西武鉄道池袋線・石神井公園〜大泉学園間が高架化されました。この区間には外環その2と交差する場所があり、そこには「外環その2架道橋」がかけられています。
東京都は2014年11月に西武池袋線の高架化を前提として、外環その2の都市計画を変更しました。この場所を含めた外環その2の新青梅街道〜大泉IC間は事業化されているので、いずれ西武池袋線の下を外環その2が通過することになります。
一方、中央線の外郭環状架道橋がある部分については反対意見も根強く、事業化されていません。
この付近を南北に走る大きな一般道が開通すれば便利になることは確かですが、東側約1.5kmを並行して走る環八・笹目通りに加え、西へ3km程を並行する伏見通りも開通しているので、無理に外環その2を通す必要はないかもしれません。
中央線の「外郭環状架道橋」が本来の役割を果たす日は来ないかもしれません。
(ぬまっち)