「水素カローラ」は気体から液体燃料へ。世界初の試みは富士24時間レースでデビュー!【スーパー耐久2023】

■液体水素を「つくる、はこぶ、つかう」3社がその概要を説明

2023年3月18日(土)・19日(日)に鈴鹿サーキットで開催されたENEOS スーパー耐久シリーズ2023 Powered by Hankook 第1戦「SUZUKA S耐」。この中で、予選日の18日(土)にトヨタ、川崎重工、岩谷産業の3社による、サーキットレースにおける液体水素に関しての説明をする記者会見が行われました。

トヨタ自動車 佐藤恒治執行役員、川崎重工 橋本康彦社長、岩谷産業 間島寛社長
トヨタ自動車 佐藤恒治執行役員、川崎重工 橋本康彦社長、岩谷産業 間島寛社長

TOYOTA GAZOO RACINGとROOKIE Racingは、2023年も開発車両で参戦可能なスーパー耐久 ST-Qクラスに水素エンジンカローラを投入。水素エンジンカローラは、2021年のデビューから2年間は圧縮気体水素を燃料として走行していましたが、2023年より液体水素での参戦をするとしています。

本来であれば、開幕戦の鈴鹿から液体水素で参戦予定でしたが、3月8日のテスト時に車両火災が発生したために、車両準備が間に合わず開幕戦の参戦を断念しています(車両火災の原因などはコチラの記事をご参照ください)。

トヨタ自動車 佐藤恒治執行役員
トヨタ自動車 佐藤恒治執行役員

トヨタ自動車の佐藤恒治執行役員(次期社長)は、5月の富士24時間レースに液体水素カローラをデビューさせるとのこと。

スーパー耐久で利用する液体水素は、川崎重工がオーストラリアから液体水素専用船の「すいそふろんてぃあ」で日本へ運んできたものを利用し、岩谷産業が液体水素を充填する設備やサービスを担当。

川崎重工 橋本康彦社長
川崎重工 橋本康彦社長

液体水素は圧縮気体水素と比較すると、同じ容量の容器であれば、液化により4倍も充填可能。また液体水素供給設備は、圧縮水素で必要な圧縮装置や冷却装置が必要ないため、省スペース化というメッリトがあります。

そのため、これまでの圧縮気体水素では、ピット以外の場所で充てん作業を行ってからピットに入り、ドライバーチェンジやタイヤ交換などを行ってきましたが、液体水素となればピットガレージとピットのバックヤードに供給設備を置くことが可能で、ピットでの水素充填作業が行われます。それにより、ピット作業時間の大幅な短縮も見込めます。

岩谷産業の液体水素供給設備(富士スピードウェイで撮影)
岩谷産業の液体水素供給設備(富士スピードウェイで撮影)

当然、燃料タンクも液体水素用となっていますので、圧縮気体水素に比べれば充填量は大幅に増えていきます。なお、水素カローラは富士24時間で航続距離2倍を目指すとのこと。

供給設備からクルマまで-253℃で保たれる液体水素
供給設備からクルマまで-253度で保たれる液体水素(富士スピードウェイで撮影)

液体水素を取り扱う上で最も大きな課題は温度です。水素を液化させるためには-253度という極低温な環境が必要で、この温度を保ちながらの充てんにはかなりの技術やノウハウが必要。

この液体水素の充てんを担う岩谷産業は、種子島などで打ち上げられる、国産ロケットの燃料などの液体水素も扱っており、液体水素にかけてはパイオニアと言える存在です。

岩谷産業 間島寛社長
岩谷産業 間島寛社長

●水素エンジンをカーボンニュートラルの選択肢へ

水素を「つくる・はこぶ・つかう」というサプライチェーンを、サーキットの中で構築する3社の取り組みは、今後の水素エネルギーのインフラ構築へと大きく発展していくことであると確信します。

ピット内に置かれた液体水素供給設備の一部
ピット内に置かれた液体水素供給設備の一部(富士スピードウェイで撮影)

トヨタ自動車の佐藤執行取締役(次期社長)は、「水素の使用量を増やすことがとても重要ですが、自動車産業だけで考えられる問題ではない。また、インフラの影響力は非常に大きく、“つくる”“はこぶ”の進化がなければ、“つかう”の需要も増えていかないという構造だ。だから、総合的に水素社会に向けた環境構築が大切である。水素エンジンについては、2021年までは選択肢になっていなかったので、今の段階では水素エンジンを選択肢にしていくことが目標である」と語ります。

水素カローラに貼られた液体水素マーク
水素カローラに貼られた液体水素マーク

水素エンジンカローラは、世界初の液体水素燃料を使って走るレーシングカーとして富士24時間レースから登場します。

開幕戦鈴鹿ではお預けとなってしまった世界初の試みは、いよいよ富士24時間レースから始まっていきます。スーパー耐久シリーズがこの開発の舞台となるのです。

YouTubeでも配信されるスーパー耐久シリーズですが、この歴史的瞬間はぜひ、富士スピードウェイでご覧いただきたいと思います。

(写真・文:松永 和浩

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この記事の著者

松永 和浩 近影

松永 和浩

1966年丙午生まれ。東京都出身。大学では教育学部なのに電機関連会社で電気工事の現場監督や電気自動車用充電インフラの開発などを担当する会社員から紆余曲折を経て、自動車メディアでライターやフォトグラファーとして活動することになって現在に至ります。
3年に2台のペースで中古車を買い替える中古車マニア。中古車をいかに安く手に入れ、手間をかけずに長く乗るかということばかり考えています。
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