ターンパイク下りでトラックの「緊急退避所」突入現場に井出有治が遭遇!ブレーキが効かなくなるフェード現象、ベーパーロックとは?その対策は?

■「緊急退避所」ってなに? 何のためにあるの?

●井出有治が遭遇した「緊急退避所 使用中」を、「見たことない」「使ったことない」人ほぼ99.8%w(クリッカーやすの調べ)

緊急退避所
緊急退避所に突っ込んでしまったトラックに井出有治が遭遇!

2022年11月下旬、元F1ドライバーでクリッカーの試乗テストドライバーをお願いしている井出有治さんは、とあるイベント参加のため、自動車雑誌撮影御用達「アネスト岩田ターンパイク箱根」の頂上「大観山展望台・アネスト岩田スカイラウンジ」へ。

イベントも終わり、さぁ愛娘の元へ帰ろう♪と、愛車でターンパイクを下っていきました。

と、そのとき!

今まで見たことのない風景が目に入ってきました。それは…。

「緊急退避所」に突っ込んでいるトラックでした。

「緊急退避所」とは『緊急の場合に退避する場所』。ま、文字通りなので分かりやすいですね。

緊急退避所
緊急退避所。イヤですね、ココに突っ込むのは…

しかし、その緊急を要する場合とはどんな時のことを言うのでしょうか。トイレの我慢、これもまぁ緊急っちゃ~緊急ではありますけど、この「緊急退避所」を使う場合の“緊急”に当てはめてはいけません。

そう、その緊急とは『ブレーキが効かない場合!』 が正解です。

緊急退避所
緊急退避所の案内看板。最近はあまり見かけないけど

峠の下り坂の途中にあり、ブレーキが効かなくなった場合に緊急回避としてソコに突っ込んで止まるのが、緊急退避所の正しい使用方法。突っ込んだ先は上り勾配になっていて、砂利や砂が敷き詰めてあります。まさに砂地獄、サーキットのサンドトラップと同じような感じです。

緊急退避所
緊急退避所の砂・砂利は固くなっていそう(触ったことないけど)なので、クルマへのダメージも大きそう

しかし、ソコに突っ込んだらクルマにもダメージを食らい、乗員はムチ打ち症状などが出るかもだし、もしかしたらその衝撃からエアバッグが開くかもしれません(なんせやったことないので分かりません)。緊急退避所は、使わなくていいなら、やっぱり使いたくはないですよね。

●ブレーキが効かない「フェード現象」や「ベーパーロック」ってなに?

ブレーキペダル
新型プリウスのブレーキペダル。試乗した清水和夫さんによると「配置もいい」そうです

この「緊急退避所」、今ではブレーキ性能自体が上がったことであまり使用されることが無くなり、「絶滅危惧種」的に言われているようです。

しかし今回、実際に使用されているところに遭遇したことを考えると、今後も必要なもの、ブレーキが効かない場合の危険回避『最後の砦』とも言えるでしょう。

では、なぜブレーキが効かないなんていう『危険が危ない』ことが起こってしまうのでしょうか。主にふたつの理由があります。

【フェード現象】

フェード現象とは、たとえば長い下り坂において、スピードを落とすためにブレーキペダルを多用していると、ブレーキローターやブレーキパッド(※ディスクブレーキの場合。ドラム式ならシュー)が過熱、摩擦材がガス化してこれらの間に入り込み、摩擦力が低下。そして、ペダルを踏んでもブレーキが効かなくなることをフェード現象といいます。

【ベーパーロック】

ディスクブレーキにしても、ドラムブレーキにしても、ブレーキペダルへ入力された力は、途中の経路は様々ありますが、最終的に油圧によって摩擦材を金属等に押し付けて摩擦力を発生させます。この油圧を伝える油がブレーキフルードです。しかし、フェード現象と同じくブレーキを多用すると大きな熱を発生してブレーキフルードが沸騰してしまい、フルード(油)の中に気泡が発生。すると、液体に比べて圧倒的に圧縮される気体が混入することでフルードの油圧が伝わらずにフワフワなペダル感覚になり、ブレーキが効かない。これがベーパーロック。

GT-R GT3のブレーキ
レーシングカーのブレーキはデカいし放熱性もいいし、なにより踏みっぱなしではない(スーパーGT GT300 GT-R GT3のブレーキ)

ブレーキを多用する、サーキット走行の後によく見かける「エア抜き」。これが、ベーパーロック状態になったブレーキフルードの中の気泡を取り除く作業です。まぁ、沸騰してしまったブレーキフルードは全交換が理想なんですけどね。

●峠の下りでフットブレーキ多用は厳禁! エンジンブレーキや回生ブレーキを使え!!

緊急退避所
峠の下りには、ブレーキ注意の看板が設置されている場所が多い

じゃ、峠の下りで安全な速度まで減速するには、ブレーキペダルを踏まなきゃ減速はしない…ことはないですよね。教習所でも散々教わった「エンジンブレーキ」を使うのが正解です。

昔のクルマ(昭和~平成初期)には、AT(オートマチック)車の場合、シフトレバーの側面辺りに「オーバードライブ(O/D)」っていうスイッチがありました。コレ、峠道などを走る時に「OFF」にすることで、上のギヤにシフトアップしなくなる(エンジンブレーキがより効く)よう使っていたんですが、最近のクルマはATが多段化されたことでO/Dスイッチは見かけなくなりましたよね。

アルピーヌA110
アルピーヌA110はパドルシフト付き

ということで、MT(マニュアルミッション)なら1~2速分のシフトダウン、ATならDの-(マイナス)や、回生ブレーキ付きなら回生容量を上げる、パドルシフトがあるならパドルを引いてシフトダウンしてエンジンブレーキを使って峠を下る!です。

プリウスなどトヨタのハイブリッド車はシフトレバーでB(ブレーキ)レンジを選択することができます。

日産GT-R
シフトダウンし、エンジンブレーキを多用せよ!(画像は日産GT-R)

あとは、日頃のメンテナンスでブレーキフルードの量や劣化具合、パッドの残量、ローターの減り具合や傷などをチェックすることも大切です。

この、井出有治さんが遭遇した緊急退避所に突っ込んでしまったトラックは、ドライバーさんにインタビューしていないので分かりませんが、多分、フェード現象やベーパーロックが起こった可能性、大。

最近のクルマはブレーキ性能が上がっているとはいえ、油断は大敵。旧車乗りや重量級のクルマならなおさら、下り坂でのブレーキ多用には要注意です!

永光 やすの/画像:井出 有治/クリッカー編集部)

この記事の著者

永光やすの 近影

永光やすの

「ジェミニZZ/Rに乗る女」としてOPTION誌取材を受けたのをきっかけに、1987年より10年ほど編集部に在籍、Dai稲田の世話役となる。1992年式BNR32 GT-Rを購入後、「OPT女帝やすのGT-R日記」と題しステップアップ~ゴマメも含めレポート。
Rのローン終了後、フリーライターに転向。AMKREAD DRAGオフィシャルレポートや、頭文字D・湾岸MidNight・ナニワトモアレ等、講談社系車漫画のガイドブックを執筆。clicccarでは1981年から続くOPTION誌バックナンバーを紹介する「PlayBack the OPTION」、清水和夫・大井貴之・井出有治さんのアシスト等を担当。
続きを見る
閉じる