フィアット500Xと同じプラットフォームを使い3列シートを実現したプレミアムSUV【ジープ・コマンダーとは?】

■ジープ・コマンダーとは/コンパスの上に位置する3列シートモデル

初代コマンダーフロント
初代コマンダーのフロントスタイル

ジープのラインアップにコマンダーの名を冠したモデルが登場したのは、2005年のニューヨークオートショーでのこと。

ジープは誰もが知るメジャーブランドですが、そのブランドを有する企業は幾度となく変わってきたという数奇な運命を持つブランドでもあるのです。

当時のジープブランドはダイムラー・クライスラーが有していました。初代ジープ・コマンダーは、当時のジープ・グランドチェロキーのプラットフォームを用いて作られたモデルで、若干グランドチェロキーよりも大きなボディが与えられていました。ラインアップのなかでの役割もグランドチェロキーよりも上で、ジープブランドのフラッグシップという位置付け。

初代コマンダーリヤスタイル
初代コマンダーのリヤスタイル

シートは前から2-3-2名の7名定員となっていました。搭載されたエンジンはV6の3.7リットル、V8の4.7リットル、V8の5.7リットルの3種で、日本仕様にはV8-4.7リットルを除く2種が搭載されました。なかでもV8-5.7リットルはHEMIと呼ばれるクライスラーが誇るハイパフォーマンスユニットでした。

ダイムラー・クライスラーは2007年にクライスラー関連部門を投資会社に売却。2009年にクライスラーは倒産します。ほぼ時は同じく2010年でコマンダーはその歴史にいったん幕を閉じます。

その後、クライスラーはフィアットと提携、のちに合併しFCAとなります。FCAはその後、フランスのPSAやドイツのオペルとも合併し、2021年にステランティスとなりました。

現行となる2代目コマンダーは、ステランティスになってからのモデルです。現在のジープブランドのフラッグシップモデルはグランドチェロキーです。コマンダーは初代のようにフラッグシップとして投入されたわけではなく、ジープブランドのもう一つの車種、コンパスの上に位置するモデルとして役割が持たされました。

●ジープ・コマンダーの基本概要 パッケージング/スモールワイド4×4アーキテクチャ最大のボディ

コマンダーフロントスタイル
コマンダーのフロントスタイル

コマンダーのプラットフォームはスモールワイド4×4アーキテクチャと呼ばれるもので、ジープ系のプラットフォームとしては最小となります。スモールワイド4×4アーキテクチャが使われている車種は、ジープブランドのコンパスやレネゲード、フィアットブランドの500Xなどとなります。

コマンダーのボディサイズは全長×全幅×全高が4770×1860×1730(mm)で、レネゲードの4225×1805×1695(mm)やコンパスの4220×1810×1640(mm)、フィアット500Xの4280×1795×1610(mm)と比べると明らかに大きいことがわかります。

ホイールベースにいたっては、コンパスが2635mm、フィアット500Xとレネゲードが2570mmなのに対し、コマンダーは2780mmと圧倒的に長い設定です。

それもそのはず、コマンダーは初代同様に3列シートモデルなのです。ジープブランドではグランドチェロキーLも3列シートで、こちらのホイールベースは3090mmにもなります。グランドチェロキーLはジープブランド最上位の3列シートモデルですが、コマンダーはブラジルやインドといった新興国をメインマーケットとするモデルなのでスモールワイド4×4アーキテクチャを使い3列シートを成立させたのです。

●ジープ・コマンダーの基本概要 メカニズム/日本にはディーゼルターボのみを導入

2リットルの直4ディーゼルターボ
2リットル4気筒ディーゼルターボエンジンは横向きに搭載される

ジープコマンダーには1.3リットルの直4ガソリンターボと2リットルの直4ディーゼルターボの2種のエンジンが設定されていますが、日本に輸入されるのは2リットルの直4ディーゼルターボのみです。

日本にジープのディーゼルモデルが正規輸入されるのは初の出来事です。ただし三菱が製造していたジープにはディーゼルモデルが存在しています。

2リットルディーゼルターボは170馬力/350Nmのスペックで、最大トルクは1750回転〜2250回転と低回転から発生するセッティングとなっています。排ガスの清浄化は尿素SCRを用いる後処理方式となるので、定期的なアドブルーの補充が必要となります。

コマンダー ATセレクター
ATセレクターはフロア配置。4WDロックスイッチ、トランスファーによる4WD-LOWモード、ヒルディセントコントロールなども装備

組み合わされるミッションは9速のATで、駆動方式はジープアクティブドライブと呼ばれるものでFFをベースに必要なトルクを後輪へと伝達するオンデマンド4WD。セレクテレインシステムと呼ばれる走行モード切替機構を装備し、オート、スノー、サンド/マッドの3種からチョイス可能となっています。

スモールワイド4×4アーキテクチャを使うコンパスやレネゲード、フィアット500Xは前後ともにストラットのサスペンションを採用していますが、コマンダーはリヤサスがマルチリンクとなります。

●ジープ・コマンダーのデザイン/ジープらしく近代的なデザインを採用

水平なボンネットにボックス型のキャビンを組み合わせたシルエットは、上級モデルであるグランドチェロキーに共通性を感じるもの。さらに振り返ればかつて存在したグランドワゴニアというプレミアムモデルからの流れも組み入れられています。

コマンダーグリル
ジープ伝統の7スロットグリルを採用するコマンダーのグリル

ジープ伝統の7スロットグリルを採用したフロントスタイルや、台形にデザインされたフェンダーアーチなどはどこから見てもジープそのもの。それでいて高さを抑え細長としたうえでヘッドライトと一体化したグリルやシーケンシャル式ターンシグナルランプなど現代的な要素も取り込まれ、新世代のジープであることを感じられるものとなっています。

コマンダーシートディテール
上級感にあふれるコマンダーのシート

インテリアはプレミア感あふれるもの。シートにはレザーが使われ、サイドサポートには菱形のダイヤモンドキルティング加工が、フロントシートのヘッドレストには“JEEP”のロゴがあしらわれます。試乗車のインテリアカラーはブラウンでしたが、ブラックのインテリアカラーも用意され、ボディカラーによって組み合わせが決まります。

●ジープ・コマンダーの走り/若干の突き上げ感も許容範囲内

コマンダー走り
トルク感あふれるエンジンフィールは乗りやすい。乗り心地はスモールワイド4×4アーキテクチャとは思えないよさ

ディーゼルターボエンジンは低速からしっかりとトルクを発生してくれるので、コマンダーの重いボディを難なく走らせてくれます。日本には輸入されていませんが、このボディを1.3リットルのガソリンターボで走らせるのはちょっと酷ではないかなと勘ぐってしまいました。

駆動方式はオンデマンド4WDで、前輪駆動で走りながら必要に応じリヤへ駆動力を配分していますが、一般道&舗装路という組み合わせの試乗であったため、その変化を感じるのは難しいものでした。

走行モードについてもオート以外はスノーとサンド&マッドの2種なので、条件が合わず試すことができていません。しかし、今までジープの車種で駆動配分に大きな不満を感じることはなかったので、心配はなさそうです。

若干突き上げ感が大きく、荒さの残る乗り心地ですが、コンパスやフィアット500Xと同じスモールワイド4×4アーキテクチャを使っていると思えばよくできたものという印象。これはリヤサスペンションをマルチリンクとした恩恵なのでしょう。ホイールベースが長くなっているのも乗り心地向上に役立っているはずです。

コマンダー 走行モード切替機構
走行モードはオート、スノー、サンド&マッドの切り替えが可能

ホイールベースの延長は同時にボディサイズを大きくしたことと通じています。このボディサイズさすがに日本では大きいです。試乗会は横浜のみなとみらいで行われたので、道路を走っている限りは4770mmの全長、1860mmの全幅というサイズはさほど気になりませんでしたが、ベースとなったホテル駐車場内での取り回しはかなり気をつかいました。

一方でホイールベースを延長したからこそ3列シート化が可能になったわけです。3列目のシートは意外と広めで、子供専用という雰囲気はなく、ちょっと我慢すれば大人でも長距離移動もできるでしょう。

●ジープ・コマンダーのラインアップと価格/モノグレード展開で約600万円

ジープコマンダーフロントスタイル2
オフロードとのスタイルマッチングはもちろんいい

ジープ・コマンダーはリミテッドのモノグレード構成で価格は597万円となっています。サンルーフが+16万円、パールコート塗装が+5万5000円です。

3列シートSUVではマツダCX-8の最上級が約470万円とかなり価格差を感じますが、三菱アウトランダーPHVは570万円強、ランドクルーザーが730万円と同じジャンルでもかなり価格帯が広く、そう考えると競争力は十分にあるでしょう。

コマンダーインパネ
操作系はセンターコンソールより下に配置し、ダッシュパネルはスッキリしたデザインとなっている

アダプティブ・クルーズ・コントロールは車線中央を維持するタイプで、ターンシグナルランプの操作に連動する車線変更も可能。縦列、並列のどちらにも対応するステアリング操作不要なパーキングアシストも装備されるなど、装備面の充実度はかなり高いものとなっています。

●ジープ・コマンダーのまとめ/いずれはチェロキーになる可能性もある

コマンダーリヤスタイル
コマンダーのリヤスタイリング

ジープには大きく2つのラインがあります。1つはラングラーに代表されるヘビーデューティなライン、もうひとつがグランドチェロキーに代表されるラグジュアリーなラインです。

ジープがヘビーデューティなラインから始まったのは言うまでもありませんが、終戦後ジープの民生化が進むとともにラグジュアリー路線は強化されているので、どちらも長い歴史を持ちます。

コマンダーはそうした流れのなかでラグジュアリー路線に属するモデルといえるでしょう。日本ではチェロキーがジープのラインアップから消えていて、現在コマンダーはチェロキーが抜けた部分を補完する役目を果たしています。

チェロキーという名前は、ネイティブアメリカンの種族に由来するため、チェロキーという名称の使用を中止しようという動きがステランティス内部にもあります。そうなると、本格的にチェロキーの代替えがコマンダーになる可能性も捨てきれません。現在、コマンダーは新興国+日本というマーケットですが、今後はワールドワイドなモデルに変わる可能性もあります。

コマンダータイヤ
試乗車のタイヤはブリヂストンのオフロードタイヤブランド、デューラーが装着されていた

ボディの大きさが気になるコマンダーですが、道路が広い地域でそれを許容できれば日本でも十分に使えるモデルです。ホイールベースが長いディーゼルモデルは長距離移動にはピッタリのモデル。長距離移動が多い、高い4WD性能が欲しいという方との親和性はかなり高くなるでしょう。

(文/写真:諸星陽一)

●ジープ・コマンダーリミテッド主要諸元
・寸法
 全長×全幅×全高(mm):4770×1860 ×1730
  ホイールベース(mm):2730
 トレッド フロント/リア(mm):1580/1590
・エンジン 排気量(cc):1956
 圧縮比:-
 最高出力( kW〈ps〉/rpm):125〈170〉/3750  最大トルク(Nm〈kgm〉/rpm):350〈35.7〉/1750-2500  燃料タイプ:軽油
 燃料タンク容量(L):60
・フロント電気駆動モーター 最高出力(kW(ps) /rpm):134(182)/-
 最大トルク(Nm〈kgm〉/rpm):270〈27.5〉/-
・トランスミッション:電子制御式9速オートマチック
・ドライブトレイン:オンデマンド4WD
・燃料消費率(WLTC km/L):13.9
・シャシー サスペンション(F/R):ストラット/マルチリンク
 タイヤサイズ:235/55R18
 ブレーキタイプ(F/R):ベンチレーテッドディスク/ディスク

この記事の著者

諸星陽一 近影

諸星陽一

1963年東京生まれ。23歳で自動車雑誌の編集部員となるが、その後すぐにフリーランスに転身。29歳より7年間、自費で富士フレッシュマンレース(サバンナRX-7・FC3Sクラス)に参戦。
乗って、感じて、撮って、書くことを基本に自分の意見や理想も大事にするが、読者の立場も十分に考慮した評価を行うことをモットーとする。理想の車生活は、2柱リフトのあるガレージに、ロータス時代のスーパー7かサバンナRX-7(FC3S)とPHV、シティコミューター的EVの3台を持つことだが…。
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