ヤマハ発動機が新興国の市場開拓で大切にしてきた「現場第一主義」のビジネスとは?

■コロナ禍でデジタルコミュニケーションを活用しつつも、現場第一主義の価値を改めて見直す

ヤマハ発動機の広報グループが発信している「ニュースレター」。今回のテーマは、グローバル企業において不可欠といえる新興国市場の開拓について、同社の歴史やポリシーが紹介されています。

ヤマハ発動機のアフリカでの事業活動は、約60年前の1960年代初頭から開始されています。ODA(政府開発援助)による製品供給をきっかけとして、各国のパートナーとの協働により、地域の課題解決につながる「現場第一主義」のビジネスが展開されてきました。

ヤマハ発動機 ニュースレター
待望のカリブ初出張で、現地パートナーとともに当社製品の試乗会を企画・運営した梅津さん(右から2番目)

現場主義を掲げるのは、各地域や市場により異なる本質的な課題とニーズを見極めるためだそう。持続可能で、かつ実効性の高い活動に結びつけていくために、ニーズを掘り下げる必要があります。

たとえば、生活を潤すモノや産業に役立つ設備があっても、機能や価値を持続していくためには、補修部品や確かな技術サービスが欠かせません。さらに、活用、運用のノウハウなども必須になります。

具体的には、同社の中で、アフリカ諸国をはじめとする新興国、途上国の事業を担う海外市場開拓事業部(通称・オムド OMDO)では、環境の異なる各市場に、時間をかけて強固な供給網やサービス体制が構築されてきました。また、地域の産業振興にも注力され、たとえば漁業分野では、日本の沿岸漁業を範とした漁法や加工、保存方法の指導が行われるなど、独自性の高い地道なアプローチで市場に根を張ってきました。

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産業振興もOMDOの特徴的なアプローチの一つ。
写真は日本の沿岸漁業のノウハウを伝えたタブロイド紙(1970~90年代に発行)

なお、こうした活動がドキュメンタリー番組などで紹介され、また日本首脳の外交スピーチなどでも取り上げられたことから、「この事業部で汗を流したい」という強い希望を持って入社してくる若者も少なくないとのこと。

同事業部でカリブ地域の営業を担当する梅津太一さんも、「現場主義の仕事で国際貢献したい」と入社した好例といえるでしょう。OMDOに配属され、営業マンとして独り立ちした頃、コロナ禍による渡航停止という事態に。「まだ、市場の理解も十分ではなく、現場に行けない日々がもどかしかった」と振り返ります。

そこで、梅津さんが、同僚たちとともに「なんとか市場とのパイプを保ちたい」と起ち上げたのが、販売代理店などの現地パートナーとの情報交換サイト。オンラインで製品説明やサービスの技術講習を積極的に開くことで、市場との絆の維持に注力してきたとのことです。

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梅津さんらが起ち上げた専用サイトでは、オンラインの講習会などが開かれている

そして、部分的に渡航が解禁され、カリブ市場への初出張が実現したのは、2022年8月で、「オンライン会議を重ねてきたので、初めて会う取引先とも事前にある程度、関係が築けていましたが、自分の足で調査したからこその発見もありました」と出張の手応え、意義を改めて感じているそうです。

「苦肉の策のデジタルコミュニケーションでしたが、その一方で有効な手段となることも実感しました。今後はコンテンツをさらに充実させながら、市場現場への訪問と組み合わせて、新しいスタイルの現場第一主義を築いていきたい」と梅津さんは、続けています。ヤマハ発動機の「現場第一主義」のビジネスは、現在まで脈々と受け継がれています。

(塚田勝弘)

この記事の著者

塚田勝弘 近影

塚田勝弘

1997年3月 ステーションワゴン誌『アクティブビークル』、ミニバン専門誌『ミニバンFREX』の各編集部で編集に携わる。主にワゴン、ミニバン、SUVなどの新車記事を担当。2003年1月『ゲットナビ』編集部の乗り物記事担当。
車、カー用品、自転車などを担当。2005年4月独立し、フリーライター、エディターとして活動中。一般誌、自動車誌、WEB媒体などでミニバン、SUVの新車記事、ミニバンやSUVを使った「楽しみ方の提案」などの取材、執筆、編集を行っている。
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