今でも新車で買える2ストバイク、ヤマハ「YZ125X」と「YZ250X」でオジさんライダーがオフロードに挑戦

■オフロード競技用の2スト新型2機種を試乗

今ではすっかり姿を消した「2スト」バイク、いわゆる2ストロークエンジンを搭載した市販バイク。

ヤマハのオフロード専用2ストマシンYZ125Xと250X試乗
YZ125X(左)とYZ250X(右)

ところが、オフロード競技用ではありますが、今でも2ストのバイクは新車で買えることをご存じですか? しかも、なんとモデルチェンジも施された2023年の最新モデルが発売されたのです。

それが、ヤマハの「YZ125X」と「250X」。近年、日本でも密かなブームとなっているクロスカントリー競技用マシンで、124cc・2ストローク単気筒エンジンを搭載する入門向けモデルが「YZ125X」、より上級向けが249cc・2ストローク単気筒エンジンを搭載する「250X」です。

約10年前、2ストの125cc市販オフロード競技用マシンに乗っていた筆者にとって、最近の2ストオフ車はどんな乗り味なのか興味津々。

ヤマハのメディア向け試乗会で、実際に体験してきたので、早速レポートしましょう。

●2ストのバイクとは?

レシプロエンジンの一種で、ピストンが1回転する毎に燃焼をするのが2ストロークエンジンです。

軽くてパワーも出せる2ストロークエンジンは、特に250ccまでの中・小排気量バイクには最適。1980年代のレーサーレプリカ・ブームなどで一斉を風靡し、当時は、オンロードモデルからオフロード車、原付スクーターに至るまで、さまざまなモデルに搭載されていました。

ヤマハのオフロード専用2ストマシンYZ125Xと250X試乗
YZ250Xの2ストエンジン(カットモデル)

ところが、近年は、年々厳しくなる排気ガス規制に対応できず、2ストの市販車はほぼ消滅。今のように4ストロークエンジン搭載車に変わっていったのです。

最近は、平成生まれなど若い世代のライダーも増えてきましたが、そうした世代では、2ストバイクに乗ったことがない、もしくは存在すら知らない人もかなり多いといいます。

当時を知る筆者を含めたベテランライダーの中には、2スト独特の排気サウンドなどがいまだに忘れられず、寂しい思いをしている人も多いでしょう。

●クロスカントリーとはどんな競技?

現代の2ストバイクって、どんな乗り味なのだろう? しかも、久しぶりのオフロード走行、ちゃんと乗れるのかな?

ヤマハのオフロード専用2ストマシンYZ125Xと250X試乗
クロスカントリー競技向けに最適化されたYZ250X

そんな期待と不安を抱きながら、試乗会場となった宮城県のスポーツランドSUGOへ到着。試乗は、SUGOの敷地内にあるインターナショナルモトクロスコースと、付近の山林に作られたクロスカントリー特設コースで行われました。

今回試乗するのは、前述の通り、クロスカントリー競技用マシンの「YZ125X」と「YZ250X」。ちなみに、クロスカントリーとは、夏場のスキー場や山野に作られたクローズドの専用コースをバイクで走り抜ける競技です。

オフロードのレースでは、モトクロスも有名ですが、こちらは人工的に造成されたコースをいかに速く走るかを競う競技。一方、クロスカントリーは、自然をできるだけ活かし、山林のかなり入り組んだ地形を走ることが特徴です。

コースには、立木が並ぶ林道や、大きな岩や石がゴロゴロとあるガレ場、車輪がはまると抜け出すのが大変なヌタヌタの泥道、強烈な傾斜の登り坂などがあり、走行はかなりハード。ビギナーなら無転倒というわけにはいかない難所の連続を、規定時間内で何周走れるかを競うレースです。

ヤマハのオフロード専用2ストマシンYZ125Xと250X試乗
急な登り坂などハードなコースを走るのがクロスカントリー(マシンはYZ125X)

元々は、北米などで人気だった競技ですが、近年は日本でも密かなブームを呼んでいて、1回の大会で200台以上のエントリーがあるレースもざら。アマチュアのオフロードバイク愛好家の多くが、今回紹介するヤマハの市販レーサーなどを駆って参加し、その腕を競い合っているのです。

ちなみに、似たようなオフロードレースには、エンデューロもありますが、こちらもクロスカントリーの一種。比較的フラットなオフロードコースを使うのが特徴で、2時間や3時間、6時間など長時間を、2名など複数人数で走るいわば耐久レースです。

●YZ125Xは車体の軽さが驚異的

前置きが長くなりましたが、早速試乗してみましょう。まずは、入門向けモデルの「YZ125X」。

ヤマハのオフロード専用2ストマシンYZ125Xと250X試乗
YZ125Xのフロントビュー

同じ124cc・2ストローク単気筒エンジンを搭載し、2022年にフルモデルチェンジを受けたモトクロス競技用の「YZ125」をベースに、クロスカントリー向けのモディファイが施された2023年モデルです。

またがってまず感じたのが、非常に車体が軽いこと。それもそのはず、車両重量は96kg。原付二種のスクーターでも、100kgを超えるモデルも多いですから、かなりの軽量であることが分かります。

エンジンの始動はキックスタート式。2ストバイクのエンジン始動では、キックペダルを踏み下ろしながらアクセルを開ける必要がありますが、このマシンは始動性がかなりよく、キックペダルも非常に軽いため、とても楽。コツさえつかめば、1回のキックで軽々とエンジンが掛かります。

ヤマハのオフロード専用2ストマシンYZ125Xと250X試乗
YZ125Xの2ストエンジン(カットモデル)

そして、124cc単気筒エンジンがチャンバー(2ストマシンの排気マフラー)を通して奏でるエキゾーストノートは、まさに2ストマシンそのもの。ギヤをニュートラルに入れてアクセルをあおると、独特の乾いたサウンドを発し、それを聞くだけで気分がぐんと高揚します。

●オジさんライダーにも優しい124cc・単気筒

ギアを1速に入れて、ソロソロとスタート。徐々にアクセルを開けながらコースに入ります。

筆者は、前述の通り、10年ぶりのオフロード走行。緊張していることと、初めてのコースに慣れないことで、なかなかアクセルを開けられませんが、驚いたのは、124ccの小排気量マシンながら、低速トルクも十分にあること。回転をあまり上げずに登り坂を登っても、しっかりとマシンが進んでくれます。

ヤマハのオフロード専用2ストマシンYZ125Xと250X試乗
YZ125Xは倒し込みも軽快

これは、2023年モデルのYZ125Xは、日本のクロスカントリー競技向けに最適化が施され、低中回転域での扱い易さを徹底的に追求した効果でしょう。

シリンダーヘッド、CDIユニットなどには専用パーツを使用。また、2ストエンジンには、4ストロークマシンのエンジンのような吸排気バルブがありませんが、このマシンにはヤマハ独自の「YPVS(ヤマハパワーバルブシステム)」を装備しています。

YPVSとは、シリンダーの排気ポート部に設けたバルブのことで、エンジン回転数に連動させてバルブをスライドさせ開閉することで、燃焼ガスの排気タイミングを変える機構です。

一般的に、2ストエンジンでは、排気タイミングが早いほど高速・高出力型特性となり、タイミングを遅くすると低速・高トルク型の特性となります。

ヤマハのオフロード専用2ストマシンYZ125Xと250X試乗
YZ125Xの2ストエンジン

つまり、アクセルをあまり開けない時はバルブがさほど開かず、排気タイミングを遅くすることで、低速・高トルク型の特性を出し、アクセルを開けるとバルブが開いて、高速・高出力型の特性としているのです。

しかも、YZ125Xでは、ベースとなったモトクロス競技用のYZ125用から、YPVSのバルブ形状を変更。アクセル全開時間が長いモトクロス競技と違い、低速で走ることも多いクロスカントリー競技用に、アクセルが比較的閉じている時でも粘りあるトルクが出るような特性にしているそうです。

●軽い車体でコーナーも軽快なYZ125X

走行中は、やはり車体が軽いため、コーナーでの倒し込みも軽快。このマシンは、北米やインドネシアなど海外でも販売されていますが、サスペンションは日本専用セッティングとなっているそうで、しかもYZシリーズで最も柔らかいスプリングを使っているのだとか。

ヤマハのオフロード専用2ストマシンYZ125Xと250X試乗
日本専用セッティングのサスペンションは安定性も抜群(マシンはYZ125X)

そのおかげか、乗り心地もかなりよく、それでいて路面のギャップなどを通過した際も、サスがしっかりと衝撃を吸収してくれるため、安定感も抜群でした。

ちなみに、YZ125Xは、前後ブレーキの効きも抜群です。特に、フロントブレーキは、低速でギュッとレバーを握ったら、情けないかな立ちゴケしてしまったほど。入門用とはいえ、やはりレーサーですから、初心者や筆者のようなオフロードのリターンライダーは、ちょっと慣れが必要のようです。

ヤマハのオフロード専用2ストマシンYZ125Xと250X試乗
久々のオフロード走行に四苦八苦する筆者(マシンはYZ125X)

でも、転んだ後にバイクを起こす時も、軽い車体のため、さほど力がいらなかったのも好印象。筆者のような50代後半のオジさんライダーでも、とっても扱いやすいマシンでした。

●実はYZ250Xの方が扱いやすい?

一方のYZ250X。2023年モデルでは、マイナーチェンジを受けたことで、2022年モデルのモトクロス競技用マシン「YZ250」の基本性能を継承しながらも、YPVS、前後サスペンションなどのセッティングをクロスカントリー向けに最適化したことがポイントです。

ヤマハのオフロード専用2ストマシンYZ125Xと250X試乗
YZ250Xのフロントビュー

こちらは、より上級者向けで、YZ125Xよりもパワフルなマシン。ところが、あくまで筆者の個人的意見ですが、実際に乗ってみると、YZ250Xの方が扱いやすい印象がありました。

その理由は、エンジンの低速トルクがより太いこと。YZ125Xでも、低速トルクはかなりあって、扱いやすいのですが、それでも急な登り坂などでは、半クラッチを使って回転数を上げないと、エンジンがストールしそうになるシーンがありました。

その点、より排気量が大きいYZ250Xは、さらに低速トルクが豊かで粘りがあるため、急な坂でも比較的楽に登ることができます。筆者のようにアクセルをあまり開けられないライダーでも、一応はコースを走ることができる懐の深さを感じます。

余談ですが、クロスカントリー競技によく参加している知人の話では、上級者でも125ccの2ストロークマシンをあえて選ぶライダーもいるそうです。

ヤマハのオフロード専用2ストマシンYZ125Xと250X試乗
YZ250Xのエンジン

理由は、250ccマシンなどと比べるとパワーがない分、半クラッチをうまく使うなど、ハイレベルな走りで、よりテクニックを要求されるため。自らの技術を磨くために、あえて排気量の小さいマシンを選ぶのだそうです。クロスカントリーって奧が深いんですね。

●オジさんでも楽に乗れる最新2ストマシン

そして、フラットなコースで、アクセルをグンっと開けてみると、エンジンの回転数がみるみる上昇し、胸がすくような心地よい加速感を味わえます。

ヤマハのオフロード専用2ストマシンYZ125Xと250X試乗
高回転域の伸びが快感のYZ250X

ちなみに、YZ250XやYZ125Xでは、モトクロス競技用マシンのYZ250やYZ125と同様に、後方ストレート吸気も採用。サイドカバー後方から直線的に外気を導入するダクトレイアウトにより、高回転域での力強い伸び感を実現しています。

YZ250Xの車体も、YZ125Xほどではありませんが、かなりスリムでコンパクトなため、コーナーなどの倒し込みも楽です。車両重量も111kgと、YZ125Xより15kg重い程度。250ccマシンとしてはかなりの軽さですから、タイトターンなどでの旋回性や取り回しもかなり良好でした。

ただし、排気量が大きい分、エンジン始動時はちょっと苦労します。始動方式はやはりキックスタート式ですが、キックペダルを踏み下ろすときにYZ125Xと比べると少し重く感じるのです。

そのため、もし走行中に転倒したりエンストしてしまうと、再スタートの際にはキックにより力が必要で、実際のレースでは疲労に繫がりやすいでしょう。そういう点でいえば、初心者にはYZ125Xの方がいいかもしれませんね。

ヤマハのオフロード専用2ストマシンYZ125Xと250X試乗
軽い車体でジャンプも楽々こなすYZ125X

ともあれ、久々のオフロードと久々の2ストマシンは、かなり楽しかったのは確かです。その昔、2ストのオフロードマシンといえば、悪路で跳ねる車体を抑えながら、半クラッチを多様し高回転をキープしてギンギンに走るイメージがありました。

ところが、最新の2ストマシンは、意外に低回転域でも走ってくれ、オジさんでもある程度楽に乗れることにビックリです。

技術の進歩ってすごいですね。ちょっと欲しくなってしまったのは、ここだけの話です。

ちなみに、これら2モデルの価格(税込)は、YZ125Xが74万8000円、YZ250Xが79万2000円。

「ヤマハオフロードコンペティションモデル正規取扱店」で、2022年9月13日(火)から12月25日(日)までの期間限定で予約受付中です(いずれも発売日は2022年10月31日)。

(文:平塚 直樹、写真:小林 和久)

この記事の著者

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平塚 直樹

自動車系の出版社3社を渡り歩き、流れ流れて今に至る「漂流」系フリーライター。実は、クリッカー運営母体の三栄にも在籍経験があり、10年前のクリッカー「創刊」時は、ちょっとエロい(?)カスタムカー雑誌の編集長をやっておりました。
現在は、WEBメディアをメインに紙媒体を少々、車選びやお役立ち情報、自動運転などの最新テクノロジーなどを中心に執筆しています。元々好きなバイクや最近気になるドローンなどにも進出中!
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