ヤマハは、なぜ公道を走れないオフロード競技用車「YZシリーズ」を12機種も揃えるのか?

■上級者からキッズまで対応するYZシリーズ人気の秘密とは?

ヤマハ発動機(以下、ヤマハ)が、2022年9月に2023年モデルを発表した「YZシリーズ」。

ヤマハのオフロード競技用YZシリーズ2023モデル考察
クロスカントリー向けYZ250FXなど豊富なラインアップを揃えるヤマハのYZシリーズ

モトクロスやクロスカントリーなど、オフロード競技専用に開発された市販バイクたちで、トップライダーからキッズまで、幅広いユーザー向けのマシンを揃えます。

これらオフロード競技用バイクは、クローズドの未舗装路で高い走破性を持つことが一番の魅力ですが、基本的に公道は走れません。そのため、セールス的にみれば、公道走行可能なバイクと比べて販売台数がさほど多くないことが想像できます。

なのにヤマハは、なぜ国内メーカー最大といえる全12機種ものラインアップを販売しているのでしょう?

ここでは、YZシリーズの最新モデルを紹介しながら、ヤマハ製オフロード競技専用バイクがなぜ種類が多いのか? また、どんな魅力があるのかなどについて検証してみます。

●オフロード競技用バイクとは?

オフロード競技用バイクは、公道を走れる市販オフロード車と比べると、大きく違う点がいくつかあります。

一番の違いは、ヘッドライトやウインカー、ブレーキランプなど、公道走行に必要な保安部品が付いていないこと。また、スピードメーターやタコメーターもありませんので、走行中の速度やエンジン回転数なども分からないのが一般的です。

ヤマハのオフロード競技用YZシリーズ2023モデル考察
オフロード競技用マシンには、保安部品やメーターなどがない(写真はYZ250FX)

こうした仕様にしている理由は、公道走行を想定していないためです。レースで勝つためや、オフロードで高い走破性を実現するために、できるだけ無駄な部品は省き、車体を軽くすることなどが主な目的だといえます。

その分、たとえば、エンジンなども、オフロードのレースなどに求められる低中速域での吹け上がりの良さを追求しており、ギヤが1〜2速でアクセルをガバっと開けると、簡単に前輪が浮き上がりウイリーするほどです。

また、前後サスペンションも、たとえば、高く飛び上がったジャンプからの着地でしっかり車体が踏んばるために、ストローク量を多くし、硬めのセッティングになっていることが一般的です。

ヤマハのオフロード競技用YZシリーズ2023モデル考察
YZ450Fのリヤサスペンション

その分、乗り心地などは、市販オフロード車のように快適ではありませんし、足着き性もあまり考えられていません。あくまでも、オフロードの走行やレースに特化した設定になっているのです。

●ステップアップに応じたラインアップ構成

そんなオフロード競技用バイクを揃えるのがヤマハのYZシリーズで、以下のようなラインアップがあります。

【モトクロス競技用モデル】
・YZ450F (4ストローク) 115万5000円
・YZ250F (4ストローク) 91万3000円〜92万4000円
・YZ250 (2ストローク) 78万1000円
・YZ125 (2ストローク) 73万7000円〜74万8000円
・YZ85LW (2ストローク) 57万2000円
・YZ85 (2ストローク) 56万1000円
・YZ65 (2ストローク) 49万5000円

【クロスカントリー競技用モデル】
・YZ450FX (4ストローク) 112万2000円
・YZ250FX (4ストローク) 97万9000円
・YZ250X (2ストローク) 79万2000円
・YZ125X (2ストローク) 74万8000円

【キッズ向けファンバイク】
・PW50 (2ストローク) 22万円

モトクロスとは、大きなジャンプやフープス(またはウォッシュボード)と呼ばれるコブが連続するセクションなどがある、未舗装路に作られた周回コースを豪快に走り、スピードを競う2輪レースです。

ヤマハのオフロード競技用YZシリーズ2023モデル考察
ヤマハのオフロード競技用バイクの最高峰YZ450F

それに対応するのがモトクロス競技用モデルで、排気量別に65cc〜450ccのマシンが用意されています。

65ccや85ccのマシンは主に小学生などのキッズ向けで、それからスキル向上や体の成長などに応じ、125cc、250cc、450ccとステップアップしていけるようになっています。

なかでも、最大排気量449cc・4ストローク単気筒エンジンを搭載する「YZ450F」は、アメリカで最も権威があるAMAスーパークロス/モトクロスなどで数々のタイトルを獲得しているシリーズのフラッグシップモデル。

今回発売された2023年モデルでは、5年ぶりのフルモデルチェンジを受け、エンジンやフレームを刷新したほか、よりスリムでコンパクトなボディを採用するなど、各部がアップデートされています。

●クロスカントリーやキッズ向けモデルも用意

クロスカントリーとは、自然にある山林の入り組んだ地形を走る競技。夏場のスキー場などでおこなわれることが多く、立木が並ぶ林道、岩や石などがゴロゴロとあるガレ場、車輪がはまると抜け出すのが大変な泥道、強烈な傾斜の坂道などがあるコースを、規定時間内で何周走れるかを競うレースです。

ヤマハのオフロード競技用YZシリーズ2023モデル考察
ヤマハのクロスカントリー競技向けモデルのYZ250FX

そうした競技に対応するのがクロスカントリー競技用モデルで、こちらも排気量別に125cc〜450ccモデルを用意します。

ちなみに、このカテゴリーのマシンたちは、基本的にモトクロス競技用モデルをベースに、クロスカントリー向けのモディファイをされているのも特徴です。

高速走行やアクセルを全開にする時間が長いモトクロス競技に対し、クロスカントリーでは、倒木を越えたり、ガレ場を走る際などに低速走行もあるため、より低中速トルクがあるエンジン特性にしたり、サスペンションの設定を柔らかめにするなどのセッティングが施されています。

ヤマハのオフロード競技用YZシリーズ2023モデル考察
ヤマハ・PW50

さらに、ラインアップには、キッズ向けファンバイク「PW50」も用意。これは、体重25kg以下の子ども向けオフロード入門モデルで、初代から40年以上続くロングセラーバイクです。

スロットルを回すだけの簡単操作で走るオートマチックエンジンや、メンテナンス負荷の少ないシャフトドライブを採用しているなどの特徴があります。

●2ストロークモデルが多いのもYZの特徴

このように、ヤマハのYZシリーズは、豊富なラインアップを誇っています。なお、ほかの国内メーカーが市販しているモトクロス競技用モデルは

・ホンダ:8機種
・カワサキ:11機種
・スズキ:3機種

ですから、12機種のヤマハが最大です。

ヤマハのオフロード競技用YZシリーズ2023モデル考察
YZ250Xの2ストロークエンジン

さらに、かつて一世風靡したものの、排気ガス規制の影響で今ではほとんど市販車がなくなった2ストロークエンジン搭載モデルを7機種も揃えるのもヤマハだけ(国内の他メーカーではカワサキが65cc〜112ccの小排気量モデル4機種に設定)。

特に、かつてオフロード競技用バイクで主流だった125ccや250ccの2ストマシンは、ほかの国内メーカーには現在存在せず、ヤマハだけが設定。筆者のような昔を知るオジさんライダーには、懐かしさや今でも乗れるうれしさなどを感じさせてくれます。

軽量でパワーも出せる2ストロークエンジン、通称2ストは、マシンをコンパクトにできるなどのメリットがあり、特に250ccまでのオフロード競技用マシンには最適です。構造がシンプルなため、アマチュアライダーでもメンテナンスや整備がしやすいといったメリットがあります。

ヤマハのオフロード競技用YZシリーズ2023モデル考察
YZ85をベースにフロント19インチ、リヤ16インチの大径ホイールを装着したYZ85LW

ヤマハのオフロード競技用マシンは、トップライダーから休日にレースなどを楽しみたいエンジョイライダーまで、幅広いニーズに対応しているのも特徴。

そうしたコンセプトにマッチさせるため、あえて2ストロークモデルも数多く用意しているのでしょうね。

●海外でも人気が高いオフロード競技用マシン

ヤマハがオフロード競技用マシンを充実させている背景には、これらが日本だけでなく、アメリカやインドネシアなど、海外でも販売されているグローバルモデルであることも挙げられます。

ヤマハのオフロード競技用YZシリーズ2023モデル考察
ヤマハ・YZ125X

特に、広大な大地を持つアメリカは、昔からオフロードバイクの競技が盛んな国です。前述のAMAスーパークロス/モトクロスといった最高峰レースを筆頭に、モトクロスやクロスカントリーなど、アマチュアライダーが参加するサンデーレースなども数多く開催されています。

また、中西部などでは、自宅から見渡す限りの荒野や山がすべて個人所有の土地といった場所も多く存在します。そんな土地に住むオフロードバイク愛好家の中には、家の裏山や所有するフラットなダートを、オフロード競技用マシンで楽しんでいる人も多くいるのです。

ちなみに、筆者は、ヤマハが宮城県のスポーツランドSUGOにあるモトクロスコースなどで開催したYZシリーズ試乗会に参加しましたが、2023年型の「YZ125X」は、日本のユーザーを主として開発したそうです。

124cc・2ストローク単気筒エンジンを搭載するYZ125Xは、クロスカントリー競技の入門用モデルというポジション。新型は、2022年にフルモデルチェンジを受けたモトクロス競技用の「YZ125」をベースに、クロスカントリー向けのモディファイが施されているのが特徴です。

ヤマハのオフロード競技用YZシリーズ2023モデル考察
日本のエントリーユーザー向けに開発されたYZ125Xは、軽快な走りが魅力

エンジンは、低中回転域での扱い易さを徹底的に追求。また、前後サスペンションは、特にデビューライダーにとっての扱い易さを重視した減衰特性などにより、安定性をより高めているといいます。

ヤマハの開発者によれば、元々YZ125Xは、日本ユーザー向けに開発したモデルで、その味付けが実はアメリカやインドネシアなどでも好評なのだとか。

そこで、新型の2023年モデルもそれを継承し、日本ユーザー目線で開発。それをほぼ変えずに海外でも販売するのだそうです。

ヤマハのオフロード競技用YZシリーズ2023モデル考察
2023年型のYZ125X&YZ250Xと開発スタッフ

技術はもちろん、ライダーからのフィードバックによる味付けなども日本が発祥となり、世界に評価される。ヤマハのオフロード競技用マシンが、ワールドワイドに人気を得ている秘密には、そうした開発コンセプトも大きな要因なのかもしれませんね。

なお、ヤマハのYZシリーズ2023年モデルは、「ヤマハオフロードコンペティションモデル正規取扱店」で、2022年9月13日(火)から12月25日(日)までの期間限定で予約受付中。2022年10月31日から順次発売されます。

(文:平塚 直樹、写真:ヤマハ発動機、小林 和久)

この記事の著者

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平塚 直樹

自動車系の出版社3社を渡り歩き、流れ流れて今に至る「漂流」系フリーライター。実は、クリッカー運営母体の三栄にも在籍経験があり、10年前のクリッカー「創刊」時は、ちょっとエロい(?)カスタムカー雑誌の編集長をやっておりました。
現在は、WEBメディアをメインに紙媒体を少々、車選びやお役立ち情報、自動運転などの最新テクノロジーなどを中心に執筆しています。元々好きなバイクや最近気になるドローンなどにも進出中!
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