ヤマハ発動機がヘリを使った森林計測ビジネスに挑むのは「人のため」

■ヤマハグループが目指すものは「人のため」

ヤマハと言えば、楽器、音楽教室、ゴルフクラブ、ゴルフカート、バイク、船、トヨタ2000GTのエンジンなどを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか?

ヤマハ発動機の無人ヘリコプター「FAZER R G2」
ヤマハ発動機の無人ヘリコプター「FAZER R G2」

ブランドとしてはどれもYAMAHAですが、音楽に関するものはヤマハ株式会社のものであり、主に動くものはヤマハ発動機株式会社のもので、上記例では楽器、音楽教室、ゴルフクラブはヤマハ関連の管轄。バイク、船、ゴルフカート、トヨタ2000GTのエンジンはヤマハ発動機関連の管轄です。ヤマハ発動機は主に農薬を撒くなどの農業用無人ヘリコプターも手掛けています。

とは言え、発祥は同じで、発動機、つまりバイク部門は楽器のヤマハから分社したものですし、ゴルフクラブとゴルフカートなど、関連するものもあるわけです。ちなみに両社とも音叉のマークをロゴに使ってますが、興味ある人は間違い探しのように違いを見つけてください。

楽器から始まったヤマハが、戦時中はその木工技術を買われ、零戦用木製プロペラを発注されたことからもわかるように、木とヤマハは密接に関わり、歴史を刻んでゆくわけです。

●日本の森林維持管理に大きな問題が

そして話は飛びますが、2018年「森林経営管理法」が可決、成立し、2019年に施行されます。森林の所有者は森林をきちんと管理、手入れしなければならないというもの。そのような制度ができるということは、つまり日本の森林の管理が充分に行き届いていないということ。国土の7割もが森林という、世界中でも稀な森林割合を持つ日本において、これはよくありません。なぜ、そのようになったのかは、維持するための人手不足や、産業としての資産価値の把握が正確にできていないなどが考えられます。

こうした現状を解決へと導くべく、ヤマハ発動機は森林計測サービスを開始しました。

計測した森林データの解析ツール画面
計測した森林データの解析ツール画面

農薬散布などで長年の実績がある無人ヘリコプターを使用し、車両の自動運転化へも不可欠といわれるLiDAR(ライダー)を応用して森林の状況をレーザ計測。結果として、山の中にどれくらいの太さのどんな木が何本立っているのかをデータ化します。立ってる木の1本ずつをスギなのかヒノキなのかなどを判別して大きさとともに記録していくのです。

飛行機で計測するのでは直上からの計測で木の太さを測るのは難しい、ドローンでは連続飛行時間が短く重たい計測器が搭載しくい、などの条件がヤマハの無人ヘリには有利となります。

そのヘリコプターは、もちろんヤマハ「FAZER R G2」。バイク用を流用したのではない水平対向2気筒、排気量390ccのガソリンエンジンを搭載し、連続100分の飛行が可能で、重さ10kgほどのLiDAR本体や、確認用デジタル一眼カメラなどを装備しています。

ちなみにヘリコプターは動力の回転数を一定にし、プロペラの角度(ピッチ)を変えることで上昇する力を調整したり、機体を傾けることで前後進、旋回などを行います。これに対してドローンは、複数のプロペラの回転数を細かく制御することで推進力などの動きを変化させます。エンジンではそこまで瞬時に回転数の速度調整をすることが苦手なので、電動ヘリはあっても、エンジンドローンは一般にはあまりないのです。

ヤマハ発動機の無人ヘリコプター「FAZER R G2」
ヤマハ発動機の無人ヘリコプター「FAZER R G2」
水平対向2気筒、390ccのガソリンエンジン
FAZER R G2の水平対向2気筒、390ccのガソリンエンジン
自動航行に用いるカメラ部分
自動航行に用いるカメラ部分


離発着はオペレーターによりますが、一旦飛び立つと決められた森林を自動で飛行、計測して戻ってくるそうです。

精密な測定に不可欠なLiDAR本体
精密な測定に不可欠なLiDAR本体

LiDARからは1秒間に75万回、1平方メートルあたり3000〜4000のレーザを発し、斜めから照射することで反射してしまう葉っぱをすり抜けたレーザの一部が幹の太さを測定。木の体積も計測できて、木材としての資産価値も算定できるというわけです。1日の計測面積は最大で100hαだそうです。

●「人の役に立つ」サービスを

ヤマハ発動機株式会社 技術・研究本部NV・技術戦略統括部森林計測部部長 加藤薫氏
ヤマハ発動機株式会社 技術・研究本部NV・技術戦略統括部森林計測部部長 加藤薫氏

このようなサービスをすることになったのも、法律ができたからでも、既存の無人ヘリコプターを使った新たなビジネスをひねり出したからでもなく、「人に役立つサービス」を考えていたらこうなったのだとのことなのです。

人手不足である林業は、国産材の価格下落、危険できつい作業など、担い手が減り続けた産業ですが、それを手助けして、国土の7割の森林を健全に保って欲しいという願いからの新規事業だそうです。

また、間伐することで森林のCO2吸収量は増加し、J-クレジット制度(省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用によるCO2等の排出削減量や、適切な森林管理によるCO2等の吸収量を「クレジット」として国が認証する制度)への活用も考えられるといいます。

人のため、国のため、地球のために考えることは、すべてが点が線で繋がっていき、やがては面になる。レーザによる森林の計測方法に似てますね。

さらに今回、データを渡すだけでなく、ユーザー自身がそのデータを使いやすいようなソリューションもリリースされることとなりました。

ヤマハ株式会社では、ピアノ以外にもギターやバイオリンなど多くの木製楽器を作っています。その中でもハイクラスなものは国内の木材を使うそうで、そのために森林を管理しており、このヤマハ発動機の森林計測サービスをお客さんとして利用しているのだそうです。

楽器から始まった木工技術によって飛行機のプロペラを作り、エンジンを載せたバイクが世界中の人を楽しませ、森を守る技術でまた楽器が作られる。

ヤマハグループのやっている営みも、色なことをバラバラにやっているようで、実はどこかで繋がっている。不思議なようにも思えますが、私達の生活というのは案外そういうものなのかも知れませんね。

(小林和久)

この記事の著者

小林和久 近影

小林和久

子供の頃から自動車に興味を持ち、それを作る側になりたくて工学部に進み、某自動車部品メーカへの就職を決めかけていたのに広い視野で車が見られなくなりそうだと思い辞退。他業界へ就職するも、働き出すと出身学部や理系や文系など関係ないと思い、出版社である三栄書房へ。
その後、硬め柔らかめ色々な自動車雑誌を(たらい回しに?)経たおかげで、広く(浅く?)車の知識が身に付くことに。2010年12月のクリッカー「創刊」より編集長を務めた。大きい、小さい、速い、遅いなど極端な車がホントは好き。
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