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■最大荷重240t、全長30m以上の巨大なシキ611
2022年8月5日(金)〜7日(日)に、川崎貨物駅から南松本駅まで特大貨物列車が運転されました。
特大貨物列車とは、重量級の変圧器などを大物車で輸送する列車。走行速度が非常に遅いため深夜に運転しています。そのため8月6日(土)の日中は、八王子駅の構内に大物車シキ610形611号(以下シキ611)が留置されていて、鉄道ファンはもちろん、道行く人も立ち止まってスマホで撮影していました。
今回の特大貨物は、川崎市にある東芝エネルギーシステムズから出荷した変圧器を、長野県内の変電所に輸送するために運転しました。
今回、輸送した変圧器の重さは165t。現在、この重さの変圧器を積載することができる貨車はシキ611だけです。
●シキ611の積載方式は吊り掛け式
大物車は積載する貨物の形状や大きさ、重さによっていくつかの積載方法があり、大型の変圧器を積載するシキ611は吊り掛け式という積載方式を採用しています。
シキ611の車体には、変圧器を吊り掛ける梁が搭載されています。この梁の形がくちばしに似ていることから、ドイツ語でくちばしを意味するシュナーベル式とも呼ばれています。
変圧器は前後の梁で挟み込んで積載します。梁の下部にあるヒンジで変圧器を固定すると、変圧器の重さによって梁の上部が変圧器に押しつけられる構造で、積載状態では前後の梁と変圧器が一体となっています。
東芝・日立製作所・富士電機製の変圧器のヒンジ形状に対応したB1梁の最大荷重は240tで、これは現在国内の貨車で最大です。かつてはシキ700形の最大荷重280tが国内最大でしたが1982年に引退しました。なお、 シキ611は軸重を軽減するため3軸台車を8個装着し、合計24軸としています。
積載時の最高速度は45km/hに制限されていて、本線を走行する場合は旅客列車に影響を与えない深夜が基本となっています。空荷の時は前後の梁を連結し、この状態では最高速度75km/hで走行することができます。
吊り掛け式の大物車は引退が進み、現存するのはシキ611ともう1両、シキ800形801号(以下シキ801)の2両だけとなりました。
シキ801はB1梁と三菱電機製の変圧器に対応したB2梁、そしてB2梁に落とし込み積載用の横梁を加えたC梁に対応しています。最大荷重はB1梁で155t、B2梁で160t、C梁で140tとなっています。
シキ801はシキ611よりはやや小ぶりですが、それでも特大貨物の迫力は充分です。
●最高速度15km/h。変圧器を輸送するシュナーベル式トレーラーにも注目
8月7日(日)早朝に南松本駅に到着した特大貨物列車は、変圧器をシュナーベル式トレーラーに積み換えた後、深夜に最終目的地に運ばれました。シュナーベル式トレーラーはシキ611の自動車版。変圧器の前後をトレーラーとトラクターが挟み込んでいて、全長は33.38mと巨大かつ特異な姿となっています。
今回は南松本まで行けなかったので、2014年11月に横浜線橋本駅から変圧器を輸送したシュナーベル式トレーラーを紹介したいと思います。
240型シュナーベル式トレーラーは、ダブルタイヤ20組を履いた台車の上にトラクターと連結するジョイントが載り、さらにその上にシュナーベル式の梁が載る構造になっています。タイヤは2組単位でリモコンでの操舵が可能で、最小回転半径は23.5mと表記されています。
変圧器の積載方法はシキ611と同じく吊り掛け式で、梁の下部のヒンジで固定して梁の上部で変圧器を挟み込みます。
トラクターはメルセデス・ベンツ・アクトロスB4850。4軸総駆動で、型式の上2桁の48は車重48t、下2桁の50は最高出力500psを表すそうです。
このトラクターを前後に連結して変圧器を運びます。非常に特異な形態ですが、そのおかげで鋭角な交差点では、前後に方向転換することで容易に通過することができます。
積載時の最高速度は15km/h程度。さらに規格外の大きさなので、公道を走るのは深夜帯となり、さらに先導車も入り、交通整理をします。
なお、トラクターはシュナーベル式トレーラー専用ではなく、単独で他のトレーラーの牽引もします。
変圧器のメーカー期待寿命は30年程度と言われていますが、負荷が少ない場合は50年以上使用するケースもあるそうです。しかし、更新時期に入っている変圧器も多いと言われています。
とは言え、輸送する頻度は決して高くはありません。しかも輸送自体は深夜帯なので、ますます見られるチャンスは限定されてしまうので、見られたらラッキーだと言えますね。
(ぬまっち)