ホンダ新型シビックは、大きくなったボディを感じさせない軽快な走りが気持ちいい!

■ホンダとは:戦後に創業されたメジャー系でもっとも若いメーカー

いきなりですが、「ホンダ」はブランド名で、正式社名は「本田技研工業」です。最近のホンダは「Honda」を使っていることが多く見られます。

創業は戦後間もない1948年になりますが、1946年には創業者である本田宗一郎が本田技術研究所を設立、1947年にはA型自転車用補助エンジン生産開始しています。スバルの前身にあたる富士重工は1953年の創業となっていますが、そのルーツは1917年に設立された中島飛行機にありますので、日本のメジャー乗用車メーカー8社中でもっとも若い会社とも言えます。

創業当時のホンダは町工場で、自転車用の補助エンジンを製造する会社でした。創業10年目には今も販売されている二輪車のスーパーカブの販売を開始、1963年には最初の四輪車となる軽トラックのT360を発売します。

時代が少し前後しますが、1959年にはイギリスのマン島で行われているTTレース(二輪)に初挑戦、1961年には125ccクラス、250ccクラスで1位から5位を独占し、その技術力の高さを世界に知らしめます。1962年には三重県に鈴鹿サーキットを建設、1964年にはF1に参戦、翌1965年には初優勝を遂げます。

二輪車、四輪車、農耕用などの汎用品、船外機などに加え、アシモに代表されるロボット開発、ホンダジェットと幅広い分野でその技術力を発揮。2021年には宇宙事業に参入することを発表するなど、つねに新しいものに挑んでいく企業体質が特徴的です。

●シビックとは:2022年に50周年を迎えたロングセラー

シビックは1972年に初代モデルが販売された、ホンダを代表するモデルです。初代のシビックは1.2リットル4気筒からスタートしたコンパクトな2ドアモデルでした。全長×全幅×全高は3405×1505×1325mmですから、現代の軽自動車とほぼ同じ大きさで、もっとも軽いモデルの車重はわずか600kgでした。

初代シビックはデビュー時には通常燃焼のエンジンを搭載していましたが、すぐにCVCCと呼ばれる希薄燃焼エンジンに置き換えられました。このCVCCエンジンは、1970年にアメリカで発行されたマスキー法(排出ガス規制法)を初めてクリアしたエンジンとして世界中から注目を浴びました。マスキー法はその排出ガス中の有害成分を規制する法律ですが、その規制値の厳しさから達成不可能と言われていただけあり、ライバルメーカーはかなりの脅威を感じたはずです。

その後、シビックは2000年に登場する7代目までは5ナンバーサイズを維持しますが、2005年登場の8代目からは3ナンバーサイズとなります。9代目は日本に未導入(タイプRのみ限定導入)で、現行モデルは11代目に当たります。日本での発売にはブランクがありますが、グローバルでみれば11代・約50年に渡り続いている大ヒットモデルです。現在の累計販売台数は2700万台(グローバル)を超えています。

●新型シビックの基本概要:1.5リットルVTECターボを搭載する5ドアハッチバック

シビック フロントスタイル
11代目となる新型シビック。ワイド&ローの端正なスタイリング

新型シビックは、先代のプラットフォームをベースにホイールベースの延長を行うなどしてリフレッシュ。新たにホンダアーキテクチャーと呼ばれる思想を取り入れたモデルとなりました。ホンダアーキテクチャーとは、車種間での仕様やパーツの共通化を進めることで、高い基本性能を低コストで得られるようにする手法です。

新型シビックのボディタイプは5ドアハッチバックのみで、搭載されるエンジンは1.5リットルのVTECターボで最高出力は182ps/6000rpm・最大トルクは240Nm/1700-4500rpmとなります。

駆動方式はFFのみで、ミッションはマニュアルモード付きのCVTに加えて、6速MTも用意されます。先代モデルからプラットフォームを受け継いだこともあり、サスペンションはフロントがストラット、リヤがマルチリンクです。

装備面でもっとも進化したのは、ホンダコネクトの搭載です。ホンダコネクトはホンダeから始まった新世代のコネクテッド技術で、ナビゲーションマップの自動更新、リコモンエンジンスターター機能、スマートフォンによるドアロック施解錠やエンジンスタート、車内Wi-Fi、万が一の際の緊急サポートセンター通報など通信を利用したさまざまなサービスが利用できます。

●新型シビックのデザイン:6ライトウインドウを採用した伸びやかなサイドビュー

新しいシビックはホイールベースを35mm延長しています。このためでしょう、ホイールベースが長いクルマで採用例が多い、リヤにクォーターウインドウを設ける6ライトウインドウデザインが採用されています。サイドからクルマを見ると、先代に比べ25mm下げられた低いボンネットからリヤに向かうラインはフロントウインドウ部分でグッと立ち上がり、その後は流れるようにリヤエンドまで一気にスムーズに流れていきます。

最近のクルマは歩行者との衝突時の安全確保のためにボンネットを高く設定する傾向がありますが、新型シビックでは衝突時にボンネットを跳ね上げて衝撃を吸収するポップアップボンネットを採用することで、このデザインを実現しています。

ハニカムパターンを採用するグリルと細目のヘッドライトの組み合わせで、精かんな顔付きを実現、リヤにはCIVICの「C」をモチーフとしたリヤコンビランプがあしらわれます。

インテリアに目を向けると、ホンダらしく広々と視界が開けたウインドウに、グリルと共通性を感じるハニカムパターンのエアコン吹き出し口が特徴的です。各種パネル類、スイッチ類も高級感にあふれるもので、シビックの上級シフトを感じさせます。

●新型シビックのパッケージング:ホイールベース、全長ともに延長

新型シビックは先代に比べてホイールベースを35mm延長、ボディ全長を30mm延長しました。リヤのオーバーハングは20mm短縮されましたが、フロントオーバーハングは15mm延長となりました。ホイールベースが延長されたことも手伝って、前後のシートディスタンスは35mm拡大されました。全幅は先代モデル同様の1800mmですが、リヤのトレッドは15mm広げられています。

全高は20mm下げられました。リヤドアヒンジ付近ではさらに50mmと大幅に低くなっていますが、インナールーフの形状の見直しによって室内空間の圧迫は解消されています。

リヤオーバーハングが減らされたにもかかわらず、ラゲッジルームの容量は32リットル拡大されクラストップレベルの425リットルを確保しています。トノカバーは横方向に巻き取るタイプで、リヤシートを前倒しにした際にも邪魔にならないようになっています。

●新型シビックの走り:ホンダエンジンらしい軽快な走り

率直に言ってじつに素晴らしい走りです。ホンダが作ったクルマなのでエンジンには相当の期待をしていましたが、期待以上の素晴らしさ。本当にホンダらしいエンジンに仕上がっています。

シビック 走り1
軽快な走りを披露するシビック

基本はL15エンジンのVTECターボなので先代のシビックハッチなどと同系列となりますが、かなり緻密なチューニングが施されているフィールです。先代ではMTとCVTで異なるトルクカーブとなっていましたが、新型では同一のカーブを得ています。わずか1700回転で最大トルクを発生するため、発進からトルク不足を感じるようなことはありません。

高剛性のクランクシャフトやオイルパンを使ったからでしょう、エンジン全体がしっかりしている印象です。アクセルの踏み込み量に対して期待通りのトルクを発生してくれるのはもちろんなのですが、なによりも吹け上がり感の気持ちよさがバツグン。ターボなのにNAっぽい、NAなのにターボっぽい…、つまりどちらのよさも合わせも持っているフィーリングで、これは吸排気両方に可変吸気バルブタイミング&リフトのVTECを装着するとともにターボの設定を変更し、よりレスポンスのいい過給を得られるようにした結果でしょう。

シビック エンジン
吸気、排気ともにVTECを採用。ターボのコンプレッサーに当たる排気の向きを変区することでレスポンスアップを実現

ハンドリングに関してもスポーティで申し分のない気持ちよさです。ホイールベースを延長してくとキビキビさがなくなっていくものなのですが、シビックはホイールベースを延長しつつ、つねにキビキビさを失うことなく、進化させてきたところが素晴らしい部分です。

今回の試乗では、かなりタイトでピーキーなワインディングも走りましたが、ホイールベースが2735mmもあるモデルに乗っているという印象はありません。それでいて素晴らしいのは高速道路で巡航走行に入ると、この長いホイールベースを生かしたゆったりとした乗り心地を実現している部分です。

唯一残念なのはリヤのサスペンションまわりからのノイズの進入が多いことで、リヤシートに乗っているとそのノイズが気になってしまいます。

シビックタイヤ
タイヤは235/40R18サイズ。装着銘柄はグッドイヤーのイーグルF1であった

シビックはこのクラスとしては珍しくMTモデルを用意しています。2021年10月8日に発行されたホンダのニュースリリースによれば、発売(9月3日)から10月7日の約1ヵ月の期間で、月間販売計画台数の1000台の3倍以上となる3000台超の注文を受けているとのこと。そのうち6MTが35.1%だというのだから驚き。しかも20歳代が23.9%ともっとも多いというのもこれまた驚きです。

シフトメカ
小気味よい操作を可能にしているMTの構造

そのMTのシフトフィールもかなり気持ちいい。シフトストロークもちょうどいい短さで、適度なクイック感があります。クラッチペダルの踏力も軽すぎず、重すぎずで、正確な操作が可能です。クラッチペダルが軽すぎると、ミートタイミングがわかりにくくなりがちなのですが、シビックのクラッチペダルはちょうどいい踏力でミートタイミングもわかりやすいフィールです。

●新型シビックのラインアップと価格:スタートは300万円強、CVTとMTは同価格

新型シビックは標準グレードのLXと上級グレードのEX、2グレードです。LXは319万円、EXは353万9800円で、それぞれにCVTとMTがありますがミッション違いによる価格差はありません。LXとEXの価格差は34万9800円です。

EX装備されとLXに未装備となる装備は次のようになります。
・アダプティブドライビングビーム
・LEDフォグランプ、LEDアクティブコーナリングライト
・フロントパワーシート
・10.2インチデジタルグラフィックメーター(LXは7インチ)
・プラズマクラスターエアコン
・リヤベンチレーション
・ワイヤレス充電器
・プライムスムース×ウルトラスエードコンビシート(LXはプライムスムース×ファブリック)
・ブラック&レッドシート(LXはブラック)
・レッドステッチステアリング&セレクトレバー(MTのシフトノブともにブラック)
・EX専用インテリア(ブラックスムースのドアライニングセンターパッド、ヘリボーンブラックのパワーウインドウスイッチパネル、シルバー加飾メーターバイザー)

ボディカラーは全5色で、クリスタルブラックカラーのみが標準色。プラチナホワイト・パール、ソニックグレー・メタリックの2色はプラス3万8500円、プレミアムクリスタルレッド・メタリックと、プレミアムクリスタルブルー・メタリックはプラス6万500円となります。

 

〈以下2022年7月19日更新〉

■シビック生誕50周年で生まれた「e:HEV」が登場

●シビックe:HEVの基本概要

シビックe:HEV
追加になったハイブリッドモデルのe:HEV

2022年6月30日に新たに、ハイブリッドモデルとなる「シビックe:HEV(イーエイチイーブイ)」が追加されました。シビックにハイブリッドモデルが設定されたのは2000年からスタートした7代目、2005年からの8代目、2011年からの9代目の3世代です。ただし、9代目のハイブリッドモデルは日本には導入されていません。

シビックe:HEV
搭載されるパワーユニットは2リットルエンジン+モーターのハイブリッド

現行シビックに採用されたハイブリッドシステムは、アコードのハイブリッドを進化させたもの。エンジンは2リットル直列4気筒のアトキンソンサイクルで、最高出力は141馬力、最大トルクは182Nm。組み合わされるモーターの最高出力は184馬力、最大トルクは315Nmです。バッテリーとPCU(パワーコントロールユニット)を接続するケーブルは従来の銅撚線からアルミ撚線に変更、銅撚線に比べて36%の軽量化を実現しています。

●シビックe:HEVのパッケージング

シビックe:HEV
バッテリーはリヤシート下に配置される

基本的なパッケージングは、エンジンモデルと同一です。バッテリーはリヤシート下に収められます。ラゲッジルーム容量は21リットル少ない404リットルとなりますが、見た目には大きな違いは感じませんし、9リットルゴルフバッグ3個の搭載も可能にしています。

シビックe:HEV
見た目はエンジン車と変わらないが、21リットルだけ容量が減っているラゲッジルーム

●シビックe:HEVのラインアップと価格

e:HEVの価格は394万200円で、ほぼ同じ装備となるガソリンエンジンモデルのEXに比べて40万400円高となります。

e:HEVグレードの装備は、基本的にEXと同様です。e:HEVが追加された以前に、EX専用インテリアと呼ばれていたブラックスムースのドアライニングセンターパッド、ヘリボーンブラックのパワーウインドウスイッチパネル、シルバー加飾メーターバイザーのセットは、EXとe:HEVともに装備されます。e:HEVはエアコンが電動コンプレッサー式となるほか、ヒーターもPTCタイプとなります。また、アイドリングストップは装備されず、10.2インチデジタルグラフィックメーターはe:HEV専用タイプとなります。

シビックe:HEV
シビックカラーバリエーションとオプション価格 ※初回掲載時、プレミアムクリスタブルー・メタリックを¥38,500と掲載しましたが、¥60,500の間違いでした。お詫びして訂正します(2022年7月19日)

ボディカラーはクリスタルブラック・パールのみが標準色で、そのほかは有料オプションとなります。プレミアムクリスタルレッド・メタリックとプレミアムクリスタルブルー・メタリックが6万500円高。プラチナホワイトパールとソニックグレーパールが3万8500円高となっています。

●シビックe:HEVの走り

シビックe:HEV
フラットで見切りのいいダッシュボードはガソリンモデル同様。モニターやメーターがガソリンモデルとは異なる

1.5リットルVTECターボは俊敏で快適な走りを披露したシビックですが、今回追加されたハイブリッドモデルは基本的な走りの性格は同じで、1段階上のクラスにアップしたという印象です。

試乗前にエアコンの静粛性まで気を使ったということを聞かされていたのですが、なるほどそのとおりで、駐車場でクルマを動かす際などのEVモードで走るときの静粛性はかなり高いものです。

シビックe:HEV
ATセレクターはボタン式となる。基本設計は従来どおりだが、ボタンの触感(表面形状)を変更している

シビックe:HEVには「ECON」「NORMAL」「SPORT」、INDIVIDUAL」の4つのドライブモードがあります。「INDIVIDUAL」はユーザーが自分好みの設定を行えるモード。基本は「ECON」モードで燃費を重視して走ればいいでしょう。

シビックe:HEV
各走行モードの組み合わせ。出力特性は3種、ステアリング特性は2種が用意される

「ECON」モードで一般道を流すように走ると、若干アクセル操作に対する反応がもっさりした感じとなりますが、これでガソリンが節約できているのだなと思えば納得できるでしょう。

「NORMAL」はまさにノーマルで普通に走れてしまうモード。上り坂などでもっさり感があるのはイヤだ、という人はこちらがいいでしょう。

シビックe:HEV
e:HEVモデルは「H」のエンブレムが前後ともにブルーベースとなる

シビックらしいシャープな走りができるのは「SPORT」です。「SPORT」にするとメーターやディスプレイが赤くなり、ちょっとアドレナリン分泌を促す感じのインテリアに変わります。さらに、スピーカーからはエキゾーストノートを再現した効果音が響きます。現代の規制では、実際に排気音を大きくしてしまうと車外騒音規制をクリアできないので、こうした手法が採られます。まぎれもないギミックなのですが、これがまた気持ちいいのです。

シビックe:HEV
e:HEVモデルはリヤハッチ右側に「e:HEV」のエンブレムが装着される

どのモードでもアクセル開度が70%を超えるとパワーカーブは同一となるので、必要とあらば力強い加速を得られますが、ワインディングを走るなら「SPORT」でしょう。

そのワインディングでこそ、シビックの性能の高さがうかがい知れるシチュエーションです。5ドアのハッチバックモデルらしく、ステアリングを切り込んだ瞬間の動きはゆったりめですが、その先にしっかりとグリップを発生させ、ぐんぐんグリップしていくところはさすがホンダのサスペンションという印象で、タイヤを上手に接地させている感覚があります。バッテリーの搭載で重量は重くなっていますが、重心は低くなり、その効果も上手に発揮されている印象です。


●シビックのまとめ:SUVにはないハンドリングや運転のしやすさが魅力

シビック走りイメージ
ボディの大きさを感じさせない軽快な走りを披露するシビック

世界的にSUVが自動車販売の主流となってきて、もはやクルマの基本型はセダンではなくSUVといってもいい様相です。その理由は、対歩行者に対する安全性を確保するにはボンネットを高い位置に配置しなくてはならなかったり、ハイブリッドやEVへの発展を考えると、バッテリーが搭載しやすいボディ形状にしなくてはならなかったり…といったさまざまです。

シビックe:HEV
シビックe:HEV主要諸元
シビック 諸元
新型シビック主要諸元

しかし、そうしたなかでもセダンや5ドアハッチバックの車型がもたらす運転のしやすさや、素直なハンドリングがまったく求められていないわけではありません。シビックはそうしたクルマを求める人々の求める性能をしっかりと盛り込んだことで、ふたたび見直されていようとしています。

特に、燃費もよくてワインディングではハンドリングも楽しめるというシビックe:HEVは、高いユーティリティ性能も備えるマルチユースモデルいえるでしょう。

2モーター式のハイブリッドは、モーター走行、ハイブリッド走行、エンジン走行のそれぞれのいい部分を引き出せます。通常のハイブリッドモードではエンジンで発電、モーターで駆動というシリーズハイブリッドですが、駆動力が大きく欲しいときにはエンジンの駆動力にモーターの駆動力をプラスするパラレルハイブリッドとなります。そして、減速時には回生ブレーキを使えるのも大きな利点だといえます。

(文:諸星 陽一/写真:諸星 陽一、小林 和久)

この記事の著者

諸星陽一 近影

諸星陽一

1963年東京生まれ。23歳で自動車雑誌の編集部員となるが、その後すぐにフリーランスに転身。29歳より7年間、自費で富士フレッシュマンレース(サバンナRX-7・FC3Sクラス)に参戦。
乗って、感じて、撮って、書くことを基本に自分の意見や理想も大事にするが、読者の立場も十分に考慮した評価を行うことをモットーとする。理想の車生活は、2柱リフトのあるガレージに、ロータス時代のスーパー7かサバンナRX-7(FC3S)とPHV、シティコミューター的EVの3台を持つことだが…。
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