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■ゲストにラトバラ選手を迎え、MORIZO選手も走り水素燃料の可能性を見せた
●富士スピードウェイ内に開設のROOKIE Racingガレージで記者会見
6月3日(金)~5日(日)に富士スピードウェイで開催のENEOSスーパー耐久シリーズ2022 Powered by Hankook 第2戦 NAPAC 富士SUPER TEC 24時間レース。
予選日である6月3日の予選終了後、富士スピードウェイに隣接した場所に建設されたROOKIE Racingの新ガレージにて、ROOKIE RacingやTOYOTA GAZOO RACINGのカーボンニュートラルへ向けた活動についての記者会見を行いました。
ROOKIE Racingとは元々、GOODSMILE RACINGでグッドスマイル 初音ミク AMGの片岡龍也選手が2017年に立ち上げたスーパー耐久のチーム「T’s CONCEPT」の一台で、そこにプライベートで参加していた豊田章男社長の息子、大輔氏とともに2018年の最終戦岡山でMORIZO選手こと豊田章男社長が合流し参戦。
2019年には「ROOKIE Racing」として、MORIZO選手が自費でチームに寄付したトヨタ86でフル参戦し、2020年は豊田章男社長のプライベートチームとして前年から継続するスーパー耐久とTeam Lemanから引き継いだSUPER GT、スーパーフォーミュラのチームとして活躍するに至ります。
2020年のスーパー耐久ではGRヤリスの発売日となる週末に行われた富士24時間レースでROOKIE Racing GR YARISで参戦しポール toウィンを果たしています。
そして、2021年は第2戦よりカーボンニュートラルの選択肢として開発をする水素エンジンを使っての参戦をするなど、チャレンジングな活動に取り組んでいます。
特に水素エンジンを使ったORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptは、初参戦が昨年のNAPAC 富士SUPER TEC 24時間レースということもあり、参戦から1年での総括を発表。航続距離約20%向上、出力約20%向上、トルク約30%向上、そして水素充填時間は約5分から1分半まで短縮という開発の成果を上げています。
●水素カローラの次なる一手は液体水素
また、水素自体も様々なパートナーの協力により、太陽光由来、褐炭由来、下水バイオマス由来と様々な製造方式で作り出され、それを輸送するトラックもバイオディーゼルや燃料電池などの動力源で、製造から運搬、利用といった「つくる、はこぶ、つかう」のあらゆる分野でカーボンニュートラルとなる施策を取っています。
この水素カローラ、ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptのスーパー耐久参戦を取り巻く環境を、TOYOTA GAZOO RACINGの佐藤プレジデントは富士山登山に例えて、「水素エンジンの実用化に至る道のりは、今現在は4合目」としています。
水素カローラの次なるステップは液体水素の活用と言われています。
現在の気体水素から液体水素に変更すると水素の密度が800倍となり、航続距離が飛躍的に伸びるほか、水素充填の設備が極端に小型化され、現在の気体水素ではパドックのかなりの面積を占有してしまう水素充填設備が、ピットとそのバックスペースでまかなえてしまうほどとなります。
水素を液体の状態を保つためには-253度(20°k)という極低温にする必要があり、液体水素運搬コンテナからクルマの液体水素タンクへの充填に使われるチューブでいかに低温に保たせるかが課題となっていましたが、そのチューブを魔法瓶と同じ構造とすることで解決できるようになったとのこと。
この液体水素のスーパー耐久での活用が今シーズン中に行われるかどうかはまだ未定ですが、これが実現すれば1時間に2~3回行われていた水素充填が1時間30分に1回程度となり、水素充填にかかる時間は1分にも満たないほど。つまり、水素エンジンのレーシングカーがガソリンエンジンのレーシングカーと互角に戦えるようになるということになります。
TGRの佐藤プレジデントは、「スーパー耐久で水素エンジンの開発をしているからこそ、様々なパートナー企業がアイデアを持ち寄ってくれるので開発のスピードが段違いで早まっています。特に液体水素の充填システムはパートナーあってこそできることです」と語っています。
●ベース車がGRカローラにスイッチ
ここまでお読みいただいてお気づきの方もいらっしゃると思いますが、水素カローラのベース車両がこの富士24時間レースから変更されています。
出場車名のORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptにもある通り、ベース車は発表されたばかりのGRカローラとなっているのです。バンパーやエアロ類、そして前後の大型化されたフェンダーなどが目を引きます。
またGRカローラにはない装備として、リアに配された大型のルーフスポイラーが目立ちます。過去にはGRヤリスのS耐参戦車両に採用されたスワンネック式のリアスポイラーがGRMNヤリスに装着された事例もあるので、今後はさらなるチューンを施されたGRカローラの市販バージョンが出てくる可能性も否めません。
●幾多のトラブルを乗り越えて富士24時間レースを完走
GRカローラとなったORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptは、24時間レースをどのように戦ったのでしょうか?
今回の富士24時間レースでは大物ゲストドライバーがやってきました。
大物ゲストドライバーとは、TOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamの代表、ヤリ-マティ・ラトバラ氏。WRC世界ラリー選手権の視察に行った豊田章男社長がフォルクスワーゲン時代のラトバラ氏を出待ちしてスカウトした、という曰くつき。
2019年までTOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamのワークスドライバーとして活躍していたラトバラ氏は、水素カローラに乗ってみたいと豊田章男社長に打診したところ、だったら富士24時間レースに出よう、ということになったということで参戦が決まったとのこと。しかし昨今のご時世、検疫などの手続きで入国にはかなり手間取り、水素カローラの初ドライブはレースウィークになってからというぶっつけ本番状態となりました。
そんな大物ゲストも参加してのORC ROOKIE GR Corolla H2 concept。スタートドライバーを務めたのはMORIZO選手こと豊田章男社長。快調なスタートを切って周回を重ねていきます。
概ね2分5秒程度でラップタイムを重ねていくORC ROOKIE GR Corolla H2 concept。現状は気体水素を使用しているために航続距離は50km前後。そのため富士スピードウェイでは20分に1度の水素充填が必要となります。
頻繁に水素充填を行う必要があるために、速くなったラップタイムの割には周回数が伸びていないという状況となります。
また、水素カローラの弱点としてはインジェクションがあげられます。このインジェクションを1回から2回交換せざるを得ないというのが現在の状況。昨年はかなり頻繁にインジェクション交換を行っていたイメージがあるので、それだけでも大進歩と言えるかもしれません。
日付が変わるころに予定されていた1回目のインジェクション交換がその前に行うことになったのも、想定の範囲内であったとのことです。
水素充填などで20分前後に1回のピットインが行われながらも順調にラップを重ね、ナイトセッションも終わりに近づく6月5日の朝4時50分頃、コカ・コーラコーナーで接触があったらしく、緊急ピットイン!
その後、フロントバンパーを交換してレースに復帰しますが、この時の接触がペナルティとなり60秒のペナルティストップが科せられることになります。
フロントバンパーが黒くなってはいますが、ペナルティストップも消化し、その後は順調にラップを重ねていくORC ROOKIE GR Corolla H2 concept。
24時間を走り切っての周回数は478周で、前回の富士24時間の368周から、なんと110周も周回数を増やしてのフィニッシュとなりました。
1年間の積み重ねが結果として、周回数としてはっきりとした形で示された富士24時間レースでの水素カローラ、ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptのチャレンジ。
このチャレンジがきっかけで、GR86とSUBARU BRZのカーボンニュートラル燃料対決やマツダのバイオディーゼルでの挑戦が生まれ、また水素を取り巻く多くのパートナーがチャレンジに協力していきます。
まさに「意志ある情熱」がカーボンニュートラル社会の実現を、モータースポーツ発信で広がっていく様を今、目の当たりにしているのです。
(写真・文:松永 和浩)
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